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なぜオープンハウスの都心戸建て住宅は飛ぶように売れるのか?

5/22(月) 7:11配信

ITmedia ビジネスオンライン

 「都心の一軒家」と聞いて、多くの人は「高そう」「買えない」「金持ちが住む家」などと思うかもしれない。ところが今、好立地で手の届く価格帯の戸建て住宅を年収500万~1000万円の平均的な会社員が相次いで購入しているのだという。

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 そうした物件を提供するのが、1997年設立のオープンハウスだ。同社は2001年に新築戸建て物件の販売をスタートし、売り上げをぐいぐいと伸ばしていく。2013年9月には東証一部への上場を果たした。2016年9月期の業績は売上高2472億1000万円(対前年比37.9%増)、営業利益313億2000万円(同47.0%増)と急成長を遂げている。

 オープンハウスはなぜ都心の戸建て住宅を一般的な相場よりも安く販売できるのだろうか。他社にはない同社の強みとは何だろうか。一橋大学大学院 国際企業戦略研究科(一橋ICS)の大薗恵美教授が、オープンハウスの荒井正昭社長にインタビューした(以下、敬称略)。

●都心に住みたいというニーズ

大薗: オープンハウスは、「東京に、家を持とう。」をキーワードに、従来は通勤の便利なところでの家は無理だと思っていた人が戸建てを持てるという価値提供を掲げて事業展開しています。私自身もそうだし、業界全体も、皆が無理だと思っていたことを成し遂げた結果、急成長を遂げています。どういうきっかけでこの事業に取り組み始めたのですか?

荒井: 最初は仲介業からスタートしました。私は起業する前に10年間、不動産仲介の会社でサラリーマンをしていて、顧客のニーズを把握していました。彼らは都心に近い場所ほど喜ぶものの、自分たちが買えるような商品がないと思っていました。

 そうした中、1987年に建築基準法が改正されて、準防火地域においても木造三階建てが解禁になりました。その結果、土地がそれほど広くない都心部でも3LDKの家が作れるようになったのです。それ以前ならばもう少し広い土地が必要でしたが、土地の値段が高くなるので顧客が望むような商品は提供できませんでした。

 実は木造3階建ての販売は当社だけでなく、地場の不動産会社は昔からやっていたことです。ただし大手デベロッパーが手掛けていなかったので、あまり世の中に知られていなかったのだと思います。いくつかの小さな会社がやっていた中で、当社だけが大きくなっていったのです。

大薗: 規制が変わって、木造三階建てのビジネスができるようになった。この事業機会は誰にも等しく与えられたもので、実際にそれを生かした地場の不動産会社もあったわけですね。なぜ彼らはオープンハウスのように大きく成長しようと思わなかったのですか?

荒井: これは人間の心理で、普通はそこそこ成功したら満足してしまうのです。成功するまでは努力するけれども、ある程度まで達成すると、もっと欲張ってやろうという人は少ないのではないでしょうか。例えば、東京大学に入るまでは必死で勉強するけれど、入学後も継続して寝る間を惜しむような勉強をする人が少ないように。

 もう1つ、当社と他社が異なるのは人材戦略です。私が起業したときは大学卒の22歳人口が200万人いましたが、今は120万人にまで減っています。当時、街の不動産会社は採用はいつでも簡単にできると思っていたので、先を見据えた人材採用をするような備えはありませんでした。一方で、当社は今でも年間200人以上の採用を行っています。

大薗: 会社を大きくしたいという思いは最初からあったのですか?

荒井: 創業時はなかったです。普通よりも良ければいいと思っていましたし、働くのは収入を得るためで、それを手にしたら働く必要はないという考えでした。

 それが35歳くらいから変わりました。理由は社長の責任として、従業員を幸せにしないといけないと思うようになったからです。例えば、22~23歳の若者が入社してきても、会社が大きくならなければ、彼らはずっと同じポジションのままなわけです。

 その後、会社を大きくすることは、自分たちの力だけで大きくなるのではなく、社会から必要とされるから大きくなるのだという考えを持ちました。だから社会に足りないところを満たすような会社になるべきで、そうした商品を提供していく必要があると思いました。基本的な考え方はそこからぶれていません。

大薗: 都心の一戸建てという着眼点は最初から変わっていないのですか?

荒井: はい、顧客が望む場所に戸建てを作ったら、一番売れるだろうという確信はありました。かつては郊外の庭付きの一軒家が好まれた時代がありましたが、社会はどんどん変わってきていて、今は通勤に時間をかけるのは愚かだと言われるようになりました。

 また、リーマンショック以降は、夫婦共働きのダブルインカムが当たり前になっていて、世帯年収は上がっています。すると職場にも近くて、生活しやすい都心に住みたいというニーズは高まっているのです。実際、当社はリーマン後から急成長しています。

 リーマン直後の2008年10月に、目黒で不動産を販売したところ飛ぶように売れました。史上最大の金融危機と騒がれている最中にもかかわらずです。それで確信して積極展開を図りました。リーマン前だったら家賃が月に20万円の家に住んでいる人が買う場合、住宅ローンも月20万円が相場でしたが、リーマン後はそれが6~7割、つまり12~14万円の支払いだったら買うだろうと考え、そうした物件をどんどん作って販売しました。競合他社は当時、そうした考えはなかったのです。

●先入観は捨てるべき

大薗: オープンハウスは土地の仕入れもユニークで、三角形の土地や線路沿いの土地など、値段が付きにくい土地も積極的に確保しています。さらに仕入れ営業については地域担当制ではないため、同じ不動産仲介業者に複数のオープンハウスの営業担当者が営業していることも少なくないといいます。この仕組みは当初から原型があったのか、企業の成長とともに仕組みを変えてきたのですか?

荒井: 仕組みそのものは変わっていません。用地を仕入れる際、同業他社は仲介業者の情報を貰って入札で買うのが一般的です。しかも多くはベテランの営業マンが担当しています。当社では学校を出たばかりの若手社員が担当していて、とにかく運動量豊富。顧客との接触時間が多い方が、売り上げ数字が伸びることは分かっていたので、そのようにしています。合理的な選択です。扱う土地がほかの会社では事業化が難しい場合でも、コミュニケーションが毎日しっかり取れているので、「オープンハウスなら何とかしてくれる」という信頼関係が不動産仲介事業者との間にできているのです。

大薗: 他社は土地の仕入れを重視していないのでしょうか?

荒井: 入札なのでそう安くは買えず、そこでほかと差はつかないと考えているからでしょうね。また大手はより魅力的な完成品にして販売するといった出口戦略に力を入れているので、調達価格が高くても気にしません。ただ、それでは顧客が本当に望むものを作れないだろうと思います。

 また、三角形の土地は売れないと言いますが、生まれたときから三角形の場所に住んでいる人にとってはまったく問題ないのです。線路沿いや墓地の隣の土地だってそう。それよりも都心に近いという理由で買うわけです。どんどん顧客ニーズは合理化されています。常識にとらわれず、昔からある先入観は捨てるべきです。当社は商品を企画するとき、まず若者にヒアリングします。どこが今人気の場所なのか、若い人が一番よく知っています。

大薗: 販売戦略はどのようにされているのですか?

荒井: 起業したときから営業で一番大事なものは、営業力(コミュニケーション)ではなく、問い合わせ件数だと考えています。問い合わせの多い担当者が営業力があるのです。すごい腕のいい営業マンがまったく買う気のない人に売るのと、すぐに買いたい人に能力がない営業マンが売るのではどっちがいいと思いますか? 問い合わせさえ多ければ、たとえコミュニケーション能力が低くても売れるのです。

大薗: 顧客はそれでいいのでしょうか?

荒井: 買うモノがあるということが大きいです。家は感情で買います。ロジックでは買いません。偉そうなロジック型の営業担当から家は欲しくないでしょう。上から最もらしいこと言われるよりも、下から気持ち良くさせてもらいたいのが人間の本能です。

 不動産に関して、究極的に顧客にとって営業マンは関係なく、場所と価格なのです。そこに良い商品を提供すればいい。あとは営業マンが信頼できそうかだけ。

大薗: オープンハウスは土地だけでも販売されますが、顧客の何割くらいが建物までを購入するのですか?

荒井: 7~8割です。2~3割は土地だけを買うお客さまで、「あの住宅メーカーで建てたい」といった思いがある顧客です。その顧客を取るための労力はかけず、「どうぞ、よそで建ててください」と言います。実は土地で全体の利益の大部分を確保しているので、建物だけ他社製でも当社には何らデメリットはありません。当社は土地と建物の総額で勝負していて、建物に関しては原価に近い価格でやっています。例えば、5000万円の物件があるとして、土地が3500万円、建物が1500万円。土地だけを見ると割高だけど、総額では安くなるのです。

大薗: 土地だけだと割高というのは、土地の販売の勝負としては不利なように思われますが、御社の仕入れる土地がユニークだから不利にはならないということでしょうか?

荒井: あとは大きさも違います。当社みたいに15坪、20坪といった土地はよそではあまり扱っていません。さらに安い価格であればなおさらです。

●資金ショートしないためのスピード感

大薗: そのほか、オープンハウスの特徴は、土地の調達から設計、施工管理、土地および建売営業までの流れが非常に速いことです。なぜこのことが大切なのでしょうか?

荒井: 不動産は大抵、独立系企業が倒産します。その理由は金融が詰まってしまうからです。そうならないためには常に手元資金が必要で、回転スピードが重要なのです。例えば、マンションの場合、開発が始まってから資金回収まで5年かかることはざらです。大手だと完成在庫があるので収益が安定しますが、中小の不動産であればあり得ません。だから当社は完成する前に全部売るようなスピード感で事業を行っているのです。

大薗: 顧客にとっては、早く成約しないと売れてしまうわけですから、決断へのいいプレッシャーになるわけですね。

荒井: あとは営業マンにとっても、回転速度を上げないと目標が達成できないような基準が設けられています。1つの課で週に1棟売るようなビジネススピードです。

大薗: 今のビジネスモデルで成長を考えたとき、今後は東京に似たような地方の大都市でビジネスを強化する可能性はありますか?

荒井: 名古屋では始めたばかりですが、既に成功は見えています。地方の中核都市でも通用することが分かったので、ここをしっかり伸ばしていきたいと思います。

 ただし、常に次のビジネスを見つけていかないといけません。今のビジネスモデルは10年後は厳しいかもしれません。また、顧客は新築を買わないでリフォーム中心になるかもしれません。ニーズはどんどん変わっていくのです。将来的には、毎月安定した収益があるストックのビジネスもやりたいですね。

(伏見学)