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最高密度で描く「東京のいま」 石井裕也×池松壮亮対談

朝日新聞デジタル 5/20(土) 17:10配信

【対談】石井裕也×池松壮亮

 日本アカデミー賞作品賞など多数の賞に輝いた「舟を編む」の石井裕也監督の新作「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」が5月13日に都内で先行公開、27日から全国公開されます。昼間は看護師として命と向き合い、夜はガールズバーでバイトする美香(石橋静河)。建築現場の日雇い作業員として働く慎二(池松壮亮)。2人の出会いを通して、先の見えない時代を生きる都会の若者たちの心模様を繊細に描き出しました。石井監督とは4度目のタッグとなる池松さんと石井監督に、作品の裏側をうかがいました。

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 原作は、女性詩人・最果(さいはて)タヒの同名詩集(リトルモア刊)。生きることの名状しがたい苦しさやむなしさ、その向こうにある希望をシンプルな言葉で表現し、現代詩集としては異例の2万7000部を売り上げた人気作品です。「これを映画にしたいんや」。「舟を編む」でも組んだ映画プロデューサーから石井監督がこの本を手渡されたのが昨年春。ストーリーのない詩集をもとに、石井監督自身が物語を紡ぎ出しました。

石井: 詩集を映画になんて、むちゃぶりですよね。言われたときは、どうかしていると思いました(笑)。プロデューサーは、チンピラ崩れみたいな20代の僕に、「映画というものの全体をもっとよく見ろ」「物語を引いた目で見ろ」と、「舟を編む」というベストセラーの原作とベテランスタッフをそろえてくれた人。その後、「舟を編む」に通じる作品を何本かやった僕に、「もう1回お前のリズムを取り戻せ」と、この詩集を渡してくれたのではないか。お前の感覚と最果さんの感覚とを合体させて何ができるかやってみろ。そんなお題だと解釈しました。

誠実さを感じさせない純粋さ

 都会を舞台にしたボーイ・ミーツ・ガールの恋物語という設定が決まり、主人公としてまず思い浮かんだのが、WOWOWのドラマ「エンドロール~伝説の父~」や映画「ぼくたちの家族」「バンクーバーの朝日」で組んだ池松さんでした。

池松: 詩集は石井さんから受け取って先に読んでいました。自分が触れてきた詩集とは何か違う……何と言えばいいのかな、言葉以外のもの、言葉の意味のその奥にあるものをぶつけられたような感じがしました。ただ、映画になるとは思わず読んでいたので、出演の話をいただいたときは、「何を考えているんだ?」と(笑)。原作には作者の生きる物語は描かれていたけれど、ふつうの意味でのストーリーはない。これをどんな脚本にしようとしているのかと思いました。

石井: 原作は最果さんという女性の目線なので、そこに自分が近づいていって、どんな男性が見えてくるかを考えました。詩集を読んだ時に感じた言葉にならない感覚、もやもやしたむなしさや寂しさのようなものが出発点にはなっているんですけれど、これまでの池松くんのイメージとは違う人物を描きたいという思いもあった。長年付き合ってきて、こういう池松くんも見たい、こういうところを出した方がいいんじゃないかというものがあった。僕らの関係性の中の様々な要素が絡み合って、慎二のキャラクターに結実した感じです。

 年配の同僚や出稼ぎのフィリピン人作業員とつるんで遊びながらも、漠然とした孤独感を抱えている慎二。他人との距離の取り方に戸惑う一方で、偶然出会った美香に心を寄せ、アパートの隣室の独居老人とも静かな交流を重ねていきます。

池松: 脚本を読んで、有無を言わせずやりたいですと言わされた感じです。石井さんの思いをちゃんと受け取りたかったし、受け取らなきゃなと思いました。慎二は、まぁすてきな人物でしたね。自分というより、むしろ石井さんにすごく近い感じがしました。こんな優しい人間にはなれなかったなぁ、自分に演じられるのかなという不安もありました。
 隣人や周囲の人、それを取り巻く世界への向き合い方が慎二はとても優しい。自分のことよりもまず隣の人のことを考え、損得では動かない。そんな、誠実さすら感じさせない純粋さ。こういう人間になれたらなあと思いました。だからこそ、誠実の押し売りみたいなキャラクターには絶対にしたくなかった。見た人に「誠実な人だったね」なんて言わせないところまで行きたかった。現場で一番飛び交った言葉は、「純粋さと誠実さの度合い」。僕が演じて、石井さんが「もうちょっと上げて」「もうちょっと引いて」というのを繰り返した。ふたを開けてみると、不器用だとか優しいとか簡単にカテゴライズできるキャラクターにはなっていなくてすごくホッとしました。

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最終更新:5/20(土) 17:10

朝日新聞デジタル