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EV大戦国時代 市場死守の大手 下克上狙う新興勢 中国勢も虎視眈々

産経新聞 5/19(金) 12:35配信

 電気自動車(EV)が大戦国時代に突入した。世界的な環境規制強化の動きに呼応する形で急拡大している市場をめがけて、大手自動車のみならず、ベンチャー企業も続々と参戦、新旧メーカーが覇を競う乱戦状態にあるからだ。蓄積した技術力やブランド力でEVでも市場占拠をもくろむ大手と、低コストやデザイン性など異なる価値で下克上を狙う新興勢力を交えた市場争奪戦は激化の一途だ。

 大手自動車メーカーの中でも、EV強化の旗幟(きし)をひときわ鮮明にしているのがドイツのフォルクスワーゲン(VW)だ。2025年までに30車種以上のEVを市場投入し、年200万~300万台を販売する計画を掲げる。VWはディーゼルエンジン車の規制逃れ問題を受けEV強化に舵を切っており、規制強化が強まる中国を「第一」(マティアス・ミュラー社長)に、売りまくる方針だという。

 日系大手自動車でも本格参戦表明が相次いでいる。

 エンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HV)を主力としてきたトヨタ自動車は20年度をめどにEVに本格参入する。すでにEVの開発を担う豊田章男社長直轄の組織「EV事業企画室」を設置。さらに電動化技術の基礎システムに関わる研究者数を約3割増やし、EVを次世代の環境対応車の柱の一つと位置付け、開発を加速させる。

 日系大手ではホンダも年内に米国で中型セダンEV「クラリティ エレクトリック」を発売し再参入。マツダは19年度、SUBARU(スバル)も21年度の発売を目指して開発を急ぐ。

 1回の充電で走れる距離を伸ばし使い勝手を高めた車両の投入も相次ぐ。日産自動車は27年末に、フル充電で従来より約50キロ長い280キロを走れる改良型の「リーフ」を投入。米ゼネラル・モーターズ(GM)は昨年、米国で発売したEVで充電1回当たりの走行距離約383キロを実現し、ドイツBMWも昨年売り出した小型EVで390キロもの走行距離を達成した。

 日産の西川広人社長はEV事業について「業界よりペースを上げて(対応車種を増やし)先を行きたい」と強調。品ぞろえの拡充を急ぎ激化する競争の勝ち残りにつなげる考えを示す。

 一方で、ベンチャーなど新興勢力も虎視眈々と大手の切り崩しを狙っている。

 筆頭は03年創業の米テスラ。EV事業の拡大期待などから同社の株式時価総額は4月10日に、販売台数で100倍以上の差があるGMを上回り、米自動車メーカーの中で首位に立つ偉業を成し遂げた。テスラは、17年中に、主力セダンに比べ価格を半額程度に抑えた新型EVセダン「モデル3」の生産を始める予定。モデル3はすでにヒットが確実だ。世界の予約台数は昨年3月末の受け付け開始からわずか1週間で32万5000台に達するなど、つくる前から“バカ売れ”が確実な状況にあり、「下克上」の最右翼にいる。

 低コストを武器にする中国系のEVベンチャーや地場企業もあなどれない。

 中国系の新興EVメーカーのファラデー・フューチャーは1月に米ラスベガスで開かれた家電見本市「CES」で初の量産車となる「FF91」の試作車を公開。ファラデーによると、発車から時速60マイル(97キロ)までの到達時間は2.39秒だといい、加速性能では競合するテスラを上回るという。この試作車が低コストで実用化されれば、自動車大手やテスラにとっても大きな脅威となりうる。

 低コストに強みを持つ中国の地場メーカーもEV対応強化が急だ。杭州長江汽車やBYDがEV乗用車の開発を進めるほか、安徽江淮汽車はVWとEVを共同開発することで合意。合弁会社を設立して、VWのノウハウを吸収することで早期開発にこぎつける考え。

 日本でも伏兵が登場している。京都大発のEVベンチャー「GLM」(京都市)だ。同社は国内のベンチャーで初めてEVの量産に成功。19年には想定価格が4000万円のEVスーパーカー「GLM G4」の量産を始め、EV市場に本格参入する。同社最大の特徴は、開発した車台などの基幹部品や開発ノウハウを外部に惜しみなく販売するというビジネスモデル。小間裕康社長は「大手自動車メーカーとは異なるアプローチで存在感を高めたい」と話し、EV市場で独自の地位の確立を目指している。

 EVは、バッテリーの技術革新により1回の充電で走れる距離が数年前よりも大幅に伸びた。中国や欧州各国の排ガス規制強化も契機となり、世界的な普及拡大も時間の問題。民間調査会社の富士経済は35年時点でのEV世界販売台数が、15年比約17倍の567万台に伸びると試算する。将来の業界地図をも塗り替えかえる破壊力をも持ちうるEVめぐる戦いの舞台は、新旧交えた多くのプレーヤーが覇権を競う“群雄割拠”のさなかにあり、生存競争も激しさを増すばかりだ。(経済本部 今井裕治)

最終更新:5/19(金) 12:35

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