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本紙記者が岡山地裁で模擬審理体験 裁判員制度の意義を改めて認識

5/20(土) 22:29配信

山陽新聞デジタル

 重大事件の刑事裁判に市民が加わる裁判員制度は21日でスタートから丸8年。岡山でもこれまで千人以上が審理に臨み、実績を重ねる一方、裁判員を選ぶ手続きへの出席率は年々低下している。制度に改めて関心を寄せてもらおうと、岡山地裁(岡山市北区南方)が16日開いた模擬の裁判員裁判に市民と共に参加し、審理を体験した。

 実際に裁判員裁判が開かれる法廷で、岡山県内から応募した32人が4グループに分かれ現職の裁判官、検察官、弁護士と一緒に臨んだ。

 審理対象は、夫婦間で口論になり殴りかかってきた夫を妻が刺し身包丁で刺したとの殺人未遂事件。起訴内容に争いがないため有罪とする前提で、実刑か執行猶予を付けるかに絞って検討した。

 検察側は、無防備な背後から刺した危険性が高い犯行として懲役6年の実刑を求刑。弁護側は以前から家庭内暴力を繰り返していた夫にも責任があるとし執行猶予を求めた。

 検察、弁護側に続き記者も被告役に質問できる場面があった。なぜ背後から刺したのかを問うと「とっさのことで、よく覚えていません」。被告から常に十分な話が聞けるとは限らない日頃の法廷の様子を垣間見た気がした。

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 法廷でのやりとりの後は、別室で同じグループの裁判員8人と裁判官2人でテーブルを囲み、量刑を話し合う評議に移った。

 「刺したのは1回だけで救護もしている」「以前も包丁を取り出し夫にけがをさせた」…。妻の情状を酌む度合いなどを巡り議論は白熱。凶器の刺し身包丁についても殺傷能力が高いために意図的に選んだか否かで見方が分かれた。

 量刑を決める評決で記者は、人を刺した行為の重大性が気になったものの、夫への謝罪の手紙などから反省が伝わり、社会で更生してほしいと願って執行猶予とした。全体では6対4で同意見が多数だったが、裁判官2人はいずれも実刑を選択。夫が重傷を負った結果を重視したという。

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 市民の役割が大きい制度ながら、裁判員候補者の市民が選任手続きに出席する割合は全国で低下傾向にある。岡山地裁では70歳以上だったり病気だったりして事前に辞退が認められた人を除いた出席率は初年に当たる2009年の87・9%から16年は66・0%まで落ち込んでいる。

 鬼沢友直所長は、審理期間の長期化や雇用情勢の変化で休みを取りにくい非正規労働者が増えたこと、高齢化の進展などを背景に挙げる。最高裁が1~2月、インターネットで5千人に実施したアンケートでは制度への関心低下も影響していることがうかがわれた。

 そうした中での今回の模擬裁判。参加者からは「制度を身近に感じる機会になった」「裁判官が専門用語などを説明してくれ分かりやすかった」といった評価とともに「考えるほど、どうすべきか分からなくなった」などの声も聞かれた。

 記者は人を裁く責任の重さから疲れを感じた一方で、評決で見られたように市民の感覚はプロの裁判官と多少なりとも差があることや、だからこそそれを反映させる裁判員制度に意義があることも改めて認識した。

 「模擬裁判などを通じた広報に加え、将来裁判員になる小中学生へのPRも強化したい」と鬼沢所長。裁判員制度のメリットを最大限発揮していくためにはやはり、地道な啓発が欠かせない―。記者も模擬裁判を通じて「縁遠い世界」とのイメージが薄れ、そんな思いが強くなった。