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MSが提唱する「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」とは何か 

5/20(土) 15:44配信

ITmedia エンタープライズ

 Microsoftのクラウドビジネスが急成長を遂げている。

 米Microsoftが発表した同社2017年度第3四半期(2017年1~3月)の業績では、クラウドビジネスを中心とするインテリジェントクラウド部門の売上高は前年同期比11%増の67億6300万ドル。同社が掲げる2018年度通期200億ドルの売り上げ目標は確実に射程内に入ってきた。なかでも、「Microsoft Azure」は前年同期比93%増、法人向けの「Office 365」も45%の大幅な成長を遂げているのが際立っている。

 一方、現地時間の2017年5月10日から、米シアトルで開催された「Microsoft Build 2017」では、「Azure Cosmos DB」をはじめとする、クラウドに関連のさまざまな発表が行われ、同社のクラウドビジネスがさらに大きな歩みを進めていることを示した。

 来日した米Microsoft クラウド&エンタープライズ事業マーケティング担当の沼本健コーポレートバイスプレジデントの来日にあわせて行った本誌独占インタビューを通じて、同社のクウラドビジネスを俯瞰してみる。今回は、前編として、Build 2017で明らかになったクラウド関連の発表内容をお届けする。

●次世代のキーは“インテリジェントなクラウドとエッジ”の有機的な連動

――米Microsoftが開催した開発者向け年次イベント「Build 2017」では、クラウド関連の発表が相次ぎました。どこが一番のポイントになりますか?

沼本: Build 2017では、これまでのBuildに比べて、クラウドの比重が高まったことは明らかです。開催初日に、サティア・ナデラCEOの講演に続き、クラウドやAIに関する話を持ってきたことも、この分野への関心の高まりと、Microsoft自らもそこにフォーカスしていることを裏付けています。

 また、Buildはずっとサンフランシスコで開催されていましたが、2017年はクラウドシティーと呼ばれるシアトルで開催した点も意味があるのではないでしょうか。シアトルには、MicrosoftやAWS(Amazon Web Services)の本社のほか、FacebookやGoogleもオフィスを構え、多くのクラウドエンジニアが集まっている場所です。その点でも、クラウドを重視したイベントであったことが分かると思います。

 なかでも注目すべきは、「インテリジェントクラウド」に加えて、「インテリジェントエッジ」という新たなコンセプトを打ち出した点ではないでしょうか。これは、サティアの基調講演で時間を割いて説明した部分でもあります。

 これまでMicrosoftでは、「モバイルファースト」「クラウドファースト」という言い方をしていましたが、それを進化させたものと捉えることもできます。

 もともとMicrosoftが言っていたモバイルファーストとは、デバイスのモビリティのことを指すのではなく、マルチデバイスによるユーザーエクスペリエンスのことを指していました。それを実現するために、モバイルファースト、クラウドファーストが表裏一体で存在したわけです。

 その世界をさらに踏み込んでいくと、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジが「対」になって位置付けられ、新たなコンセプトとして重要な意味を持つことになります。

――インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジが「対」になっている点が重要であると?

沼本: これまでは、全てのデータをクウラドに上げるという話が多かったのですが、現実問題として、世の中にあるデジタルデータのうちの9割以上が過去2年に生成されたデータであるといわれるように、増え続ける膨大なデータの全てをリアルタイムでクラウドに送り込むことは難しいといえます。

 コネクテッドカーは、1秒間に100GBのデータを生成しているといわれますが、これを活用するには、クラウドとエッジを有機的に連動して動かすテクノロジーが必要になります。だからこそ、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジを「対」になった形で考えることが大切です。言い方を変えれば、ハイブリッドという表現ができるかもしれませんが、それをモダンな形で捉えたのが、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジです。

 モバイルファーストでは、iOSやAndroidでも、Microsoftのアプリケーションが動く世界を実現してきましたが、エンドポイントのデバイスでは、それだけにとどまらない環境になります。その点でも、インテリジェントエッジの考え方は、モバイルファーストの考え方を進化させたという捉え方ができます。Build 2017では、インテリジェントクラウドと、インテリジェントエッジによる新たな世界観を、実際のデモストレーションを交えて紹介しました。

――具体的にはどんなデモストレーションですか?

沼本: 米MicrosoftのAzureチームからサム・ジョージが登壇し、北欧の工作機械メーカーが大規模なドリルや研磨機材の予兆保全を行うためにAzureによるIoT活用を導入した事例を紹介しました。

 従来、ベアリングの温度や振動などの情報を基にした機械学習によって、クラウドでモデルを作り、予兆診断をしていたのですが、データを収集して障害を察知し、緊急停止をしようとすると、約2秒かかっていました。この2秒でドリルが壊れてしまったり、作り上げている製品を破壊してしまったりといったことが起こる可能性がありました。2秒という時間が、機器や生産品への被害及ぼすだけでなく、作業者の安全面にも影響が出かねなかったわけです。

 そこで、データはクラウドに集めて、Azureが提供している最新のGPUを活用した潤沢なコンピュータリソースでAIや機械学習のテクノロジーを使い、DNN(ディープニューラルネットワーク)でモデルを生成。そこで出できたモデルを、Build 2017で新たに発表した「Azure IoT Edge」を使ってローカルのデバイスにデプロイすることで、ローカルで判断できるようになります。同じシナリオにかかる判断が、わずか0.02秒と、100分の1にまで短縮できます。より精度が高く、迅速な予兆保全ができるようになるのです。

 優れたコンピューティングパワーと、大量のデータを処理できる膨大なリソースを活用できるインテリジェントクラウドと、それをローカルにデプロイし、エンドポイントで判断するインテリジェントエッジとが組み合わさり、それが何度も繰り返されることで進化していくということが大切です。クラウドとエッジが有機的に連動することで、これまでできなかったアプリケーションパターンが生まれ、それがこれからの標準になっていくという世界観を、Build 2017で新たに提示したのです。

 Microsoftはこれまで「Azure IoT Gateway SDK」を提供してきましたが、Azure IoT Edgeではそれを製品として提供することで、開発していだたくのではなく、より多くの方々に活用していだたけるようにするというステップに進化したともいえます。

●「Azure Cosmos DB」で“地球規模”のDB強化を

――Microsoftでは、「プロダクティビティとビジネスプロセスの改革」「インテリジェントなクラウドプラットフォームの構築」「革新的なパーソナルコンピューティング体験の創造」という3つのアンビジョン(野心)を掲げ、業績の発表も「Productivity and Business Processes」「Intelligent Cloud」「More Personal Computing」というように、それにのっとったものになっています。この「Intelligent Cloud」も、今後は「Intelligent Cloud / Intelligent Edge」というようになりますか?

沼本: 3つのアンビションはわれわれが目指す方向を示すものであり、これを通じて顧客のデジタルトランスフォーメーションをサポートするという意思の表れです。しかし、今回のインテリジェントクラウドとインテリジェントエッジは、開発者に向けて、世の中の新たなアプリケーションパターンの方向性を示したものであり、「Productivity and Business Processes」「Intelligent Cloud」「More Personal Computing」という全てのアンビョンのなかに反映される流れといえます。

 Buildの会期2日目には、PowerPointについての講演で、翻訳機能を実現する「PowerPoint Translator」のデモストレーションを行いました。PowerPointは、エンドユーザーが活用するクライアントアプリケーションですが、そこにAzureのコグニティブサービスを使って翻訳されたコンテンツを提供できるようになっています。これも、クラウドとエッジが有機的に連動することによって実現しているもので、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジによる1つの考え方といえます。

 「Productivity and Business Processes」に分類されるOfficeの世界でも、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジによる新たなアプリケーションパターンを実現しているのです。

――もう1つ、今回のBuild 2017では「Azure Cosmos DB」を発表しましたが、これはどんなものですか?

沼本: 膨大なデータが全世界で生成され、さまざまなアプリがクラウドで活用されはじめているなかで、課題となっているのは、「統合的に管理したい」ということ、さらに「データを同期するまでタイムラグがある」ということです。

 そうした課題の解決に向けて、地球規模のデータベースとしてMicrosoftが提案するのがCosmos DBです。Cosmos DBは1つの大きなデータベースとして構成され、日本からでも、米国からでも、同時に書き込むことができるのが特徴であり、これは業界初の、ユニークなものといえます。

 Azureのデータセンターは世界に38リージョンあり、AWSとGoogleを足した数よりも多いのですが、Cosmos DBは、この全てのデータセンターで利用できるデータベースであり、使いたいリージョンを自由に選択することもできます。

 また、データベースにおいては、データがアップデートされたら、次にアクセスした際には、最新のデータを確実に反映したものが利用できるというのが前提となります。しかし、これではデータが反映されたことを待たなくてはいけないため、どうしても遅くなります。一方で、ソーシャルメディアのような利用では、どんなコメントが出ているのかを確認する場合に、0.001秒前に誰かが書き込んだものが検索結果に出なくてもそれほど問題にはなりませんが、スピードを重視したいという人にはこうした仕組みを活用し、あとで整合性を取ればいいということになります。

 Cosmos DBでは、このイベンチャルコンシスタンシィーと、ギャランティードコンシスタンシィーの間に5つのオプションを選択でき、スピードとコンシスタンシィーを、SLAを設けながら、デベロッパーに提供することが可能になります。サイバーマンデーのように、数多くのアップデートが必要な際にも、ワールドワイドのスケールで対応でき、米国で書き込んだものが日本で使用するアプリにすぐ反映されるという環境を提供します。

 Microsoftは社内でさまざまなインターネットサービスを活用していますが、そこで鍛えられたサービスとして完成度を高めており、その点でもMicrosoftにしか提供できないサービスといえます。

――今回のBuild 2017は、Microsoftのクラウドビジネスにとって、あるいは参加した開発者にとって、どんな意味を持つものといえるでしょうか?

沼本: 開発者向けイベントであるBuildは、テクノロジーの方向性を示し、今後のデベロッパーに対して、「こんなアプリケーションを開発してほしい」という提案を行う場になっていますが、そのなかでも今回は、クラウドのトピックに割かれた時間が多かったのは事実です。

 マイクロソフトにおけるクラウドビジネスの成長は高い伸びを示していますし、2018年度に掲げている「クラウドビジネスでの売上高200億ドルを上げる」という目標に対してもオントラックで成長しています。

 Build 2017のなかでは、デベロッパーが新たに考えなくてはいけないテーマは、「マルチデバイス」であり、「AI」であり、さらには、「サーバレステクノロジー」であるということを示しました。これらは、全てクラウドと密接に関連するものです。

 マルチデバイスは、クラウドを活用するためのエンドポイントというだけではありません。Build 2017で発表された新機能のなかでは、Windowsデバイスでカット&ペーストしたものを他のOS環境のデバイスでも利用できたり、1人のユーザーがさまざまなデバイスを使いながら、タイムラインをトレースできるようになったりといった機能も、Windows単体の機能としてではなく、Windowsのサービスとして提供しており、ここにクラウドとエッジの有機的な連動が生かされています。

 AIについても、データを集め、モデルを作り、それをエッジにデプロイするという点での活用は、先に触れたように、クラウドとエッジの有機的な連動によって実現するものです。

 このようにBuild 2017は、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジによって実現される世界を示し、そこに向かってマイクロソフトが進んでいくこと、デベロッパーもその流れを捉えてほしいということを示すものになったといえます。