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磯崎キリン社長、 「クラフトビールに本気です」

5/22(月) 11:00配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 磯崎功典キリンホールディングス社長(3)

――祖業のビール事業では、クラフトビールに力を入れていますね。小さな醸造所がおのおの個性的な味を競うのがクラフトビールで、キリンのような大手がなぜやるのかといぶかしむ見方があります。何が狙いですか。

 私たちは真剣です。うちがクラフトビールをやると発表した時、記者に囲まれて尋ねられました。「ビールが苦しいから、目くらましで、やるのですか」と。私は「全然、違います。私は本気です」と答えました。

 なぜ日本のビール市場がここまで縮小したのでしょうか。業界全体の出荷量は1994年をピークに既に約25%も減りました。キリンの出荷量もかつては300万キロリットル以上あったのに、今は200万キロリットルを割っています。

 消費者のし好が変わったなどの事情もありますが、私はビールメーカーの怠慢が原因だと思います。同じタイプのビールを造って、同じような価格で春に新製品を出して、翌春にまたそれを繰り返す。

 新製品の違いは何かと言えば、「値段が違います」とか、「名前が違います」という程度で、全く価値を、つまりビールの良さを伝えていない。その方が量をさばけるからですが、私は反省しなければいけないと思います。

 約150年前、明治の初めに(米国人コープランドによって)「スプリングバレーブルワリー」という醸造所ができた時、みんな思い込めてビールづくりに取り組んだはずです。美味しいビールを飲んでもらいたいとの一心でね。言わば最初のクラフトビールです。

――ビールメーカーは、ビール、発泡酒、第3のビールと、多様化を図ってきましたが。

 縦軸に価格、横軸に味の違いを表す図で考えますと、縦に一番高い方からプレミアムビール、ビール、発泡酒、第三のビールと並びます。一方、味の方は、どのジャンルも同じタイプの狭い範囲に固まっています。

 クラフトビールは縦軸の価格でみると、プレミアムの上に位置して、味は多彩ですから横軸方向いっぱいに広がります。私はビールの味、香りをワインのように変化に富んだものにしたいのです。量は増えないのですから、お客さんに認めてもらえる付加価値として、面白くて楽しい味にしたい。それがクラフトビールです。

 みかん、ラズベリー、パクチー、ごぼうなど、様々な副原料を加えれば、多様な味わいのクラフトビールができます。ところがこれらの副原料を使うと、酒税法上の定義では「発泡酒」に分類されます。

 だからベルギーで造られるこの種の多様な風味のビールは、日本に来ると「発泡酒」になるのです。これはおかしいとの声が、ベルギーはもとより上がって、2018年度から定義が広がり果物を入れても税法上でも「ビール」と呼べるようになります。

――米国では、クラフトビールが伸びているようですね。

 米国やオーストラリア、ヨーロッパの市場は先行しています。普通のビールの消費量が減る中で、クラフトビールは増えています。日本ではビール全体のまだ1%くらいしかありませんが、米国では10%を超えています。

 世界最大のアンハイザー・ブッシュ・インベブは猛烈な勢いでクラフトビールの会社を買収しています。クラフトビールが日本でも伸びるというのは私の仮説です。読み間違えたら大変なので、海外の動向を見ていますと、伸びているんですよ。

 ただしクラフトビールを伸ばすには、14年から始めた自社の「スプリングバレーブルワリー」1つでは難しいのです。露出度というのか、英語で言うプレゼンスが弱いからです。

 このため「よなよなエール」のヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)に3分の1出資しました。続いて米国のブルックリン・ブルワリー(ニューヨーク)と資本業務提携を結び、このほど木内酒造(茨木県那珂市)の「常陸野ネストビール」を販売することになりました。「常陸野ネスト」は米国で有名です。

 ブルックリン・ブルワリーには興味深いストーリーがあります。創業者のスティーブ・ヒンディさんは元AP通信の記者で、中東特派員時代にビールを自家醸造して飲んでいたのです。ニューヨークに帰ってきてからAP通信を辞めて、1988年に会社を創業して、初めは近所のレストランに車1台で営業したそうです。

 もともと記者ですから、こういう話をさせたり書かせたりしたら上手で、聞いているだけで飲みたくなりますよ。まさに歩く広告塔、ブランド・アンバサダーです。

 出資者のデビッド・オッタウェイさんは、元ワシントン・ポストの記者で、ヒンディさんの特派員時代からの友人です。その長男のエリックさんがハーバード・ビジネススクールを出て、今ブルックリンのCEO(最高経営責任者)で、弟のロビンさんはコーネル大学出身でCOO(最高執行責任者)なんです。創業者のヒンディさんもコーネルです。

――磯崎さんもコーネル大学のホテル経営学部に留学しましたね。

 それが実は、この提携をまとめるのに関係しているんです。米国人は人を簡単に信用しませんが、「おお、そうなのか」と、話がすごく盛り上がりましてね。

 さらにキリンは資本力に任せて相手を支配しようとするような会社ではないと分かっているんです。例えばフィリピンのサンミゲルとも、お互いにパートナーとして平和な関係を築いてきたのを見ています。

 いろんな会社の人たちがブランド・アンバサダーです。キリンだけが一生懸命になっても、何それ?という感じでしょう。こうした仲間とともに、クラフトビールのブームを起こしたいのです。
(次号に続く)

■聞き手 森 一夫:「わが経営」を語る(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:5/22(月) 11:00
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