ここから本文です

電力を輸出入する時代へ、世界最大市場の北東アジアに

5/22(月) 13:10配信

スマートジャパン

 日本の送電網を他の国と接続することなど、最近まで想像できただろうか。電力市場を変革する国際送電網の構想が、いよいよ日本を巻き込む形で現実味を帯びてきた。中国や韓国、ロシアを加えた巨大な電力市場が国際送電網を通じて形成される日は遠くない。

【その他の画像】

 すでに日本の周辺の海底には、数多くの通信ケーブルが張りめぐらされている実績がある。意外に知られていないことだが、各国の領海の外側でも、海底ケーブルを敷設する自由が国際条約で認められている。日本の周辺に海底ケーブルを敷設する場合には、韓国やロシアとの間に排他的経済水域が存在するが、二国間で合意を得ることができれば、その国際条約上の問題は生じない。

 海底ケーブルを敷設する経験は日本企業の間にも蓄積されている。通信ネットワークと同様に電力ネットワークを周辺各国とケーブルでつなぐこと自体は、いまや技術と法制度の両面で可能な状況にある。

 アジアに国際送電網を展開する構想は21世紀に入って始まった。最も早く着手したのは、韓国とロシアの研究機関による「北東アジア電力システム統合プロジェクト」である。2002年に開始した共同プロジェクトの中で、ロシアの極東地域から北朝鮮を経由して韓国まで、国際送電網をつなぐ計画の実現性を検討した。

 さらに日本や中国を加えた国際送電網の構想として、自然エネルギー財団が「アジア・スーパーグリッド」を2011年に提唱した。風力発電と太陽光発電の導入ポテンシャルが大きいモンゴルを電力の供給源として、中国・韓国・ロシア・日本を国際送電網で結ぶ。

中・韓・ロ・日の電気事業者が合意締結

 より規模の大きなプロジェクトもある。世界最大の送電事業者で知られる中国国家電網公司(SGCC)が「グローバル・エネルギー・インターコネクション(GEI)」を2015年に発表した。この構想に基づき、中・韓・ロ・日の4カ国の電気事業者(日本からはソフトバンクグループ)が国際送電網の構築に向けて、2016年3月に合意文書を締結している。アジア・スーパーグリッドとGEIの構想は補完関係にあると言ってよい。

 GEIでは2050年までに世界全体を高圧の送電網でつなぐことを目指している。各大陸内の国際送電網を2030年までに、大陸間の送電網を2040年までに構築する計画だ。アジアでは日本を含む北東アジアの他、中央アジア・東南アジア・南アジア・中東の5地域を対象に、水力・風力・太陽光といった自然エネルギーの電力を大量に供給できる国際送電網を想定している。

 こうした国際送電網への取り組みは、構想だけにとどまらない。実際にロシアのサハリンから日本まで、海底送電線を敷設する事業可能性の調査を2000年代の前半に実施したことがある。海底ケーブルの実績が豊富な住友電気工業(SEI)の他、丸紅、ロシアの「統一電力システム」(当時)が調査に参画した。「日露 Power Bridge Project」と名づけた調査で、サハリンの火力発電所から北海道の石狩を経由して新潟の柏崎までを海底ケーブルでつなぐ。

 現在のところ日露 Power Bridge Projectは事業化に着手する状況には至っていないものの、2016年にロシアのプーチン大統領が改めて極東地域から日本へ電力を供給するプロジェクトの再開に向けて日本側に提案を出した。2017年に入って両国の政府の間で広範囲に及ぶ経済協力の協議が進んでいるが、その柱の1つが電力を含むエネルギーの分野である。日本向けの輸出を拡大したいロシアにとっては、国際送電網を通じた電力の輸出は魅力的に映る。

北東アジアの電力市場を国際送電網で統合

 ロシアを加えた北東アジアに国際送電網を整備するインパクトは極めて大きい。それは各国の市場規模を見ればわかる。アジア・スーパーグリッドの対象に入る中国・日本・韓国・モンゴル・ロシアの5カ国を合わせると、GDP(国内総生産)と人口は全世界の20~25%を占め、発電電力量は30~35%にのぼる。CO2(二酸化炭素)の排出量は40%近い水準に達することから、CO2を排出しない自然エネルギーの拡大が重要な課題になっている。

 これだけ規模の大きい電力市場を国際送電網でつなぐためには、各国内で電力産業の自由化が進んでいることが条件になる。実際には日本を除く中国・韓国・モンゴル・ロシアの4カ国で発送電分離(発電・小売事業と送電事業の分離・独立)が完了して、国営の送電事業者が国全体をカバーする広域ネットワークを運用している。日本でも2020年4月までに発送電分離を実施する予定で、その後に各地域の送電事業を再編・統合する動きが東京電力グループを中心に進んでいく見通しだ。

 北東アジアに国際送電網を構築できると、電力の輸入と輸出が拡大していく。電力の安い国から高い国へ電力を売ることが可能になり、各国の小売価格の差が縮小する見込みだ。現在のところ日本の電力小売価格は他国と比べて圧倒的に高い。家庭向けでは韓国の約2倍、中国の約3倍、モンゴルやロシアの約4倍の水準にある。国際送電網が拡大することによって、日本の電気料金の低減が期待できる。

 電力の需給面でもメリットはある。5カ国の消費電力量を月別に見ると、日本・中国・韓国では夏と冬に電力需要のピークが訪れる。一方でモンゴルとロシア(シベリアと極東地域)では需要のピークは冬だけで、日・中・韓で需要が増大する夏に電力を供給できる十分な余力がある。

 加えて1日のうちで時間帯による差も見られる。電力需要が増大する冬の間、韓国では午前にピークが発生するのに対して、日本・モンゴル・ロシアでは夕方以降にピークを迎える。しかも時差によって1~2時間のずれがあるため、都合よくピークの時間帯が重ならない。

急増する自然エネルギーの電力を融通

 国際送電網は自然エネルギーの電力を拡大するうえでも有効な手段になる。この点は先行する欧州で実証済みである。天候によって出力が変動する風力発電と太陽光発電を地域間で平準化しながら、余った電力を需要が大きい国・地域に国際送電網を通じて供給できる。

 北東アジア5カ国の電源構成を見ると、国によって大きな違いがある。中国とモンゴルでは石炭火力が多く、日本とロシアは天然ガス火力が多い。韓国では原子力が30%を超えている。そうした中で各国に共通する点は、自然エネルギーの電力が急速に拡大していることである。

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の統計によると、北東アジア5カ国における風力発電と太陽光発電の設備容量は2010年から2016年の間に6倍に拡大した。累積で約280GW(ギガワット)に達する規模になり、設備容量を単純に比較すると大型の原子力発電(1基あたり約1GW)の280基分に相当する。

 国別・種別に見ると中国の風力発電が半分以上を占める他、次いで中国と日本の太陽光発電の規模が大きい。今後は中国以外の4カ国でも風力発電の拡大が見込めることに加えて、中国・日本・韓国では太陽光発電が2030年に向けて大幅に伸びていく。ロシアでは2030年から2040年にかけて水力発電の増加も期待できる。

 それぞれで特性が異なる自然エネルギーの電力を国際送電網で融通することによって、各国内では対応しきれない需給バランスの問題を解決しやすくなる。特に日本では北海道や九州で風力発電と太陽光発電が急増した結果、各地域の送電網に接続する発電設備に対してさまざまな制約が課せられている。日本で自然エネルギーの電力を拡大するうえで最大の課題は送電能力を増強することだが、その点でも国際送電網が有効な解決策になる。

 北東アジアは世界で最大の電力市場である。中国・日本・韓国の市場規模を合わせると北米よりも大きく、欧州の約2倍に匹敵する。すでに国際送電網が有効に機能している欧州の例を参考にすれば、より規模の大きい北東アジアでも国際送電網を効率的に整備して運用することが可能になるだろう。


<筆者プロフィール>
自然エネルギー財団
自然エネルギーを基盤とする社会の構築に向けて、政策・制度・金融・ビジネスモデルの研究や提言に取り組む公益財団法人。日本を含むアジア各国で自然エネルギーによる電力を最大限に活用できることを目的に、2016年7月に「アジア国際送電網研究会」を発足して事務局を務める。同研究会は電力系統やエネルギー政策の研究者、自然エネルギーの専門家で構成。世界の国際送電網を調査して、アジアにおける国際送電網の可能性について提言する。2017年4月に中間報告書をまとめた(自然エネルギー財団のWebサイトからダウンロードできる)。