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生産性向上に向けたデジタルの活用方法

5/22(月) 11:45配信

ITmedia ビジネスオンライン

 国内労働人口は今後本格的に減少局面を迎えることになり、現状のままでは企業の活動量を維持することも難しくなってくる。加えて、働き方に対する社会の目が厳しくなる中、企業は限られた労働時間で従業員のパフォーマンスを最大化させることが求められてくる。

 こういった課題を解決するために、昨今はさまざまな業務生産性に寄与するデジタルツールが展開されているが、自社内での業務整理ができていないままではその効力は最大限に発揮されない。

 取り込むべきデジタルのメリットを明確にし、企業側ではそれを受け入れる陣立てを行う必要があり、両者が上手く絡み合って初めてデジタル化の効力は発揮される。そして生産性向上により捻出されたリソース(時間) をより付加価値の高い業務に当てはめていくことで、更なる高みへの成長を実現することができる。

 本稿では、企業としてデジタルと上手に向き合うためのポイントを紹介させていただきたい。

●1、国内企業が抱える生産性のジレンマ

生産性向上の必要性

 自部門の働き方を振り返って、『私の部署は生産性が高い』と自信を持って言い切れる方はどれくらいいるだろうか。おそらく一握りしかいないであろう。特に企画部門、いわゆるホワイトカラーの部門においては、殆どの方が生産性の低さに頭を悩ましているのが現状である。実際、欧米と比較しても日本の生産性の低さは顕著である。(図A)

 日本と同じような産業構造・人口構造を持つと言われるドイツと比べても、生産性向上の取り組みはまだまだ遅れている。短期的には解決が難しいこの問題は、将来的にも現状以上の課題を抱えることになるであろう。

 自動車業界を例にとっても、足元の産業発展スピードは、ライフサイクルの短期化、さまざまなサービスの進化と目まぐるしく変化しており、今後は各階層において意思決定スピードの向上・アウトプットの向上が求められる。

 一方リソース面では、今後国内人口が本格的な減衰局面を迎える中、15~64歳の主たる労働人口層は現状対比で2020年にはマイナス4%、2025年にはマイナス8%も減少する見通しだ。

 また、政府は現在50兆円程度のGDPを2020年に60兆円まで引き上げることを目標としているが、このような現状ではプラス2~3兆円程度の上積みしか見込めない。量的なアウトプットの担保ができなくなってきている状況では、抜本的な生産性向上の取り組みが不可欠である。

より苦しくなる中間管理職

 コンプライアンスが厳しく追求される現代社会においては、経営者は従業員のワークライフバランスも今まで以上に配慮することが求められている。確かに多くの企業において働く環境は、残業時間を例にとっても、昔と比べて改善傾向にあると言えるが、階層別に見てみると、その多くは20代~30代の若手社員に偏っている傾向があるのではないか。

 会社の屋台骨である40代の中間層の働き方を見ると、明らかにしわ寄せが行っているように感じられる。一定のポジションの人材が企業の生産性・品質を担保しなくては、全社レベルで生産性を高めることができないからだ。実際、さまざまな企業の方と話をしていても、管理職の働き方は未だに楽にはなっていないとの声が圧倒的多数であり、サービス残業も多い。

 年次有給休暇の取得率も、40代管理職が最も低いのが現状である。そして、そういう仕事に忙殺されている中堅社員の働き方を見て、若手社員が「うちの会社で偉くなっても良いことがない」というネガティブな印象を持つ負のスパイラルに陥っている。

●2、デジタルを活用した生産性向上

デジタル化の本質

 既に多くの文献・レポートでデジタル化のメリットについては述べられているが、生産性向上という観点からデジタル化は3つの利点が考えらえる。

 1つ目は、あらゆる事象をデータとして溜め込み、より多面的な切り口で分析・定量化するビッグデータの領域である「見える化」。

 2つ目は、それらの分析結果と過去の活動履歴におけるベストプラクティスを結びつけ、最適解を提案するAIの領域である「誘導」。

 そして3つ目は、互いに異なる刺激を持つ者同士をつなげることで新たな価値創出へと導く「つなぐ」である。最近多くの企業で取り入れられているデザインシンキングにおいても、この「つなぐ」ことでのイノベーションを重要視している。

生産性向上の定義

 企業の生産性を抜本的に高めるために、前述のデジタル化のメリットをどのように導入すべきか。やみくもに世の中にある生産性ツールを導入しても、目的を誤ってしまってはただ無駄に投資コストがかさむだけである。まずは、生産性を高めるポイント・生産性が高まっている状態をきちんと定義することから始めたい。

 高い生産性とは、簡潔に言えば「より短い時間/リソース」で「従来より高いアウトプットを生み出す」、というインプットとアウトプットの関係にあるのだが、状態的に図示すると大きく3つのブロックに分かれる。(図B)そして、それぞれのブロックにおいてデジタルの使い方には特徴がある。

(1)適応スピードの改善

 1つ目のブロックは、適応スピードの改善である。これは主に人的リソースの獲得・配置の質を高めることで解決される。自社の人材採用や部署転換、業務割当てにおいて、「期待していたほど能力がない/発揮しきれていない」、「なかなか業務が定着しない」などと感じた経験は少なからずあるかと思う。それらはすなわち、「業務において求められるスキル要件」と「そのスキルを持つ人材」のミスマッチにある。しかし、そもそもスキル要件が明確でなかったり、人事評価をこういった視点で行っていない場合も多い。

 こういった状況を打開するための有効なデジタルツールは「見える化」である。例えば、社内において、生産性が高い人や優秀だと思えるデキる人を「見える化」するのである。デキる人は他の人と何が違うのか、何故デキるのか。そこに焦点を当てて、デキる人の能力・行動・歴史を徹底的に紐解いていくのだ。ベンチマークとなる人の活動を捉えながら、業務遂行に必要な能力や、その能力を築き上げるプロセスを「見える化」していく。

 そして、その「見える化」された能力、プロセスに基づき、人材を評価し、教育していくことで業務のミスマッチを防ぎ、適応スピードの向上が図られる。個人の学習履歴を溜め込み、マップ化することで成長プロセスを「見える化」した学習アプリなどがすでに存在するが、それを企業内に当てはめていくような考え方だ。

(2)ロスの低減

 2つ目のブロックは、ロスの低減である。この解決策としては、日常業務においてロスを生み出す業務を特定し、徹底して属人的な判断を排除し、バラつきを抑えることである。先行事例として、アパレル業界におけるシマムラの取り組みを紹介する。

シマムラの徹底した業務自動化

 国内市場が縮小する中、厳しい戦いを求められているアパレル業界で、商品管理の精度が大きく利益率を左右する。全国に散らばる店舗に対し、どのタイミングで、どの商品を、どこに、どれだけ配送するか、また最終消化率を高めるために、どのタイミングでどれだけ値下げするか、こういった複雑な判断をこれまでは人に委ねてきた。

 それ故に商品管理者は多くの時間を分析に費やしているのが現状だ。しかし、シマムラは立地条件や商品別・店別在庫の消化率等のビッグデータを活用して、在庫管理・発注・店間移動・値下げ等の指示の自動化を実現したのである。

 ここで重要なのは、「人に判断させないポイント」を明確にすることだ。自社の業務フローを見直したうえで、分析に多くの時間を費やし、属人的な判断故にムラが多い、その反面クリエイティブさが求められない業務においては徹底的に標準化を図り、一定のロジックによって最後の判断のボタンを意思決定者が押すだけの状態まで持っていくのである。この部分に過去の取り組みをデータとして蓄積し、ベストプラクティスと結びつけるデジタル化を導入する。

 一方、標準化の水準を高めに設定しすぎてもいけない。完璧を求めるとデジタル化の投資に対するリターンが得にくくなるからだ。あくまで多発するロスを防ぐ、「負けることのない戦い方」を念頭に置いて進めることを忘れてはならない。

(3)付加価値の向上

 3つ目のブロックは、付加価値そのものを高めることにある。(2)のロスの低減とは異なり、当該ブロックは「人に判断させるポイント」かつ、「クリエイティブさが求められる業務」においてより多くの刺激を取り込み、アウトプットを進化させることが求められる。

 これは実際にデザインシンキングの講義で行われている事例だが、30秒ほどの動画を見て、十数個ある間違い探しをする。この結果で興味深いのは、1人では6~7個の間違いしか見つけられないのだが、5人1チームで取り組んだ場合、1人が見落としたポイントを互いに補足しあい、チームとしては15個以上の間違いに気づく点である。この取り組みは付加価値創出の本質を捉えている。つまり、いかに異なる刺激の引き出しを持てるかということであり、それは今後の企業の競争の1つのルールになるといっても過言ではない。

 では、具体的にはどのようにして付加価値を高める取り組みを企業に埋め込むか。必要な4ステップを紹介する。

STEP1:必要な刺激のタイプを見極める

 自社の製品・サービスにおけるバリューチェーンを振り返り、どのような価値が今後求められるのか、その価値はどのようにして生み出されるのかを整理したうえで、刺激を与えるべき部門・業務及び、必要な刺激の質を見極める。

STEP2:刺激をポートフォリオ化する

 STEP1で整理した刺激をどのようにして得ることができるのか、社内の他部門や社外の協業相手及び、マッチングプラットフォーム等、必要な刺激を与えてくれる所在を明らかにする。第1ブロックで持つスキル・ナレッジを「見える化」しておくことは、社内において誰がどのような刺激をもたらしてくれるかが分かるという点でも大きなメリットとなる。

STEP3:刺激に触れる時間を業務にはめ込む

 当社の例ではあるが、ローランド・ベルガーでは、「刺激の日」という取り組みを始めた。これは、日常から離れ、異質な価値観に触れる機会を制度化したものである。新しい刺激を得て、業務に役立てるだけでなく、人間的な成長も促していこうという狙いもある。

 しかし、日々忙しいコンサルティングワークに埋没している中ではなかなかそのような時間を取ることは難しい。そのため、(2)のロスの低減における取り組みによって、一部業務の徹底した業務標準化により、刺激と触れ合う時間を生み出そうとしている。こういった業務改革によりリソースを捻出し、刺激と触れ合う時間を業務にはめ込むことが重要である。

STEP4: 恒常的に価値を生み出す組織へと変革する

 STEP1~3 の取り組みは、付加価値を高めるには有効である一方、業務に定着しなくては一過性のものとして形骸化する恐れがある。そのため、業務に定着させるための最も有効な手段は、組織から組み換えることである。もちろん、組織を変えることは簡単にはいかない。ハードルだらけである。一方で、日本が諸外国に比べ生産性が低い1つの主たる要因は組織の持ち方にもある。

 多くの企業がこれまで、新規事業を行う際に新たに組織を作り、うまくいけばリソースを増やし、主要組織として定着させてきた。決して間違いではないが、その結果、組織の数は増えるものの組織間のコミュニケーションは薄れ、いつの間にかホワイトスペースめがけて複数の部門で同じようなことを検討するようになってしまっている。こういった現象は製品単位・事業単位で組織を持っている企業に多い。

 デジタルのメリットを享受するための最大のポイントは“規模”である。全社レベルで標準化できる部分はできるだけ1つにまとめてデジタル化し、価値を恒常的に生み出す組織の軸を定義することが重要となる。

●3、自社の診断に基づくデジタル化を

 ここまで、業務生産性を高めるためのポイントを述べてきたが、全ての課題を一気に改善していくことは企業内リソースの観点からも難しい。また、企業ごとにビジネスモデルやそれを生み出すバリューチェーンプロセスが違う中では、他社の取り組み成功事例をそのまま移植しても機能しない。

 例えば、自社のビジネスモデル・収益構造を振り返った時に、業務のバラつきによるロスが多く、かつ定型業務が多い場合には、徹底的に業務標準化・自動化によりロスの低減を図ることが望ましい。他方、業務のバラつきがあるものの非定型業務が多い場合には標準化は難しい。その場合は従業員の能力を底上げすべく、適応スピードの改善の取り組みに着手した方が良い。

 同様に、クリエイティビティが求められる部門においては、業務のバラつきをなくすよりも付加価値を高める取り組みに着手した方が良い。その際に、組織の流動性(組み換えやすさ) も考慮しながら前述の付加価値を高める4つのステップに実践していただきたい。

 日本企業にとって生産性を高める取り組みはもはや必然となっている。デジタル化する社会と向き合い、うまく取り込んでいくためにも、自社にとってどの部分での生産性を高める必要性があるか、そしてどのレベルで高めることが可能かをまずは診断することが先決である。

(徳本直紀)

(ITmedia エグゼクティブ)