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近年増えている“6月病”とは?

5/22(月) 12:40配信

ITmedia ビジネスオンライン

 優秀な人材の採用、最適な人材配置――。人事の役割は多岐にわたり、しかも組織の力を高める上で重要なものばかりだ。また近年は、人手不足が深刻化しており、採用した社員を“いかに辞めさせないか”という役割も強く求められている。

【6月病について説明する勝久寿院長】

 そうした中でこの5月は「就職」「転職」「異動」など環境の変化や連休による反動で、体調不調を起こしやすい時期と言われている。読者の職場でも、「5月病」にかかっている人はいないだろうか?

 「いやいや、私の職場は大丈夫」と思っているかもしれないが安心してはいけない。実はいま、5月ではなく6月に突然メンタル不全で倒れてしまう「6月病」が増えているのだ。6月病に詳しい人形町メンタルクリニックの勝久寿院長によれば「5月病よりも厄介で、気を付けなければならないのが6月病」だという。

 あまり聞いたことがないこの6月病とは何か。また、どうすれば6月病から社員を、そして自分を守ることができるのか。勝院長に話を聞いた。

●5月病と6月病

――まず、「5月病」とは何か。改めて教えていただけますか。

勝院長: 5月病はもともと、60年代にマスメディアが作り出した言葉です。当時は、受験勉強を頑張ってきた真面目な学生が入学後に燃え尽きて目標を失ってしまう、あるいは、思い描いていた理想と現実のギャップに悩むことで5月くらいに学校を休みがちになってしまう現象のことを指していました。

 その5月病という概念が、「就職」「転職」「異動」などで変化した新しい環境に適応できない社会人に対しても使われるようになったわけです。

 4月は学生だけではなく、社会人にとって環境が変わることが多い時期。4月はまだ我慢ができても、5月の連休の反動で疲れ(症状)が一気に出てしまうケースが多いのです。

 この5月病を正式な病名に直すと「適応障害」ということになります。適応障害は「(仕事などに対して)不安が強くなる」「無気力になる」「お酒の量が急に増えたり、怒りっぽくなる」などの特徴があります。また、主に「真面目」「完璧主義」「プライドが高い」といった要素のある人が疾患に陥りやすいと考えられています。

――「5月病」だけでなく「6月病」という言葉もあるそうですね。「6月病」とは何のことでしょうか。

勝院長: 4月からの抱えていたストレス状態が続き、なかなかそのストレスを断ち切れない人が6月に「うつ病」になるというケースがあります。それが6月病です。5月病(適応障害)は急性疾患によるものですが、6月病(うつ病)は慢性疾患。慢性的にストレスを抱えることによって起こります。近年こうしたケースがよく見られるようになりました。

 6月病の一歩手前である5月病の段階で適切に対処し、ストレスを解放できればいいのですが、それができすに我慢してストレス状態を放置すると6月頃に心の糸が切れてしまうのです。

 結果、精神状態がボロボロになり、職場への復帰が困難になってしまいます。できるだけ早くストレスを断ち切る(解消する)ことが大切なのです。

●自分のストレス状態を知る方法

――6月病は増えているのですか?

勝院長: 精神障害の患者数に関する厚生労働省の統計では、月次ベースのデータがありませんので、増えてきたことを数字で実証することはできません。しかし、当院では6月病の患者さんが増えてきています。

 会社を辞めずらくなったことが理由の1つとして考えられます。ここ2~3年は売り手市場ですが、それまでは景気が悪かったので就職や転職が大変でした。「いまの会社にしがみつかなきゃいけない」「我慢しなきゃいけない」と思っている人が多かったのでないでしょうか。

 もう1つの理由は、「所属感」「仲間意識」といった感覚が職場で得られにくい時代になったことです。昔は終身雇用制度によって企業への忠誠心も高く、「同じ釜の飯を食う」いわゆるファミリー企業が多かったわけです。こうした「所属感」「仲間意識」は精神的な健康を維持する上で重要な要素になります。社会が過度な成果主義に変わったことで職場の人間関係も淡白(たんぱく)になり、ストレスを溜めやすくなっていることも原因だと思っています。

 こうした状況に対して企業(人事)は、チームのメンバーと「仲間意識」を感じてもらえるように、仕組み作りをしてサポートしていかなくてはいけません。有効な方法としては「一緒に何かをする」機会をつくること。サークル活動だったり、運動会、昼食会、飲み会なども効果的ですね。重要なのは仕事とは関係のないコミュニケーションを取る機会を増やすことです。

――自分のストレス状態を知る方法はありますか?

勝院長: 「新しいタスクが追加されたとき」「新しいことを始めなければならなくなったとき」にイライラしてしまう場合は、既に高ストレス状態にあります。

 普通の状態であれば、前向きに捉えられることでも、余裕がなくなっているために「オレに仕事を振るな!」「それはあいつの仕事だ!」と、イライラしてしまうわけです。

 このほか、「ミスや抜けがないか神経質に確認するようになる」「仕事のことが心配で早朝や休日に仕事をしたり、遅くまで会社に残るようになる」人は黄色信号です。また、高ストレス状態のときは、周囲の発言や行動が肯定的に捉えられなくなり、自分を責めている、見下している、嫌っているように思えてしまうのです。

 もし、心当たりがある人はしっかり気分転換をしてください。前述したように、ストレス状態が続くと、心の糸が切れてしまいますから。昔から言われていることではありますが、深呼吸や運動、昼食後の仮眠、音楽鑑賞などにはストレスを軽減させる効果がありますので、実践してください。

●リーダーの心が折れないためには

――チームをまとめるリーダー層は比較的ストレスを溜めやすい環境にあると言われていますが、どのように対処すればいいのでしょうか。

勝院長: 中間管理職(リーダー層)は部下と上司の板挟みになるので大変です。また多くの管理職は、相談できる同期や先輩がいた新人だった頃と比べて、社内に相談できる相手も少なくなります。相談相手やサポートしてくれる人が周りに少ないと、メンタル不全を起こしやすくなります。

 そうした、管理職の人は「捉え方を変える」ことが重要な対処法になります。ネガティブな性格(捉え方)の人はメンタル不全に陥りやすい傾向があるので、そうした人は考え方のクセを変えていき、ストレス耐性を高めていく必要があります。

 当病院でも、即時性の高い対策として「捉え方を変える」ことを推奨しています。例えば、不本意な異動があったとき。そのことでストレスを受けないためには「その異動先で想定していなかったメリットも得られるかもしれない」と発想を転換する必要があります。

 近年は捉え方を変えるための研修が数多くありますね。全員が簡単に会得できるというものではありませんが、「捉え方は変えることができる」ということを知っているだけでも、大きな強みになるはずです。

 例えば、『嫌われる勇気』などで話題になったアドラー心理学は、まさに「捉え方を変える」ことで不安や劣等感を克服させる学問であり、ストレスを弱める即時的な効果が期待できます。

――それでも捉え方を変えられずに悩んでいる人はどうすればいいのでしょうか。

勝院長: 捉え方をなかなか変えられない人は「気分転換」をしっかりすることを意識してください。生活の柱が「仕事一本」になってはいけません。そうした人は仕事がうまくいかなくなったとき、「自分の人生はダメだ」と心が折れてしまうかもしれませんので。

 趣味だったり、家庭だったり、生活の中に仕事以外の柱(仕事を忘れられる時間)をできるだけ多く作ってくだい。もし1つの柱が傷ついて倒れてしまったとしても、他の柱が自分を支えてくれます。体を休める時間よりも、仕事以外の何かに没頭する時間をしっかり確保することが、メンタル面では重要になります。


(鈴木亮平)