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韓国大統領選 反日政権の衝撃 利害異なる日米中、厳しい現実 対北戦略、米中が韓国争奪戦

産経新聞 5/20(土) 17:00配信

 「未来志向的な日韓関係の構築のための基盤であり、着実に履行する必要がある」

 11日に行われた韓国大統領、文在寅との初の電話会談で日本の首相、安倍晋三は慰安婦問題をめぐる日韓合意について、こう強調した。「最終的な解決」をうたったはずの合意の見直しを文は主張しており、日韓間の最大の懸案として真っ先にクギを刺す必要があった。

 ただ、歴史問題と経済問題などを切り離す「ツー・トラック外交」を掲げる文は、多くの韓国民は合意を受け入れられないとしながらも「歴史問題が両国関係発展の足を縛るのはよくない」とも述べた。

 北朝鮮の核問題では、文が「対話」による解決を公約に掲げる中、安倍は「対話のための対話では意味がない」と牽制(けんせい)。文は「問題意識は首相の思いと同じだ」と答えるにとどめた。

 「反日」「親北」の印象の強い文にしては、淡々とした応じ方だった。背景には、米国の協力なしには、南北関係改善という目標が実現できない現実がある。その米政府が最も懸念するのが、日韓合意のこじれによる日韓という2つの同盟国の関係悪化だ。

 文は大統領に就任した10日、最初の外国首脳として米大統領のトランプと電話会談。トランプを「強力なリーダーシップを持つ指導者」だとたたえ、北朝鮮の挑発抑止と核問題への優先的な対処を「高く評価する」とも述べた。

 これまで「北朝鮮を先に訪問する」とも発言していたが、今月に入って米紙に「トランプ大統領に先に会い、北朝鮮の核問題について深く話し合って合意する」と前言を撤回した。自分は「親米」だとも度々口にする。

 だが、トランプの対北政策は、米空母の派遣などが示すように「圧力」に力点が置かれている。「対話」を前面に掲げた文と見ている北朝鮮の風景が180度違うと言わざるを得ない。

 11日には、中国国家主席の習近平から電話会談で、米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に対する「重大な懸念」を示された。就任早々、文は利害が異なる日米中から厳しい現実を突き付けられた。

 「地域の脅威が高まる中、米韓の連携は死活的に重要だ」(米上院軍事委員会委員長のマケインと同委員会筆頭理事のリード)

 「新政権とは、米軍の最新鋭迎撃システム『高高度防衛ミサイル(THAAD)』の韓国配備や北朝鮮の脅威からの在韓米軍や韓国軍の防護など、米韓の防衛関係と能力の強化に向けて緊密に協力していく」(下院軍事委員長のソーンベリー)

 米国では文在寅(ムン・ジェイン)政権の誕生を受け、外交・安全保障に携わる政治家や専門家の間から米韓関係の強化を訴える声が次々と上がった。

 これは、反米主義者として米韓関係を冷却化させた元韓国大統領、盧武鉉(ノ・ムヒョン)の元側近としての負のイメージが色濃い文に対する懸念や警戒心の裏返しに他ならない。

 かつて米中央情報局(CIA)で朝鮮半島情勢の分析に当たった、米政策研究機関「ヘリテージ財団」の上級研究員、ブルース・クリングナーは「北朝鮮は近々、次なる挑発行為を仕掛けてくる」との認識を明らかにした上で、米国や国際社会が北朝鮮への圧力を強めているのに、肝心の文政権が及び腰に転じれば「対北国際連携は崩壊しかねない」と警告する。

 米国がとくに警戒の目を向けるのが、文が開城(ケソン)工業団地の操業再開などの対北融和政策を一方的に打ち出すことだ。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)の韓国部長、ビクター・チャは「朴槿恵(パク・クネ)前政権の機能不全で韓国は(国際的に)存在感を失った」と指摘し、国連安全保障理事会の対北制裁決議違反にも当たる開城団地の再開に踏み切れば「韓国は孤立を深めるだけだ」と強調した。

 文にとっては、韓国大統領選の直前に「THAAD配備と引き換えに10億ドル(約1140億円)支払え」「米韓自由貿易協定(FTA)は再交渉か廃止を」と言い出した米大統領、トランプとどう渡り合うかも重大な課題だ。

 米外交問題評議会(CFR)の上級研究員、スコット・スナイダーは「THAADの配備費用を韓国が支払う理由など存在しない」とする一方、米韓FTAについては「米国と真剣に向き合うべきだ」と断じる。

 さらに、文が盧武鉉政権の対米政策の失敗の教訓から学ぶことさえできれば、最後は「米韓首脳が個人的に親密な関係を築いていけるかどうかがカギとなる」との期待を示した。

 韓国大統領選が行われた9日、「新型ミサイルを発射した」と表明した国家がある。北朝鮮ではない。中国だ。ロケット軍部隊が新型ミサイルの発射実験を行って成功したと、中国国防省が明らかにしたのだ。

 実験を行ったのは朝鮮半島に近い渤海。実施日時は不明だが、国防省は「直面している国家の安全保障面の脅威に対応するため行った」と説明している。

 目下、中国における「安保面の脅威」とは、韓国に配備されたTHAADにほかならない。中国はこれまで、THAADの高性能レーダーで中国国内まで監視されると主張。韓国配備に強硬に反対してきた。

 今回の新型ミサイルについて詳細は不明だが、ネット上では「韓国の新政権を牽制する狙い」とする専門家の見方が少なくない。

 中国ではもともと、韓国で約9年ぶりに誕生した左派政権への期待が高い。さらに文は、中国が議長国を務める6カ国協議の再開を提唱した経緯があり、「習政権は北朝鮮問題で対話をより重視する文を好感している」(外交筋)のは間違いない。

 北朝鮮の核開発問題をめぐっては、北朝鮮による「核放棄の確約」を最優先に掲げる日米韓と、「対話再開」を求める中露との間で路線対立があった。

 しかし、文政権の韓国を自陣営に引き込むことができれば、日米に対し中露韓が対話重視で足並みをそろえることになる。対中包囲網に転化しかねない日米韓の協力関係に、くさびを打ち込むことも可能だ。=敬称略

 (ソウル 桜井紀雄、ワシントン 黒瀬悦成、北京 藤本欣也)

最終更新:5/20(土) 17:00

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