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吉澤嘉代子 まるで“おとぎ話の読み聞かせ” 獣ツアー公演にて、愛溢れる一つの物語

5/22(月) 11:54配信

Billboard Japan

 開演のブザーが響いた。薄暗いステージ上には、アンティークなスタンドライトや鏡台。これから目の当たりにしていく おとぎの世界 への期待で胸膨らますオーディエンスに、吉澤嘉代子は「ユートピア」で始まりの合図を告げた。

吉澤嘉代子 キュートなライブ写真(6枚)

 4月29日 岡山公演よりスタートした【吉澤嘉代子ワンマンツアー「獣ツアー 2017」】。その東京公演が、5月7日 東京国際フォーラム ホールCにて行われた。この日、吉澤嘉代子がライブで届けた音楽と物語。オムニバスの短編小説のようなアルバム『屋根裏獣』の楽曲たちは、ライブで彼女が提示する視点により、また違った楽しさを共有させていくのであった。

吉澤嘉代子 「獣ツアー 2017」東京公演でのおとぎ話

「あなた、お仕事行ってらっしゃ~い!」エプロンをつけた吉澤嘉代子が『奥さまは魔女』のオープニング風に“旦那様を愛しすぎている奥さま”と紹介される。朝起きて、朝食をとり、出かけていく夫の全てを目に焼き付けて今日も幸せを感じる妻。そんな風景が見えた「ラブラブ」、タンバリンを愉快に鳴らし、くるくる回って浮かれる熱烈な愛情は、「ねえ中学生」で彼女のあったようでなかったような思春期に抱いた純粋な恋心とリンクされ膨れ上がっていった。

 会社に着いたら来るはずの連絡「今日はまだかかってこないなあ…」早くつながりたい、この想いを伝えたい気持ちが「らりるれりん」に乗り破裂しそうになる。すると、待ちに待った電話の着信が。“あなた!?”……と思いきや、それはお義母さまからだった。姑との嬉しくない電話のやりとり、大好きな夫の母親なのに…自分の居場所が狭められ、いつかなってしまうのではないかという切ない気持ち。「えらばれし子供たちの密話」「屋根裏」にて、それがよからぬ方向へと誘われていくようであった。


 鏡台の前に座って、疲れている様子の彼女は、いつまでも幸せなままでいられたら なんて淡い恋物語、カタチあるものはいつか無くなっていく、すべては自然の流れなのだと受け止めるしかなかった「人魚」となっていった。それでも揺れる心、悲しみに声も震える。“あの子ダメねぇ”聞こえてくる周囲の声。しかし、彼女は「いいの、あの人がわたしを綺麗だと思ってくれたなら」あの時の彼に依存することで落ち着きを取り戻そうと努めるのであった。

 “ダメ、ダメ、……”それでも押し寄せる不安と恐怖。そこへ鳴った玄関のチャイム、彼の帰宅だ。極限の淵にたたされた私を早く救ってほしい、あなたならそれが…「あなた お帰りなさい!」――“おまえ、ダメだな”、彼女は勢いよく刃物を振り切った。「あなた 愛してる!!」彼女は夫婦旅行でもするかのように夫の首を連れて、タクシーに乗り込む。自由な世界を目指し乗り込んだそれが地獄へと連れてゆく「地獄タクシー」とも知らずに。


 二人が出逢った7年前、彼女の働く海辺の「カフェテリア」での淡い記憶。嬉しい、楽しい幸せな思い出のはずなのに、その歌声に涙が誘われる。世間はこの女性を忘れ、事件を忘れ、いつもと変わらず行ったり来たり「ぶらんこ乗り」のように日常を取り戻していくのだった。 “読みかけの本があるうちは、守られている気がしていた” このときライブは本編ラスト「一角獣」、あっという間だった。物語が終わってしまうという焦燥感や喪失感が沸き起こり、吉澤嘉代子が歌唱している姿をみるのもやっとだった。

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最終更新:5/22(月) 11:54
Billboard Japan