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腹が減っては… 隊員たちのパワーを生み出す陸自「野外炊具1号」と空自「炊事車」

産経新聞 5/20(土) 14:02配信

 日本を守る自衛隊には戦車や護衛艦、戦闘機をはじめとする強力な装備品がそろっているが、それらを動かすのは一人一人の隊員たちだ。その彼らが持てる力を最大限に発揮するには日々の食事が重要なのは言うまでもない。陸上自衛隊の「野外炊具1号」や航空自衛隊の「炊事車」などは、野外で部隊が活動しても温かい食事を提供できる優れもの。士気高揚への貢献は無視できず、災害派遣でも被災者に元気を与える頼もしい存在だ。

 陸自が保有する「野外炊具1号」はトラックなどで牽引でき、6個の大型かまどや発電機、野外冷蔵庫といった調理器具を搭載。今から半世紀以上前に登場し、時代の趨勢に合わせて2度の大幅なモデルチェンジを施された。最新型は平成22年に配備された「野外炊具1号(22改)」で、普通科中隊に相当する約200人分の食事を一度に作ることができる。

 かまどは取り外し可能で、部隊が分かれて活動するときには分隊ごとに調理器具一式をトラックなどに積んで持ち運ぶこともできる。牽引式の利点はトラックの荷台を占有せず、荷降ろしも不要で迅速に食事作りに取りかかれる点にある。

 1号の大型かまどはバーナーで下から加熱することができる。飯炊きや汁物、煮物などのほか、かまどの上に蓋をするように底の浅い釜を置けば、揚げ物や焼き物、炒め物も調理できる。

 陸自関係者によると人気メニューの定番はカレー。炊き込みご飯やシチュー、肉じゃがも人気。ほかにも八宝菜、深川めし、筑前煮、天ぷら、サバのみそ煮、日本そば、焼きそば、ラーメン、うどん…。レパートリーを列挙したらキリがない。むろん、献立を決めるときは栄養士が関与している。

 ただ、かまどの容量を丸々使える煮物や汁物に比べ、かまどの上に浅い釜を重ね置くと調理できる量が限られ、「人数分を作るには時間がかかってしまう」(陸自関係者)とのことだ。調理は給養担当の陸曹が指名した普通の隊員が担当する。「場数を踏むうちにうまくなり、中には炊いた米をピンと立たせる“職人”のような隊員もいる」(同)という。

 これに対して「野外炊具2号」は1号からトレーラーを取り外したイメージ。かまどの数も減らし、調理能力は約50人分だ。

 野外で活動する部隊であれば、1号または2号のいずれかは必ず配備されており、国連平和維持活動(PKO)に派遣される部隊とともに海を渡ることもしばしば。イラク南部のサマワをはじめ、ハイチや東ティモール、今年5月末に撤収が完了する南スーダンなどで派遣隊員らの胃袋を満たしてきた。

 航空自衛隊も「炊飯車」を保有している。弾道ミサイル防衛に不可欠な地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を運用する高射隊は、基地から離れた場所に展開して活動することが想定されるからだ。自走式の「炊事車」だけでなく、陸自の野外炊具1号と似た牽引式の「トレーラ1トン炊事車」がある。

 炊事車は、荷台が箱形になっている中型トラックと似た形状。内部には調理器や食品貯蔵庫、食器などの収納棚や調理台、流し台や水槽といった調理に必要な器具一式を備える。約150人分の主食や副食を1時間以内に調理できる。トレーラ1トン炊事車なら約250人分を45分以内に調理可能だ。

 料理のレパートリーは陸自同様に豊富で、飯炊きや汁物のほか、焼き物、煮物、炒め物、揚げ物などさまざま。気になる味については「基地の隊員食堂で出される料理と遜色ない。むしろ野外で食べる分、おいしく感じる」(空自関係者)という。調理もやはり野外に展開した部隊の隊員が行う。

 陸自や空自が保有するこれらの装備は、東日本大震災や熊本地震をはじめとした大規模災害で自衛隊が派遣されたときも活躍した。空自の炊事車は東日本大震災の発生時、松島基地(宮城県)に全国から十数台が集められ、基地周辺の被災者らに温かい食事を振る舞った。熊本地震でも2台が派遣されている。

 腹が減っては戦ができぬ--。誰もが実感できるこの教訓に自衛隊が忠実である限り、国防の基礎は盤石だろう。(小野晋史)

最終更新:5/20(土) 14:02

産経新聞