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ミラ イースで始まる新時代のダイハツ

5/22(月) 7:34配信

ITmedia ビジネスオンライン

 ダイハツは軽自動車の基幹車種、ミラ イースを5月9日にモデルチェンジした。これに先立つ3月16日にダイハツはブランドの再定義についての記者会見を行い、トヨタの完全子会社になって以降のダイハツのあり方を発表した。

【さまざまな取り組みにより実現した80キロの軽量化】

 ダイハツの三井正則社長は会見の中で「お客さまに寄り添う、つまりユーザーオリエンテッドな姿勢は、1957年のミゼットから続くダイハツならではの原点であります。この原点を忘れることなく、1ミリ、1グラム、1円にこだわり抜き、今後も軽および軽直上のコンパクトカーを含めたスモールカー市場にダイハツらしい商品を供給し続けてまいります」とダイハツの役割を定義した。

●謎のDNGA

 併せて、2016年1月の完全子会社化の記者会見でキーワードとして語られながらも子細が分からず、ようやくコンセプトが発表されたのがDNGA(ダイハツ・ニュー・グロバル・アーキテクチャー)だ。

 DNGAはトヨタのTNGAに倣うダイハツの新しいクルマ作りであり、2020年の東京オリンピックまでにはDNGA世代の新型車をデビューさせるとした。完全子会社化およびリブランディングの発表タイミングから見て、今回のミラ イースはDNGA世代というわけではない。

 DNGAというキーワードが出て以降、筆者は数度にわたってダイハツに探りを入れてきたが、彼らは今年の初めから新世代ダイハツのコンセプトを練り直し、3月の発表に漕ぎ着けたように見える。つまり、あらかじめ水面下でDNGAのコンセプトが進行していた気配は感じられなかった。

 しかしながら、新型ミラ イースの広報資料を見る限り、ダイハツはDNGAを強く打ち出しており、少なくとも自ら変化を推進しようとするダイハツの意気込みは見ることができる。一般論として、リブランディングにおいて、これまでの業績や方向性とまったく違う軸が据えられることはない。未来の指針は、過去の肯定と否定とを両輪にしつつ作られるものである。凄まじい勢いで変化し続ける時代の中で翻弄(ほんろう)されつつも、必死に未来を模索する日本企業の姿を筆者はそこに見るのである。

●ダイハツの屋台骨となる新型シャシー

 さてダイハツの軽乗用車ラインアップがどうなっているかと言えば、スズキやホンダと同様車高別に3つの基礎ボディを用意する。

・ミラ イース 車高1500mm 650kg
・ムーヴ 車高1630mm 820kg
・タント 車高1750mm 930kg

 この基本にそれぞれバリエーションが加わる。ミラ イースのバリエーションにはミラとミラココア。ムーブのバリエーションにはムーヴ キャンバスとキャスト。タントのバリエーションにはウェイクという具合であり、またムーヴとタントには男性客を意識した外装デザインを与えたカスタムシリーズが用意される。

 このラインアップの中でミラ イースは、いわゆる昔ながらの軽自動車サイズのベーシックモデルながら、エコ性能に特化したモデルとなる。ミラシリーズをベースに車高を上げて室内のボリュームを拡大したモデルがムーヴ。自転車がそのまま積めることを売りに、さらにかさ上げしたモデルがタントということになる。

 利害得失を見れば、車高の低いミラシリーズは軽量で重心が低い分、走行性能が高く燃費でも有利。立体駐車場でも困らない。これがムーヴになると広さと引き替えに重くなり、どこの立体駐車場でもOKというわけにはいかなくなる。タントになると重さは相当なものになり、トレッド幅が限られた軽自動車規格の中で、車高と重心が共に高いクルマのロールを抑えて走らせるためには、ばねを固める必要から乗り心地にも影響が出る。

 蛇足だが、これ以外の例外として軽商用のボディを使ったアトレーと2座スポーツのコペンでダイハツの軽乗用車ラインアップはできている。

 メイン車種は高さが3種と言っても、基本となるシャシーは共用で、今回ミラ イースにブランニューシャシーが与えられたということは、今後数年でここに挙げたすべての車種がこの新型シャシーに変わっていくはずである。

 開発カレンダーが常識的なものだとすれば、新型ミラ イースの企画が立ち上がったのが5年前、具体的な設計が始まったのは3年前程度であろう。当然完全子会社化を発表した2016年1月には、ミラ イースの開発は相当に進行していたはずだし、新ブランディングが発表された今年3月には、認可取得などの手続き上、もうクルマは完成していたはずである。

 問題は前述の通り、企画段階から軸を通したDNGAを熟成するには時間が足りず、旧来のダイハツの新製品として開発が進んできたシャシーと思われる点だ。今後を見据えれば、新ブランディングに先行して開発されてきたこのシャシーがダイハツのほとんどの軽自動車の基本となるだけに、それがどれだけ新ブランディングとマッチしているかがキーになる。

 ダイハツとしてはいろいろ難しいポイントがあるはずで、エンジニアリングの面では全軽自動車の基礎となるミラ イースだが、販売台数で見れば圧倒的にムーヴが多い。2017年4月の実績でみると4000台程度のミラ(ミラシリーズ合算)に対してムーヴ(ムーヴシリーズ合算)は約1万2000台とトリプルスコア状態である。

 ダイハツにとっての正念場は、ムーブのモデルチェンジのタイミングがやってくる2年後であり、前述の「東京オリンピックまでには」という言葉と合致する。しかし、ミラ イースを「なんだ本気の新型じゃないんだ」と見るのは早計で、リブランディングの反映はともかく、設計的には間に合わせでお茶を濁(にご)したようなものではない。それは端的に言えば車両重量に表れており、先代モデルとの比較で80キロの軽量化を成し遂げている。

 軽自動車の衝突安全テストが義務付けられて以降、軽自動車はその室内空間拡大と併せてどんどん重くなってきた。その流れを巻き戻して軽量化しないとこの先の進歩は見込めない。もっと言えば、ライバルであるスズキは既に2014年末にリリースしたアルトの最軽量モデルで610キロという数値を達成しており、ダイハツとしても待ったなしで軽量化を進めなくてはならなかった。

●方向転換

 80キロもの軽量化を成し遂げれば、さぞや燃費も向上したのだろうと見てみると、意外や意外、先代とまったく変わらない35.2km/Lである。軽量化の恩恵はどこへ行ったのか? ダイハツではこの恩恵を基に走行性能を向上させたと言っている。具体的にはアクセル半開での発進加速や追い越し加速能力の向上が図られている。

 燃費だけに特化し過ぎても意味がないことは分かるが、かと言って、これまで長らく燃費戦争に明け暮れてきた軽自動車の新製品としては少々違和感がある。筆者にして見れば、「脇目も振らずずっと燃費命で開発をやってきたはずなのに、なぜその方針を突然変えたのですか?」と皮肉の1つも言いたくなる。カタログ燃費に固執してはダメだと何度も言ってきたではないか。

 ダイハツは先代ミラ イースが登場した2011年から2017年までの軽自動車を巡る環境変化を下図のように分析した。その結果、低燃費と低廉性はもはや当たり前のものとして、訴求点として成立しなくなったと考えた。それは既に基本でしかなく、商品としての魅力はそれに新たに加算されなくてはならない。

 ダイハツが考えた軽自動車の新たな価値は、「安全・安心」と「クルマとしての基礎能力向上」であった。いわゆる運転支援システムの充実はその1つだ。ぶつからないブレーキや警告機能、誤発進抑制機能に加え、オートハイビームなどが追加された。軽自動車のコストではハイグレード車のみに標準装備というところが限界で、下位グレードはオプション扱いとなる。

 これはライバルのスズキも同様だが、現在これらの装備は各社が装備しているが、一見似たような機能の割に歩行者や自転車の検知機能や、稼働速度域がバラバラな状態であり、その利害得失を見定めるのはかなり大変だ。恐らく今後数年の間に歩行者と自転車検知および全速度対応に流れていくはずである。

 さて、本題は燃費と引き替えにしたという走行性能だ。ハーフスロットルでの発進加速や、追い越し加速の向上は、多少乱暴な言い方をすればドライバビリティの向上である。エンジンや変速機の制御をひたすら燃費向上だけに振り向けてきたことを反省し、少なくとも資料を読む限りにおいてはドライバーの意思を正しく反映する方向に舵を切ったように見える。それは非常に好ましいことだ。実際のクルマがお題目通りになっているかどうかは試乗の機会まで結論を待ちたい。

 いずれにしても、この基本シャシーはダイハツの今後10年を決めることになる。改良はされるだろうが、ブランニューでガラポンは当分ない。そして軽自動車のみならず、小型車もまたこのシャシーベースで作られていくはずである。トヨタから任されたASEANも、このシャシーが基礎となる。ダイハツにとって勝負のかかった新世代シャシーであることは間違いない。

(池田直渡)