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1.2兆円産業の倍増図る日本の宇宙ビジョンとは?

ITmedia ビジネスオンライン 5/20(土) 5:24配信

 日本政府の宇宙政策委員会 宇宙産業振興小委員会において、5月12日に「宇宙産業ビジョン2030」の取りまとめが行われ、現在パブリックコメントの募集が行われている。筆者自身も委員として議論に参加してきた。今回はその内容とともに、日本の宇宙産業が目指すべき方向性についてお伝えしたい。

【「SS-520」4号機、実験の様子】

●産官学の有識者がほぼ毎月議論

 宇宙産業ビジョン2030は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が主催する有識者会合である宇宙産業振興小委員会の中で、約1年にわたり12回の議論が重ねられてきたものだ。同委員会は宇宙民生利用部会および宇宙産業・科学技術基盤部会の下に、宇宙産業ビジョンを検討する目的で、2016年に立ち上がったものである。

 昨年は「宇宙二法」が制定して、今後民間企業が宇宙ビジネスを行っていく上での制度的担保がなされたことは記憶に新しい。大きな一歩であるが、ある意味で入口とも言える。米国の例を見ても、1980年代からの法整備だけでなく、多様な商業宇宙政策が行われてきている。産業振興の観点では政策も重要であることは間違いなく、その指針となり得るのが宇宙産業ビジョンなのだ。

 委員は日本総合研究所の高橋進理事長を座長として、大手航空宇宙側はJAXAの松浦直人氏、三菱重工の阿部直彦氏、三菱電機の小山浩氏、スカパーJSATの小山公貴氏、ベンチャー側はアストロスケールの岡田光信氏、キヤノン電子の酒匂信匡氏、グローバル・ブレインの青木英剛氏、大学・有識者側は京都大学の山川宏氏、慶應義塾大学の白坂成功氏、遠藤典子氏、IT業界の第一人者である夏野剛氏、そして筆者の計13人だ。

●宇宙産業は第4次産業革命を推進させる“駆動力”

 ビジョンの前提となる時代背景として、「宇宙産業の世界的なパラダイムチェンジ」というキーワードとともに、「宇宙分野とIT・ビッグデータを結節するイノベーションの進展」「コスト低下による宇宙利用ユーザーの広がり」「民の大幅活用(宇宙活動の商業化)とそれに伴う変化の加速化」などが記載されている。本コラムで宇宙ビジネスの新潮流と題してお伝えしてきているように、今、世界の宇宙産業では多様な変革の波が同時多発的に起きている。

 こうした背景を踏まえて、掲げられている全体方向性のキーポイントは、「宇宙産業は第4次産業革命を推進させる駆動力。他産業の生産性向上に加えて、新たに成長産業を創出するフロンティア」「宇宙技術の革新とビッグデータ・AI・IoTによるイノベーションの結合」「民間の役割拡大を通じ、宇宙利用産業も含めた宇宙産業全体の市場規模(現在1.2兆円)の2030年代早期倍増を目指す」であろう。

 一般的には遠く感じることもある宇宙産業を、他産業の生産性向上や成長産業を生み出すためのイネーブラーとして位置付けたことは特徴的だ。世界の宇宙産業でも米SpaceXのイーロン・マスク氏が火星などの深宇宙へと人類の文明圏を進めているほか、低軌道通信衛星によるインターネットインフラ構築を目指す米OneWebのように宇宙産業が地上のあらゆる産業とつながる中で成長、発展していく方向性も存在する。

●政府衛星データのオープン&フリー、小型ロケットの環境整備

 こうした大方針の下に、宇宙利用産業、宇宙機器産業、海外展開、新たな宇宙ビジネスそれぞれにおいて課題認識、対応策が示されているという構成だ。利用産業では、政府衛星データのオープン&フリーの推進、モデル実証事業の推進が掲げられている。

 特に前者は、世界的には米国NOAA(海洋大気庁)の事例のように、政府衛星データのオープン&フリー化およびその先の衛星データ利活用コミュニティー形成が進む。今後の具体的な議論が重要だ。

 機器産業では、「継続的な衛星開発(シリーズ化)」「新型基幹ロケットの開発」「部品・コンポーネント技術戦略」「調達制度の改善」とともに、「小型ロケット打ち上げのための国内射場の整備推進等」が掲げられた。本分野はSpaceXなどが進める大型ロケットとは異なる宇宙へのアクセス革命として、世界的に注目を集めており、ロケットベンチャーの米Rocket Labは5月21日以降に初のテスト打ち上げを予定している。日本では今年1月にJAXAが世界最小級の「SS520」4号機の打ち上げ実験を行った。残念ながら途中で中止となったが、大きな可能性のある取組みだ。

●宇宙ベンチャーの支援拡大

 39ページにわたる産業ビジョン本文の中に、「ベンチャー」という言葉が41回も出てくる。産業発展のための宇宙ベンチャーに対する期待が高いことの表れだろう。日本では現在約20の宇宙ベンチャーが存在しており、エッジの効いた技術やユニークなビジネスモデルを持っているが、数を増やしていくことが大きな課題だ。アイデア発掘を目的とした施策として、内閣府とJAXAおよび民間企業4社(ANAホールディングス、大林組、三井物産、スカパーJSAT)が主催するビジネスアイデアコンテスト「S-Booster」が立ち上がっている。

 また、リスクマネーの強化も掲げられた。過去2年にわたり日本の宇宙ベンチャーは累計80億円ほどを調達してきたが、世界全体では過去10年で1兆円を超えるリスクマネー流入が起きており、昨年末に通信大手ソフトバンクがOneWebに10億ドルを出資するなど加速している。こうした中、リスクマネー流入量を増やすべくDBJ(日本政策投資銀行)、INCJ(産業革新機構)などの政府系金融機関や官民ファンドの参画も促し、民間ベンチャーキャピタルや事業者の宇宙分野向けのリスクマネー供給が拡大する環境整備を行うことが明記された。

●世界のライバルも高い目標

 このように期待の高まる宇宙産業だが、各国も同様に積極的なビジョンを掲げている。商業宇宙産業を加速する米国はもちろんのこと、例えば、英国でも業界団体が中心となって2015年に「UK Space Innovation and Growth Strategy」をまとめており、2030年までに世界の宇宙産業の10%シェア獲得、新たに10万人の雇用を生むことなど、非常に高い目標が掲げられている。

 今回の宇宙産業ビジョン2030も、ビジョンの実現、実行こそが本当の勝負だ。日本の宇宙産業の可能性にぜひ注目してもらいたい。

(石田真康)

最終更新:5/20(土) 5:24

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