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<福岡10人死亡火災>6分間、炎の猛威…当直看護師の証言

毎日新聞 5/20(土) 15:00配信

 福岡市博多区の医院「安部整形外科」で2013年10月、入院患者ら10人が死亡した火災で、出火時に当直勤務だった女性看護師が毎日新聞の取材に応じた。院内で火災を目撃した関係者による詳細な証言は初めてで、局所的な火災が一気に広がって避難誘導や初期消火が困難だった当時の状況を生々しく語った。看護師は「同じような悲劇を繰り返さないために防火装備の充実や定期的な避難訓練が重要だ」と訴えている。【宗岡敬介】

 ピピピピピ--。13年10月11日未明、医院地下1階の休憩室で仮眠していた看護師の梅川芙起(ふき)さん(70)は、入院患者からのナースコールの音で目を覚ました。受信機の液晶画面に表示された時刻は午前2時13分。当直は1人体制のため他に職員はいない。入院患者がいる2階へ上がった直後、院内に火災報知機の警報ベルが鳴り響いた。

 当初は「誤作動か」と思いながら、ベルに気付いて起きてきた入院患者2人や3階の居室部分に住む前院長(当時80歳)と手分けして火元がどこかを探した。しかし、すぐに患者の一人が壁と床の隙間(すきま)から焦げた臭いがするのに気付いた。1階に下りると、患者の治療をする「処置室」の医療機器周辺で1メートル近くの炎が上がっているのを見つけた。

 消火器は処置室内にあったため初期消火はできなかった。そこで避難経路を確保しようと休憩室に戻って玄関の鍵を取り出した。玄関を解錠し、外に出て駐車場の出入りをふさぐ鎖を外して振り返ったところ、玄関から見たこともない真っ黒な煙が噴き出していた。

 患者を助けようと院内に戻ろうとしたが、煙の勢いが強くて中に入れない。断念して通りがかりのタクシーを止め、運転手に通報を依頼した。福岡県警によると、運転手による110番は午前2時19分。梅川さんが目覚めてから6分間の出来事だった。そして、みるみる炎と黒煙に包まれていく建物をどうすることもできなかった。

 ◇福岡市博多区の医院火災

 2013年10月11日未明、安部整形外科1階から出火。鉄筋コンクリート地上4階、地下1階建て医院を全焼し、1、2階の入院患者8人と3階居室部分にいた院長の両親の計10人が一酸化炭素中毒で死亡、患者ら5人が重軽傷を負った。福岡地検は今年3月、業務上過失致死傷容疑で書類送検された院長を、被害を防ぐことは難しかったとして容疑不十分で不起訴とした。



 ◇何度も避難訓練を

 「患者らを救えなかった悔しさは今もあるが、生かされた命を大切に火事を教訓にしていきたい。そのためにあの時、何があったかを伝え続けたい」。火災から3年7カ月が過ぎて梅川さんは改めてそう決意している。

 火災を機に、自力で避難が困難な患者を抱える有床診療所でのスプリンクラーや火災通報装置の設置義務が拡大された。しかし経営難などで設置できない医院は少なくない。火災の教訓を生かした安全対策が十分とは言えないのが現状だ。

 「入院患者がいる小規模医院で、人手不足のため夜間に1人しか置けない当直職員が初期消火や避難誘導をするのは限界がある。医院に限らず、認知症患者や高齢者がいる全施設で、夜間避難のための懐中電灯や有毒ガスから身を守る防煙マスクなどを備え、これらを使って避難訓練を繰り返す必要がある」



 ◇火や煙、いかに防ぐかを日ごろから考えておく

 神戸大大学院の松下敬幸教授(建築火災安全工学)の話 高温で可燃ガスが充満する中に酸素が流入するなど条件が整えば、局所的な火災が一気に燃え広がる可能性はある。施設管理者は初期消火に有効なスプリンクラーの設置や、防火扉の点検などを怠らないようにし、火や煙をいかに防ぐかを日ごろから考えておくことが求められる。利用者も避難経路を事前に確認するなど自ら身を守る意識を持つことが重要だ。

最終更新:5/20(土) 16:54

毎日新聞