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穴の先の未知の空間にワクワク「洞窟ばか」吉田勝次氏の底知れぬパワー

スポーツ報知 5/20(土) 12:01配信

「洞窟ばか」吉田勝次著

 洞窟に入って何が楽しいのか全く分からないという人のために、洞窟探検の第一人者、吉田勝次さん(50)が、書き上げた「洞窟ばか」(扶桑社、1512円)に絶賛の声が広がっている。めくるめく暗闇に広がる美しくも、恐ろしい未知の世界に驚くだけでなく、そこでの悪戦苦闘ぶりに思わず噴き出してしまうこと請け合いだ。そして、筆者の怖いものなしの底知れぬパワーに、読者は知らぬうちに勇気づけられていることだろう。(甲斐 毅彦)

 北極点も、南極点も、エベレスト頂上も、とっくに人類が到達している以上、この人にとっては単なる「観光地」でしかない。目指すは、ひたすら人類未踏の地のみ。とはいえ、宇宙へ行くのはまだまだ個人では不可能だ。海底探検もやはり大規模プロジェクトが必要となる。となれば、個人で目指せる未踏の地は足下に広がる洞窟しかない。
 「28歳の時に初めて浜松ケイビングクラブの洞窟探検に参加して『これだ!』と心に雷がドカーンと落ちた気がしました。今は洞窟のために生きているようなもの。こんなに面白いことをなんで皆やらないんだろうって思いますよ」

なんで皆やらないんだ

 本人いわく、少年時代は手が付けられない悪ガキ。エネルギーを浪費させるという狙いで、中学校ではやりたくもないサッカー部に強制入部させられた。建設現場で働き始めた青年期には有り余るエネルギーを少林寺拳法などの武道に向け、さらには高所恐怖症にもかかわらず登山も始めようと社会人山岳会に入会。本格的な積雪期登山や岩登りにいそしみ、未踏峰を狙うこともできたが「山は外観が見えると、想像できてしまう」。その場に立たなければ想像がつかぬ世界。それが洞窟だった。
 「子どもの頃から観光鍾乳洞は好きだったんですよ。だけどライティングされていて、手すりや階段があってワクワク感はない。興味が湧くのは『この先 立ち入り禁止』と書かれている真っ暗なところなんですよ。初めて行った洞窟はそのものが『この先』の手つかずの自然だったんです。まさに未知の空間が広がっているわけですから。でも、山の頂上のように『ヤッホー』と叫びたくなるようなところはない。叫びたくなるのは1週間ぶりぐらいに地上に出られた瞬間ですかね(笑い)」

 岩手の安家洞で新発見したホールでは真っ白な鍾乳石の世界に興奮した。入り口すら未踏だった三重の霧穴では入ることに成功し、現在も断続的に探検を継続中。行けば行くほど未踏の地だ。もちろん国内だけでは飽きたらずラオス、メキシコ、マダガスカル、米国、中国、ベトナム、ミャンマー、スリランカなど未踏の穴へ見つけ次第、挑んだ。これまでに探検した洞窟は1000か所を超える。
 「好きでやっているけど、つらいことが90%です。食べること、寝ること、移動することのほとんどが…。地上に解放された後はしばらく行きたくないと思うんですけど、帰り道には次はあそこに行こうか、と考えているんです」

 洞窟を汚さぬため、持ち込んだ食料は必ず全て食べ、排せつ物もちゃんと持ち帰る。ロープで宙づりのまま睡眠を取るのは洞窟内では日常茶飯事だ。誰も助けに来られない空間で、何度も死にかけている。隙あらば17センチの隙間でも潜り込む。狭い空間で進退窮まったり、水路で溺死しかけたり…。実際に洞窟内で見知らぬ人の遺体を発見し、警察の搬出作業を手伝ったこともある。
 「鑑識の人から『あなたたちはすごい』と言われて、好きで身につけた技術が一般社会で役立ったんだな、と思いました」

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最終更新:5/20(土) 12:01

スポーツ報知