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農業へのビッグデータ活用、成果上がらない理由

ウォール・ストリート・ジャーナル 5/19(金) 9:27配信

 農家にとって、そして農家を顧客にしたいと考えているIT(情報技術)企業にとって、ビッグデータはこれまで期待外れに終わっている。

 農業界は数年前、データ活用の普及がもたらす変化への期待で満ちあふれていた。天候パターンから土壌、作物の健康状態まであらゆる情報について、大量のデータ提供を申し出る企業も相次ぎ登場した。これだけ詳しい情報が得られれば、農地で何が起きているかについて膨大な見識が得られるというのが、その売り文句だった。そうした情報を活用し、収穫量も増やせる可能性があった。

 しかし、そうした改革は思うように進んでいない。デジタルサービスを利用した多くの農家が、大量の情報を消化し、その活用方法を見いだすのは難しいと感じている。また、単純にデータ活用に懐疑的な人たちもいれば、農作物価格の下落で投資する余裕がなかった人たちもいる。

新たなアプローチ

 データ重視の農業は「精密農業」と呼ばれ、主にベンチャーキャピタリストが投資をけん引していた。しかし、現状を受け、彼らは別の方法で農業にアプローチし始めている。投資先を農家に情報提供する企業から、もっと早く分かりやすい結果を得られる対象へと移行している。ロボット農業機器などのツールやサービスを提供する企業のほか、バイオテクノロジーや植物の遺伝子編集など技術だ。

 農業や農業技術企業に特化したオンライン投資市場を運営するアグファンダーのロブ・レクラーク最高経営責任者(CEO)は、「難しい状況が続いている。テクノロジーの見込みが期待に追いついていないためだ」と指摘する。

 アグファンダーによると、2016年の精密農業への投資額は前年比39%減となった。ドローン(無人機)への投資が広く減少したことが一因だ。一方で投資家は、データ以外の農業技術に可能性を見いだしている。調査会社ピッチブックによると、2016年の農業セクター全体へのベンチャーキャピタル投資額は5億6000万ドル(約620億円)と15年の2億0100万ドルから大きく増えている。しかも、この金額には農業以外の用途にも使われる衛星などのハードウエアは含まれていない。

 精密農業への移行の最前線に立つ新興企業の多くは苦境に陥っているか、方針を転換している。

 ミズーリ州カンザスシティーに拠点を置くファームリンクは、比較的資金に恵まれた新興企業の1つだったが、2月に清算手続きに入った。同社は、穀物の刈り入れ時に収穫高に関するデータを収集できる農業機器を扱っており、そうしたデータは農家の翌年の計画作りに役立っていた。ファームリンクの債権団を代表するジェフリー・バーマン氏によると、ファームリンクは追加資金を調達できず、閉鎖を決断したという。

関心の高まり

 データ重視の農業への関心が高まるきっかけとなったのが、2013年のモンサントによる農業データ会社クライメート・コープの約10億ドルでの買収だ。この成功例に倣おうと、データの生成と農家へのデータ提供の双方が可能な事業に、ベンチャーキャピタリストや起業家がこぞって投資した。

 データ重視化の背景には、土壌や天候、水はけに関する詳細なデータが得られれば、農家はそれに応じて特定の種や肥料をまくよう機械にプログラミングできるとの考えがあった。例えば、トラクターが砂っぽい土壌に入ったら、その環境に最も適した別の種が自動的にまかれるようにするといったことだ。そうすることで収穫量が増やせる可能性がある。

 以来、農家は土壌センサーから宇宙にいたるまで無数の情報源から大量のデータを入手できるようになった。しかし、たとえ農家がドローンや衛星機器、地中センサーから情報を得ても、それを最大限に活用するのは難しい。農業従事者の多くは、データを処理し、それを農業機器に統合するソフトウエアの使い方を知らず、機器の種類によっては連動できない場合があるからだ。また、農村部では携帯電話の電波が弱かったり、届かなかったりすることもあるため、機器同士の通信が難しい。

 また、データの解釈という問題もある。データによって一区画から生産できるトウモロコシの量は分かっても、なぜその量が生産できるのかや、翌年の作物にデータをどう生かせばいいのかを把握するのははるかに難しい。

 「データの価値がどこにあるかを誰もがまだ見いだせずにいる」。トウモロコシ・大豆農家のアーロン・アールト氏はこう語る。同氏は、パデュー大学と連携して農業データの統合を推進する取り組みにも参加している。

新分野の開拓

 農業技術に投資するフィニスター・ベンチャーズのパートナー、アラマ・ククタイ氏は、ビッグデータの活用は難航しているため、同社ではまだあまり注目されていない別の農業分野に狙いを定めていると話す。

 投資先の1つが、水耕栽培と紫外線ライトを用いて屋内で葉物野菜などを育てるプレンティー・ユナイテッドだ。同社が期待できるのは、有機レタスなどの作物を農家と同等水準で、しかも都市に近い場所で生産できる点だという。

 ククタイ氏をはじめとする投資家がもう1つ注目しているのが、ロボット関連企業だ。例えば、シリコンバレーの新興企業ブルー・リバー・テクノロジー。同社はトラクターに取り付けてレタス畑の除草剤散布に使用するマシンを開発している。マシンにはカメラが装備されており、雑草を検知してピンポイントで除草剤をかけることができる。

 同社のジョージ・へロードCEOは、農家はマシンを使用することで除草剤費用を節約でき、最短2年半で採算が取れると話す。米国の収穫レタスの15%以上に同社製品が使用されているという。

 同社は「レタスボット」以外にも応用範囲を拡大する構えだ。現在は綿畑用の除草剤散布マシンをテストしている。

By Eliot Brown

最終更新:5/19(金) 9:27

ウォール・ストリート・ジャーナル