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〈時代の正体〉政治活動を隠れみのにする日本第一党 差別扇動者の話法(下)

5/22(月) 7:05配信

カナロコ by 神奈川新聞

【時代の正体取材班=石橋 学】人種差別・排外主義政策を掲げる極右政治団体「日本第一党」が都議選の立候補予定者の記者会見を都庁で開いたのは4月27日のことだ。

 「日本第一党のスローガン、ジャパンファースト、日本第一主義が信条」

 「自分の信じる意見を発信し、記録に残るところに、私たち日本第一党の気持ちを残していきたい」

 今年2月に結党した日本第一党初の公認候補、八王子市選挙区(定数5)に立つ同市在住の岡村幹雄氏は落ち着いた口調で抱負を述べた。新潟県出身、法政大経営学部を出た後、都内の郵便局勤務などを経て3月に日本郵政株式会社を定年退職したばかり。折り目正しい物腰が印象的な60歳。会見で語られたのはしかし、この国のヘイトスピーチを先導してきた党首、桜井誠氏に重なる話法だった。

 主な公約に掲げたのは、築地市場の豊洲移転早期実施と移民受け入れの中止、外国人への生活保護の支給停止の3点。このうち「特に心配している」と強調したのが移民の受け入れだった。国家戦略特区を活用して東京都で4月から始まった外国人労働者による家事代行サービスに「(在留期限の)3年で帰る人は少ないのではないか」との懸念を示し、「移民受け入れがなし崩しで行われるのではないか。外国人に頼れば、次世代に大変な負の遺産を残す。大変心配している」という。

 「3年で帰る人は少ないのではないか」という根拠のない疑念を向け、すでにさまざまな産業が低賃金の外国人労働者に支えられている現実を無視して「大変な負の遺産」「大変心配」と不安を強調する姿に、隣に同席した桜井氏が重なって映る。旧植民地出身者として歴史的、構造的に差別を受けている在日コリアンは「優遇されている」「特権がある」という事実と正反対のデマを流通させ、不公平感や危機感を喚起することで排斥感情をあおるのが差別扇動者、桜井氏の常套(じょうとう)手段だからだ。

 質疑応答で私は桜井氏の言動を岡村氏がどう感じているのかをただした。差別を率先して非難し、禁止を市民に働き掛けるべき政治家に求められる人権感覚や反差別の姿勢が受け答えに表れると考えたからだ。

 昨年7月の都知事選に立候補した桜井氏は「日本で生活保護をもらわなければ、きょうあすにも死んでしまうという在日(コリアン)がいるなら、遠慮なく死になさい」という差別発言を街頭演説で行っている。私が「岡村さんも同じ考えか」と尋ねると「言葉だけを切り取ると大変強烈になるが」と前置きして答えた。

 「出入国管理法及び難民認定法では、自立した生活ができない外国人は上陸できないとなっている。その点からも基本的な考え方は党首と同じだ」

 人権への理解はおろか、国際社会の一員としての認識をそこに見ることはできない。外国人への生活保護は、人道的観点から生活保護法による取り扱いに準じた行政措置として行われている。対象は原則的に永住者、定住者、特別永住者、難民認定者などで、日本社会の構成員として暮らし、納税の義務を果たしてきた外国人を等しく処遇するべきだという考えに基づく。何より、先進国として国際社会と交わした約束でもある。日本が加入・批准した国際人権規約と難民条約は社会保障における「内外人平等待遇の原則」が条件になっている。そこに入国管理行政の発想を持ち込むのは筋違いだ。

 厚生労働省保護課も「出入国管理法は入国時の条件を既定しているにすぎない。日本に入ってきた後に失業したり、病気になって働けなくなったりすることは十分あり得ることで、人道上必要があると判断して行政の裁量で保護を行っている。(外国人は生活保護法の対象ではないと判断した)2014年の最高裁判決でも行政措置による外国人への生活保護自体は違法ではないと確認されている」と話す。

 そもそも私は、最後の命綱である生活保護を断ち切るという非人道性と、外国人を「死んでも構わない」存在とみなす差別思想を問題にしている。「『遠慮なく死になさい』という発言にも同調するか」と重ねて問うと、岡村氏は「逆に聞きたいが、生活保護を受けなければ直ちに死んでしまうという方を見たことも聞いたこともない。そういう状況があるとお考えか」と問い返してきた。

 こちらの質問には答えず、逆質問で異なる論点を示し、議論をずらすのも桜井氏流。私は「そうした状況にある人は実際にいて、最後の命綱である生活保護を絶つのは重大な人権侵害だ」と答えたが、岡村氏は「助けるのは国籍のある国。自分の国籍の国にお願いするのが筋と考える」。前述の通り、外国人を平等に扱うのは国際条約上の義務であり、困窮した外国人への扶助制度はドイツをはじめ欧州などの先進国で一般的だ。そう指摘すると、今度は「欧州とは制度も金額も異なる。日本と比較するのは間違いだ」と、制度の違いという本質から離れた議論にすり替える。そうして桜井氏をなぞった主張が冷たく響くばかりだった。

■「ジャパンファースト」の正体
 桜井氏は全国各地でヘイトデモ・街宣を主導し、人権侵犯事件を繰り返してきた「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の創設者で前会長。自身も東京・小平の朝鮮大学校前で「殺してやるから出てこい」などと叫んだ街宣が人間の尊厳を傷つける違法な人権侵害であると法務省に認定され、同様の行為を繰り返さぬよう勧告を受けている。

 その後もヘイトスピーチを繰り返す党首をどう考えるか、と私は岡村氏に問うた。答えは「人間、怒ったらひどいことを言うのは当たり前。怒るには十分な理由がある。最後のところだけ切り取って指摘するのはフェアではない。物事には始まりがあり結果がある。なぜ党首がこんなに怒っているのか根本の原因を考えてほしい」。

 これも桜井氏がしばしば口にする話法だ。ヘイトスピーチだと批判されると「本気で怒っているから激しい言葉になるんだ」と切り返し、批判さえも自らの正当化に逆利用する。その差別性に気づいていないらしい岡村氏は、構造的に差別されているマイノリティーをマジョリティーの立場から攻撃するという二重、三重の不公正を度外視して「フェア」を求める倒錯と、その倒錯を可能にする自らの差別性にも気づいていないようだ。

 差別を正当化する理由など存在しない。私が再質問しようとすると、横から桜井氏が「私が答える」と割って入ってきた。朝鮮大学校前でのヘイトスピーチについて、在日コリアンが起こした事件を挙げ、「ふざけた朝鮮人を受け入れるいわれはまったくない。朝鮮人がいなければ、そんな事件が起きるわけがない。それを言っているだけだ」。

 一つの事例を引き合いに「だから朝鮮人は」と十把ひとからげにして語る人種差別の見本がここに示された。地金はあっさりあらわになり、記者会見の場を借りたヘイトスピーチが始まった。「朝鮮人がいなければ、そんな事件が起きるわけがない。それを言っているだけだ」

 外国人の人権を守るべきだと言うと、それによって日本人の人権が侵されるわけでもないのに日本人の人権はどうなると反問する。日本人の人権こそ守るべきだと声高に叫び、外国人の排斥を正当化し、あおる。これが桜井氏の唱える「ジャパンファースト」の正体。耳当たりのよい「日本第一主義」も差別を正当化し、排斥をあおるための都合のいいスローガンにすぎない。

 「『朝鮮人を東京湾にたたき込め』というのは人権侵害に当たらない」と言ってのけるに至り、私は「人権侵害事件を繰り返す党首をどう思うか」と岡村氏に再度問うた。

 するとどうだろう、静かな口調が一転、気色ばんだ。

 「気をつけてください。事件ではない。事件という言葉は訂正してください」

 岡村自身氏の言葉をようやく聞いた気がした。

 私は一例だけ、民事裁判で在特側に1260万円もの損害賠償が命じられ、刑事裁判でもメンバーが有罪判決を受けた京都朝鮮第一初級学校前での街宣活動を挙げ、もちろん訂正などしなかった。昨年9月には、在日コリアンの女性に対するインターネット上の書き込みなどが大阪地裁で人種差別と認定され、有罪判決(控訴中)を受けている。

 桜井氏はなおも「あなたの言うように結果として(京都朝鮮学校襲撃事件の)裁判には負けたが、それだけのことだ。人を殺したわけでも傷つけたわけでもない」。

 だから「事件ではない」とでも言いたいのか。消せぬ傷を心に負わされた被害者にとって、加害者が逮捕されようがされまいが、それは事件だ。聞き分けのない小児のような自己弁護を繰り返す党首の隣でしかし、岡村氏は相づちを打ち続けたのだった。

■膨らむ疑念、政治活動は本当か
 会見後、確かめたいことがあった私は桜井氏に声を掛けた。すると「あんた、けんかを売るんじゃないよ、記者会見の席で」と思わぬ非難が返ってきた。揚げ句の果てには「あんた、北朝鮮の工作員だろ」。

 私は考え方を聞こうとし、まともな答えが返ってこなかったために質問を繰り返しただけだ。それを「けんか」と受け取る態度に桜井氏の狭量を見る思いだった。同時に疑念はいよいよ深まった。

 真摯(しんし)に政治活動に取り組むつもりがあるのだろうか。

 例えば、2月26日、都内のアパホテルで開催した結党大会でのこと。あいさつに立った桜井氏は壇上から私の名前を繰り返し口にした。

 「金正男が暗殺されたが、北朝鮮を抗議したら差別なんでしょ。ねえ、石橋君」

 「不法滞在のフィリピン人が在留資格を求めて裁判を起こした。多分誰かの入れ知恵だ。そうだろ、石橋君」

 「きょう集まったメディアは300人を前に党首が訴えたという事実だけを報道すればいい。人種差別がどうのこうのと書くべきじゃない。どう思う、石橋君」

 「何でもかんでもヘイトと言う。そうだよね、石橋君。私が息をしただけでヘイトと言う」

 そのたびに嘲笑が会場を包んだ。

 あいさつの中で桜井氏は宣言した。

 「まず地方議会から押さえていく。私の目標は国政で与党にすることだ」

 「2年半後の統一地方選ではどんどん候補者を出していく。地方議会を固め、次は中央だ。政権ができたら日本を取り戻すために、韓国と断交する」

 「きょうは集まったのは300人だが、千人、万人と増やして、4年後の党大会は東京ドームを一杯にする」

 それが本気であるなら、旗揚げという大事な場で一地方紙の一記者を物笑いの種にするということにどうして時間を割けるだろう。

 そして、政権の座への足掛かりにするという最初の地方選挙としての都議選である。産経新聞のウェブサイトに掲載されたインタビューでは「10~20人ほど立候補させる」と豪語していた桜井氏だが、会見では、岡村氏以外の擁立は「人材がいればだが、現在のところいない」と明かした。

 2万円の会費を払って結党大会に参加した男性も言っていた。

 「落選した後の生活を保障してくれるわけでもないようなので、いまの仕事をなげうってまで立候補することなどできない」

 会場の入り口では党最高顧問の瀬戸弘幸氏の著書などの販売が行われ、誰はばかることなく「もう売り切れちゃったよ。もっと用意しておけばよかったなあ」という関係者の高笑いが響いていた。

 首をかしげたくなる振る舞いはまだある。

 岡村氏が初めて桜井氏に会ったのは記者会見の前日だ。党首が面談することなく候補者が決められたということになる。対面した際、握手を交わして感涙したという岡村氏は「党首は大変お忙しかったようで」と気に留めていない様子だが、桜井氏自身はこの間、自著の執筆にいそしんでいたとツイッターに書き込んでいる。

 岡村氏が自身の公認候補決定を知ったのも桜井氏のブログを見たという第三者から届いたツイートによってだった。「公募に手を挙げたものの、ど素人の私が選ばれるはずがないと思っていた。いまでも信じられない」と、岡村氏はやはり疑問に感じていないようだが、本人に連絡するより先にブログで公表するという手順に、候補者への敬意も大切にしようという姿勢も感じられない。

■公人による差別の扇動効果
 後日あらためて岡村氏にきっかけを尋ねた。

 「5年前に自分専用のパソコンを買い、漫画とかを面白がって見ていたところ、桜井氏が街頭で演説している動画に行き当たり、引き込まれた。それがきっかけ」

 一体、差別発言を繰り返す動画の、どこに引き込まれたのか。

 「信念を曲げないところ。なかでも堂々と主張していた都知事選の演説はすごかった」

  不当な差別的言動は「許されない」と宣言し、国や地方自治体に根絶へ向けた施策の実施を、国民には差別的言動のない社会づくりを求めるヘイトスピーチ解消法の成立から24日で1年を迎える。私が桜井氏から感じるのは、自身や団体が勧告や有罪判決で指弾されようと、デマや詭弁(きべん)を弄(ろう)し、ときに居直ってまでして差別をやめないという強固な信念だけだ。もはや差別が目的化した確信的、職業的差別主義者の姿でしかない。

 都知事選のさなか、選挙カーで在日本大韓民国民団(民団)中央本部前に乗り付けた桜井氏の悪罵と傍若無人な振る舞いが動画共有サイト・ユーチューブに残る。

 「民団の人間はさっさと日本から出ていけ。日本から必要とされていない」

 そして決定的な一言を放った。

 「(選挙期間中の)16日間は無敵だ。久々に民団前で思う存分街宣ができた。この快感を再び、ということでまた街宣をする」

 ヘイトスピーチ解消法の施行を受け、世論の批判と行政による監視の目が強まり、これまで通り公然とヘイトスピーチをしづらくなっている鬱憤(うっぷん)をのぞかせ、政治活動をかたって抜け道を見いだしたい意図がここに浮かび上がってくる。

 公職選挙法では政見放送に関しては「品位を損なう言動をしてはならない」という規定があるが、選挙演説には制限がない。法務省は「選挙運動であっても不当な差別的言動が許されるわけではない」との見解を示しており、ヘイトスピーチ解消法の精神を生かした対応策が急がれる。

 米国からは「米国第一主義」を掲げたドナルド・トランプ氏が大統領選を通じてヘイトスピーチを繰り返した結果、ムスリムや黒人、性的少数者らに暴力を振るうヘイトクライム(憎悪犯罪)が多発するというニュースが伝わる。

 「都知事選挙で党首が戦ったとき、日本第一党が立ち上がったとき、すぐにでも一緒に戦いたかった」という岡村氏の、とりわけ桜井氏の選挙演説に心動かされという事実が、権威の衣をまとった差別の扇動効果の大きさと危険性を示している。歴史をさかのぼれば、関東大震災における朝鮮人虐殺は、官憲自らが「朝鮮人が暴動を起こしている」というデマを流した結果、在郷軍人のみならず市井の人々までが凶行に手を染めた。

 都議選は6月23日告示で7月2日投開票。駅頭で演説を始めたという岡村氏は「朝5時に起きて夜の10時に寝るという毎日を繰り返していた会社員時代とは別世界。自分の好きなことが言えて楽しい。庶民感覚を大事にして、介護職で外国人を受け入れている問題を特に力を入れて訴えていきたい」と語る。

 桜井氏が記者会見で明らかにしたところによると、年会費5千円の党員は2月の結党大会から200人増えて1800人になったという。