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小曽根真さん 僕の音楽を救ってくれた恩師ゲイリー・バートン

朝日新聞デジタル 5/19(金) 19:10配信

 合成写真みたいですが(笑)、違います。24歳の時に、ライブツアーでイタリアに行き、オフにベネチアでゴンドラに乗りました。一緒にいるのは、ジャズ界の巨匠のヴィブラフォン奏者・ゲイリー・バートン。師匠であり、以後30年にわたり共演を重ねることになる僕の恩人です。

【写真】二人の最後の共演が始まる

 この時は彼のバンドに参加して初めてのヨーロッパツアー。僕は最初のアルバムの発売前で、プロのジャズピアニストとして生きていくことを決断したばかり。自分の音楽もわからず何もかも不安だった頃です。

 僕はずっとオスカー・ピーターソンというジャズピアニストに憧れ、彼のような超絶技巧で周囲を驚かせるのが好きでした。バークリー音楽大学に通っていてもプロになる気はなかったんですが、大学を首席で卒業し、音楽プロデューサーのクインシー・ジョーンズにスカウトされたことなどを機にプロデビューが決まりました。当時の心境は「やばい! どうしよう」で、それまで嫌いだったクラシックをたくさん聴いたりして、いろいろともがきました。

 そんな頃にゲイリーが声をかけてくれたんです。僕の演奏を最初に聴いた時は、「この子はテクニックを持て余し、どうしていいかわからないかわいそうな子」と思ったとか。次に、僕があるパーティーのBGMで演奏している時に彼が居合わせ、「なんだ、ちゃんと弾けるんじゃないか」と、僕を教育しようと思ってくれたそうです。

 そして「曲芸的に弾くことが音楽じゃない。お前は自分の音楽を作らねばならない。お前は音楽の心を持っているのに、技巧を見せることばかりで、何もわかっていない。だから俺のバンドに入れ」と言ってくれました。当時、自分の音楽を作る必要性を痛いほど感じていた僕の心にその言葉は響き、二つ返事で了解しました。

 あれは練習が始まってすぐの時。彼のバンドにいた有名なベース奏者スティーブ・スワローの演奏が、僕が待っていた音ではなかったので、僕が先取りして弾いたことがありました。そうしたらすぐにゲイリーから「お前は大学ではスタープレーヤーだったかもしれない。でも、ここにいるミュージシャンはお前よりはるかに経験があり、音楽性がある人ばかりなのだから、余計なことはするな」とすごく怒られました。それからは一つの曲を2セット演奏する際など、1回目が終わると必ず小言と説教。僕のダメなところや、他の人の演奏を邪魔したことなど、細かく指摘してくれました。直らなければ何度も怒られ、うまく弾けたらほめてくれる。そんな日々が1年。徐々に僕は、なんとなくではありますが、手先の技巧ではなく、心で弾くことができるようになっていました。

 実は彼のバンドメンバーは僕の抜擢(ばってき)に大反対だったそうです。それを押し切り、僕の悪い癖を直すために、1年間諦めずに言い続けたゲイリーのエネルギーには本当に感動したし、ありがたかった。その後も共に活動し、僕は音楽ときちんと向き合え、人として成長でき、長く活動できるミュージシャンになれたんです。これからもプレーヤーとしてもがき続けたいし、現在僕が教えている国立音楽大学では、自分がゲイリーにしてもらったように、生徒が自分の音楽を作る手助けができればと思っています。

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おぞね・まこと 1961年神戸生まれ。ピアニスト。83年バークリー音楽大学ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年、米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム「OZONE」で全世界デビュー。「VIRTUOSI」がグラミー賞ノミネート。舞台・映画音楽も手掛けるほか、近年はクラシックにも取り組み国内外の主要オーケストラと共演。平成25年度文部科学大臣賞を受賞。

◆小曽根さんの師匠であるジャズ界の巨匠ゲイリー・バートンのファイナルツアーが5月に幕を開ける。74歳となり、このツアーで第一線を退くことを明言しているバートン。ヴィブラフォン奏者としてグラミー賞を7回受賞し、バークリー音楽大学の副校長として学校の規模拡大に務めたジャズ界のスーパースターだ。その完全引退を前にしたライブが日本で開催される幸運を逃さず、小曽根さんとの珠玉のデュオを聴きたい。「小曽根 真&ゲイリー・バートン ツアー2017 ファイナル」は5月29日の「かつしかシンフォニーヒルズ」を皮切りに山形、大阪、福岡、札幌、松山、東京、神奈川など全国を巡る。

「彼がこれで完全引退すると発表した時の文章がとても穏やかだったので、こちらも冷静に受け止めました、最後のツアーのパートナーに僕を指名してくれたので、とにかく彼の最後のライブの時間をハッピーなものにするために、長年の感謝を込めて演奏したい。かつしかシンフォニーヒルズでの初日は、彼のファイナルツアーという物語がここから始まるという空気を感じてほしい。このホールは音がいいんですよ。長年演奏して、深みを増した曲もたくさん演奏しますので、とても印象的なコンサートになると思います」

(聞き手 田中亜紀子 / 朝日新聞デジタル「&M」)

朝日新聞社

最終更新:5/19(金) 19:10

朝日新聞デジタル