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iPSの倫理課題は? 京大研究員が出版「葛藤抱え考察」

京都新聞 5/20(土) 17:20配信

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究に関する倫理問題を考察した著書を、京都大iPS細胞研究所上廣倫理研究部門の研究員澤井努さん(31)が出版した。倫理的障壁が少ないとされたiPS細胞がはらんでいる多様な課題を、世界を牽引(けんいん)する研究所の内側からあぶり出した。
 「ヒトiPS細胞研究と倫理」(京都大学学術出版会)。全5章のうち、澤井さんが「最もオリジナリティーがあり、本書全体の根幹となる論考」と自信をのぞかせるのが、ES細胞(胚性幹細胞)とiPS細胞が倫理的共犯関係にあると主張する第1章と、iPS細胞を扱う場合の倫理的配慮を検討した第2章だ。
 ヒトのES細胞は受精卵を使うため倫理的課題がある一方、体細胞からできるiPS細胞は、この課題を解消したとされる。しかし著書では、iPS細胞の研究にはES細胞から得られる知見が不可欠と紹介。iPS細胞の研究はES細胞研究の進展を促し成果の応用も見込めるとして、ES細胞とは倫理的課題で切り離せないと指摘する。その上で「ヒトiPS細胞研究がヒトES細胞研究の恩恵を受けていることに無自覚、無批判である状況は看過できない」と批判した。
 さらに第2章では、ヒトiPS細胞からヒトの個体に成長させる技術が理論的には可能だと解説。「ヒトiPS細胞も『人の生命の萌芽(ほうが)』と見なすのが妥当」と結論づける。現在、使用の規制が緩いヒトiPS細胞と、厳格な規制が適用される受精した「ヒト胚」を、統一した規制下に置く必要性を訴えた。
 ヒトiPS細胞と動物の細胞を合わせた「キメラ動物」や、生殖細胞作製の是非などに関する議論の論点も、網羅的に提示している。
 澤井さんは「研究所の中で葛藤を抱えながら考察してきた。一度立ち止まって考えるきっかけになれば」と話している。245ページ。3240円。

最終更新:5/20(土) 17:20

京都新聞