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「LINEで勧誘された」 SNSで広がるマルチ商法、その問題点と“法律で全面禁止”されない理由

5/22(月) 11:10配信

ねとらぼ

 「マルチ商法って何が悪いの?」こんな書き込みをネット上の質問掲示板などで見かけます。質問者は若い人が多いようで、「マルチ商法は詐欺だと習った」くらいの認識のようです。そうか、最近の若い人はマルチ商法が何なのか知らないのか……と、国民生活センターに15年間勤めた筆者は感じます。

【図解】マルチ商法の仕組み

 ネット上でのこうした質問への回答を読んでいくと、相反したような内容が並んでいます。

・「ネズミ講と同じ」/「ネズミ講とは違う」
・「トラブルが多い違法な取引」/「合法だから問題ない」

 一見正反対に見える主張が存在するのはどうしてでしょうか? 実は、マルチ商法が生まれてからの歴史をたどると、どうしてこの両方の意見が出てくるのか、その背景が見えてきます。

 先ほど「最近の若い人」と言いましたが、筆者は1976年生まれ。マルチ商法が日本で最初に流行し始めたのは1970年前半で、現在40歳の自分も生まれてはいません。そこでいろんな資料を使って調べてきましたので、一緒にその歴史をひもといていきましょう。

●最近のトラブルは「SNS」が特徴

 歴史を知る前に、まずは“今”の状況を見ていきましょう。マルチ商法に関するトラブルでは、最近はどのようなケースが多いのか、国民生活センターに取材しました。

 マルチ商法に関する相談は、20歳代の相談が圧倒的に多く、中でもSNSをきっかけにしたトラブルが増加傾向にあるとか。具体例として、最近行政処分が出た「旅行等会員権」のマルチ商法の手口を教えてもらいました。

SNSを用いた手口

 甲さんは、SNSで知り合いから「旅行を仕事にしませんか?」「会って話しましょう」というメッセージが来たので、喫茶店で会うことにしました。

 喫茶店で「セールスレター」を渡されました。セールスレターには「旅行するだけでもうかる。セミナーに行こう!」と書いてあり、翌日セミナーに行くことに。

 セミナーでは講師に「お金がもらえる」「楽しいよ」「高額な年収が得られるよ」などと説明されました。その間知り合いにはずっとつきまとわれていて、スマホを使うことさえできません。

 ようやくセミナーが終わりました。帰ろうとしても、関係者に取り囲まれて、とても帰れない雰囲気。「今登録しないといけない」と長時間勧誘されて、結局会員登録をしてしまいました。

●LINE、Facebook、Instagramに……悪質商法の書き込み

 このように、SNSをきっかけとするトラブルが近年増加傾向にあります。前述の事例のように喫茶店に呼び出されるケースもあれば、申し込みまでネット上で完結するケースもあるそうです。

 多くの人が普通に使っているTwitterやFacebook、InstagramなどのSNSに、そのきっかけとなる投稿があり、マルチ商法に限らずあらゆる悪質商法の入口になっているとのこと。そこからLINEなどの個別メッセージに誘導されるケースもあります。

 以前はマルチといえば友人や親戚への勧誘というイメージが強かったですが、今はSNSを使って不特定多数を勧誘することも。地元の友人を一斉に勧誘したら、地元にいづらくなったなんて話もあります。被害者が加害者にもなるのがマルチ商法の特徴。勧誘した友人の親にひどく怒られたという話も聞いたことがあります。

 国民生活センターへの相談内容としては、「お金を取り戻したい」が多数。必要な初期費用は、幅はあるものの、例えば学生相手なら20万~30万円と、クレジットカードの利用限度額を狙ったと思われる金額だったり、リボ払いにさせられていたりで、決して気軽に諦められる金額ではありません。

●マルチ商法のお金の流れ

 さて、ちょっとマルチ商法を知っている人は、前述の事例のどこがマルチ商法なのだろう? と思ったかもしれません。実は、この事業者はセールストークで「1人紹介するとボーナスが入り、2人紹介すると最初の会費分を取り返せる」と説明していました。

 つまり、

・1人紹介するとボーナスが入る(=人を誘うとお金がもらえる)
・最初にお金を払う必要がある(=始めるためにお金がかかる)

 とてもざっくりとした説明ですが、大概のマルチ商法にはこのお金の流れが含まれています。実際には事業者がはっきりと説明しないこともあって、相談者本人もマルチ商法だと自覚しておらず、相談に来て初めてマルチ商法だと気付くこともあるんだとか。このあたりの仕組みは本当に複雑です。

 ところで前述の事例を読んで「勧誘の問題であってマルチ商法の問題ではないのでは?」と思われた方もいるのではないでしょうか。確かに、この売りつけられ方をしたら、売られたものがマルチ商材でなく、高額な情報商材でも、大量の布団でも、とにかく何でも嫌でしょう。

 マルチ商法はそれ自体は法律で禁止はされていませんが、たくさんの禁止事項が規定されています。その禁止事項の多くは勧誘時に関するものなので、どうしても行政処分が出るときは勧誘の問題にフォーカスされがちです。

 このあたりが「マルチ商法って何が悪いの?」という疑問を生む一因ではないかと感じています。そもそも「マルチ商法」がどういうものか知らなければ、良いも悪いも判断できないでしょう。

 マルチ商法が日本に登場した1970年代、何が社会問題になったのかを見ていくと、冒頭のさまざまな疑問の答えが見えてきます。という話の前に、国民生活センターの方に「これだけは書いておいて」と頼まれたので、そちらを先に言わせてください。

 勧誘をされて契約してしまったけど、なんか不安。やっぱりやめたいなどということがあれば、早めにお近くの消費生活センターに相談してください。

 消費生活センターの電話番号は全国どこでも「188」です。

 クーリング・オフ期間内なら、クレジットカードの引き落とし前なら……など、対応が早いほど打てる手が増えます。心配なのでアドバイスが欲しいというだけでも相談は受けていますので、心にもやもやがあったら一日でも早く相談してください。

●ネズミ講って何ですか?

 こうした悪質商法に引っかからないためには、その仕組みや歴史を理解しておくことも重要です。マルチ商法の前に、まずは仕組みが理解しやすいネズミ講について解説しましょう。

 ネズミ講は1960年代~70年代に社会問題となり、78年成立の「無限連鎖禁止法」により全面的に禁止されています。法律的にいうとネズミ講(無限連鎖)とは、


1. 金品を払って組織に加入
2. 加入したら2人以上勧誘
3. 先に勧誘した者は、後の人の払ったお金で、自分が支払った金品以上の金品を受け取る

 という仕組みです。

 ここでは単純な架空の事例を使って、ネズミ講の仕組みを見ていきましょう。

(1)親会員が子会員を勧誘する。
(2)本部に1万円払う。
(3)子会員が孫会員2人を勧誘する。
(4)子会員より5代下の会員ができれば、お金が振り込まれる。

 5代下の会員数は16人いるので16万円もらえる。

 この仕組みは、必ず破綻します。なぜかというと、2代目は2人、3代目は2の2乗で4人、4代目は2の3乗で8人……28代目の2の27乗で、約1億3000万人と日本の総人口を超えてしまいます。28代目の人は勧誘する相手が国内にいないことになります。もちろん、実際には入会しない人もいるので、もっと早く限界がきます。

 下の会員に行けば行くほど、勧誘する相手がいなくなり、支払った金額を取り戻せなくなります。そうして無理な勧誘をして人間関係を悪くしたり、会費を払うためにした借金が残ったりします。そのような被害者が実際に多く発生しました。

 前述の例は、話を簡単にしているので負担金は1万円ですが、実際には条件が異なります。当時の新聞を調べてみると、1口の金額が数十万円のものもあったようで、78年には数千万の借金苦が原因で無理心中などの事件も起きていました。

 当時、特に問題となったネズミ講団体である「天下一家の会」は宗教法人との関係をアピールしたりPRにもたけていたそうです。「財団法人なら」と信じ、友人や親戚づきあいで義理で入るなど、金に目がくらんだだけとはいえない被害者も多かったようです。

●マルチ商法って何?

 では続いて、マルチ商法についても見てみましょう。マルチ商法と一言でいっても、ものすごく大量のパターンが作り出されているので「ホリディ・マジック社」を例に説明します。

 「ホリディ・マジック社」は、1960年代にアメリカで「MLM(マルチ・レベル・マーケティング)」を始めました。これが70年代に日本に進出して、さまざまなトラブルを生み「マルチ商法」と呼ばれるようになりました。当時の新聞にもマルチ商法は「マルチ・レベル・マーケティングの略称です」と書かれています。70年代には同社以外にも国内に300とも500ともいわれる数のマルチ業者が存在したようです。

 こちらも75年の新聞などからホリディ・マジック社の仕組みを見ていきましょう。

 出資金を払い会員になります。会員には「ゼネラル」「マスター」「オルガナイザー」「ホリデイガール」の4種類があり出資金は3900円から90万円。ランクが高い方が収入は高くなります。このランクによる階層構造を「マルチ・レベル」と表現したのがマルチの語源だそうです。

 新規会員が古参会員から化粧品を購入します。それを自分で勧誘した下部会員に再販売します。

 新たな会員を増やすことでも、収入になります。

 つまり、ネズミ講とよく似てはいますが、「金銭だけがやり取りされる」ネズミ講に対して、マルチ商法は「商品やサービスの販売など」をしている組織なのです。人を勧誘すればお金がもらえるという仕組みは共通です。

●社会問題化したマルチ商法

 当時の新聞ではマルチ商法について、ネズミ講と同時期に社会問題となったこともあり、「アメリカ版ネズミ講」「ネズミ講商法」とも書かれています。このあたりから「マルチ商法=ネズミ講のようなもの」というイメージが定着したのではないでしょうか。

 ホリディ・マジック社は、化粧品の販売よりも、新たな会員を獲得するほうが収入につながる構造でした。会員を獲得するビジネスモデルだけに着目すれば、ネズミ講と仕組みは同じです。末端の会員はどんどん勧誘がきびしくなる状態を生みます。

 そのため「月収100万円も夢ではない」と言われたのに、出資金さえ取り戻せないなどの被害が多発します。不況の深刻化と共に脱サラ族や主婦、そして高校生にまで被害が出る状態となりました。当時の新聞には、会員の中にはノイローゼになったり、離婚したり、自殺したものまで出ていると書いてありました。

 そのような問題が多発するなか、1976年に訪問販売法(現在の特定商取引法)が成立します。このなかで「連鎖販売取引」という名前でマルチ商法が規制されることになりました。

 マルチ商法はネズミ講と違って「全面禁止」にはならず、「こういう勧誘方法はダメ」などのルールができたり、契約の解除ができるクーリング・オフ期間が長めに設定されたりするなど、規制と消費者保護の仕組みが盛り込まれる形で決着しました。このような法律での取り扱いの違いが「ネズミ講とマルチ商法は違う」という意見を生むのでしょう。

●「全面禁止」論VS「部分規制」論

 これまた当時の新聞を引っ張り出してくると「マルチ商法全面禁止」という声は当時もあったようです。しかし、全面禁止法案の成立は断念されました。そこには、当時流行し始めた「フランチャイズ制度」と法令文上の書き分けが難しいなどの技術的な理由があると説明されていました。

 そこで現在の「営業の形態をある程度緩やかに決めておき、悪い行為を取り締まる」方式が採用されました。78年の国会の委員会議事録を読んでも「全面禁止すべき」という意見と、「悪いマルチだけを取り締まるべき」という2つの意見は強く対立している様子がうかがえます。

 法律の条文で定義するのが難しいマルチ商法。76年の法律制定後一時はトラブルが減少するものの、80年代には法律の規制を逃れた「マルチまがい商法」が登場します。マルチまがい商法で被害を出した会社は、当時大ニュースになった豊田商事の子会社。再び社会問題となり、法律が改正されます。

 このように生まれた「マルチまがい商法」という言葉、これは「合法ドラッグ」のように「合法だからって良いということではない」というニュアンスで使われていました。もちろん、このマルチまがい商法は勧誘方法に問題があったことは言うまでもありません。

 現在でも、マルチ商法は「組織に参加した会員全てが利益を上げ続けるためには、組織が無限に拡大し続けなければならない仕組み。従って必ず破綻する組織であるのにもかかわらず、あたかも無限に誰もがもうかっていくかのような説明がされることが多い」と問題性を指摘する法律家がいる一方、「特定商取引法の連鎖販売取引は、マルチ商法そのものを違法として禁止しているわけではないのだから、法律を守っていれば違法ではない」という主張もあり、意見は対立しています。

 土地の歴史をたどることで、過去にそこに生きていた人々の生活が分かるように、法律の歴史をたどることで、過去に生きた人々の生活や社会が見えてきます。今、現在のルールがどうしてできたのかを調べて理解することで、無用なトラブルに見舞われる可能性を少しでも下げることができるでしょう。

最終更新:5/22(月) 11:10
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