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「そうだ最初から妊娠しない人を雇えばいいんだ!」

5/21(日) 22:00配信

ELLE ONLINE

育児休暇明けに降格させられた……。出産後の休暇制度がほぼない米国では、キャリア女性たちはひと苦労。そんな背景もあって女優やタレントたちは急いで産後ダイエットに励むわけだけれど、日本でもタレントたちの復帰も大変なようで……。育児休暇取得への障害となっている、ある考え方に迫る。

日本のバラエティ番組でグルメうんちくなどで人気の男性芸人が、復帰を画策する育児中の女性タレントに向かって「イチから始めよう」「ひな壇のいちばん上から」というようなアドバイスを送っていた。

彼女のタレントとしての実力がどうとか、主婦層を狙ってママタレとしてキャリアアップしようとしている姿勢の甘さなどといったことはすべて脇に置いておくとして、この発言にゾッとした。


なぜ、育児がひと段落して復帰すると「イチから」キャリアをつくらないといけないのだろう。なぜ、それまでのキャリアを全部無視してやり直さないといけないのだろう。

これは会社内でいえば育休明けたら降格させられていて当然、と言っているのと同じ。これはほぼほぼ違法(※)。厚生労働省のサイトにもあるように、育休明けの労働者に対する「正社員を非正規にすること」「降格」「不利益な配置の変更」はNG事項になっていて、訴えたら大体勝てるレベル。


たとえタレントに対してのものだったとしても、こんな発言を編集もせずに流す側の神経も疑うけれど、違法かどうかググっていたときに見つけたある企業コンサルタントおすすめの対策法にもびっくり。

内容は、「育児休業をとった女性管理職の代役をしていた人が思わぬ実力を発揮したので、彼女が戻ってくると同じポジションに2人いることになる。なので、育児休業をしていたママ管理職のほうを降格させたらマタハラだと訴えられた。どうしたらいいですか?」と訊ねる企業への回答だったのだが、ざっくりまとめるとそのコンサルタントはこうアドバイスしていた。

「『妊娠を理由として(契機として)』降格するわけではない言い訳をつくるために、育児中の『時短勤務』や『残業免除』の場合は、役職を解くのだというルールを事前に作っておけばいいんです! このルールがあれば、この対応は労務政策であって、妊娠を理由とはしていない(妊娠や育児短時間勤務を理由とした降格ではない)と言うことができます!」


確かに、企業へのアドバイスとしては正しいのだろうけれども、すごく嫌な気分になる。この背景にあるのは、企業の利益追求や経済効率には「キャリアの途中で休む」という行為は面倒くさく、迷惑で、物事を複雑にするので、組織のためにキャリアを犠牲にするのは当然! という“合理的”な思想。そしてそんなマッチョ思想の人が次に考えるのは、「従業員が途中で子どもを産むからこういう面倒くさいことが起こるんだ。そうだ、だったら最初から妊娠しない人を雇えば何の問題もなくなる!」という“論理的な”暴論だ。そうして労働環境は、就職面接時「結婚する気はありますか?」「妊娠したら辞めるつもりですか?」と女子学生に訊いていた時代に後戻りする。

さて、少子化はいつ改善されるだろう。


そういえばあの芸人さんは、子どもが生まれたら育児休業を取って、ひな壇芸人としてイチからスタートするつもりなのだろうか。それとも大体は奥さんに任せるのだろうか……。もしくは育児は妻に任せておきながら、イクメン風味のインスタを投稿し、ベストファーザー賞とかを狙ってしまうのだろうか。はたまた復帰したいと妻が言ったとき、彼は妻の代わりにキャリアを中断するのだろうか。余計なお世話だが、今から彼の妻のことが心配だ。

現在日本ではNetflixで配信されている、ユニセフ公認のドキュメンタリー。ここに登場する育休を経てわずか2か月で職場復帰を命じられたアメリカの女性と、北米の異常なほどの母乳育児率の低さの相関関係などを知ると、別の女性の「私たちは未来の投票者を育てているのに社会にはまったく評価されない」という叫びが響く。

育休をとったらイチから始めろ。そんなことを言う会社や上司や旦那に、そっとオススメしたい。


(※)育児介護休業法第10条(不利益取扱いの禁止)
事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

最終更新:5/21(日) 22:00
ELLE ONLINE