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「忖度」を感じさせる名レスラー、石川孝志 「引き立て役」の美学

5/21(日) 12:00配信

AbemaTIMES

 かつて全日本プロレスに石川孝志というレスラーがいた。大相撲出身で、前頭四枚目まで進んだ実力派である。

 1990年代前半は同じく相撲出身の天龍源一郎と行動を共にし、SWSやWARの中心選手となるほか、その後天龍と袂を分かち、自らも「東京プロレス」を旗揚げしておおいに注目を浴びる選手となる。

 だが、1980年代中盤、全日本プロレス時代の石川は長州力の藤波辰巳に対する「オレはお前の噛ませ犬じゃねぇ」発言どころではない「噛ませ犬」的役割を与えられていた。

 それは、当時社会の理不尽さを知りつつあった小生(ファビュラス吉岡・53歳)にも自分事として感じられた。何しろバイト先の引っ越し屋では、先輩が嫌がる便所掃除やら、ゴミ出しなどを「お前が一番若いからやれ」と言われ「分担制にしてくれよぉ」といつもグヌヌヌと歯を食いしばっていたのである。

 石川の立ち位置というのは「う~ん、そこそこ実力あるけど、負けても納得感があって、スター選手の名誉を傷つけないために都合のいいヤツいないかなぁ…」といったところにある。ジャンボ鶴田、天龍源一郎、ジャイアント馬場と組み、実力派外国人チームや、長州力のジャパンプロレス軍団と闘うことが多かった。

 たとえば鶴田・石川VS長州・谷津といった試合であれば、序列としては鶴田→長州→谷津→石川だろう。ここでは鶴田と長州はともにフォール負けがなかなか許されない状況にある。となれば、谷津か石川がフォールされる形となるのだが、観客も含め、序列4番目の石川がフォールされることにもっとも納得感が高かったのだ。石川もその役割を受け入れていたように感じられる。

 タッグマッチでは、石川が相手にボコボコにされた後にようやくスター選手にタッチをし、彼がそこから八面六臂の活躍をする「引き立て役」としての役割も担っていた。使う技も「相撲タックル」や「ドロップキック」など地味なものが多い。

 石川のリングコスチュームは紫のタイツ。高田延彦のタイツの元祖であり、さらには白いリングシューズは長州力と同じである。そう、石川は高田と長州のハイブリッドタイプだったのである。

 そして、石川のこの健気さを感じられるのが、得意技の一つがサソリ固めだったところだ。だが、すぐに相手から外されてしまうか相手のタッグパートナーからの蹴りをくらって外されてしまう。長州のサソリ固めといえば、相手をギブアップに追い込む必殺技として知られるが、長州のサソリ固めを特別なものとすべく、すぐに外されるサソリ固めを石川が使ったのではないか、という今ヒットのキーワード「忖度」を感じてしまうのである。

 しかし、そんな石川も一回やらかしている。ジャイアント馬場と組み、タイガージェット・シン&マリオ・ミラノ組と闘った時のことだ。お約束の展開で石川が二人からボコボコにされ、サソリ固めは外される、馬場は悠然と相手をなぎ倒していく。そんな状況が続いていた試合開始7分過ぎ、ボディスラムでミラノをマットに叩きつけた石川はトップロープからミラノにギロチンドロップ! まったく加減を知らず、完全に喉に入ってしまったのだろうか、ミラノは失神してしまったのである。

 レフリーのジョー樋口も戸惑いながら3カウントを取ったのだが、これはハルク・ホーガンのアックスボンバーによる「猪木ベロ出し事件」の陰に隠れた放送事故である。小生はこの時、後に大化けする石川の「狂気」と反骨心を感じたのだった。新日本プロレスに反旗を翻した長州力と高田延彦。この2人のハイブリッド型である石川も、昭和プロレスに偉大なる足跡を残した名レスラーだったといえよう。

 文/ファビュラス吉岡(3拍子揃ったライター)

最終更新:5/21(日) 12:00
AbemaTIMES