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「日本における不動産テックビジネス成功のカギは何か」不動産テックセミナーレポート第1回

5/23(火) 18:20配信

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LIFULLの井上社長が「2017年は不動産テック元年」と年頭大々的に打ち出したが、今年は「ITから最も遠い業界の一つ」と自らも認める不動産業界にもテックの波が来たことを感じる機会が増えた。

ファイナンスの新サービス創出をミッションとするデジタルハリウッド大学大学院サイバーファイナンスラボもこの流れに即応し、不動産テック企業リマールエステート社長で不動産実務家・研究者の赤木正幸氏を代表研究員として「不動産テックビジネス研究会」を立ち上げた。

ファイナンス分野の早稲田大学OB会であるファイナンス稲門会が4月24日に主催した不動産テックセミナーにおいて当研究会の代表研究員である赤木氏がモデレーターを務めた。その内容を、各社プレゼン編、パネルディスカッション編の2回に分けて報告する。

今回の好評を受けて、第2回不動産テックセミナーの開催が、6月22日(木)19時からLIFULL麹町新本社にて確定している。

■立ち見が出る程の人で埋めつくされた会場

このセミナーでは、各分野の一線で活躍する登壇者たちが、それぞれの視点から不動産テックの最新事情について語った。構成は以下のとおりである。

「不動産テックの概観を踏まえたイントロダクション」
赤木正幸氏(リマールエステート株式会社 代表取締役社長CEO)

「既存の不動産事業者にとっての不動産テックとは?」
川戸温志氏(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 マネージャー)

「三井不動産の不動産テックの取り組み実例」
光村圭一郎氏(三井不動産 ベンチャー共創事業部 事業グループ 主事)

「不動産テックによる新しい不動産価値創造への挑戦~地方創生に向けた取り組み~」
佐野洋輔氏(日本不動産研究所 研究部 特定調査室長)

「人工知能による不動産取引プラットフォーム『Gate.』の事例」
巻口成憲氏(リーウェイズ 代表取締役社長CEO)

不動産テックへの注目の高さを体現するように、当イベントには当初の定員を5割上回る120名の申込みがあり、当日は立見が出る程であった。約半数が不動産業界関係者ということもあり、全員が真剣に登壇者達の話に聞き入っていた。

■「不動産テックによって意思決定は激変する」ーーリマールエステート 赤木氏

意思決定支援システムを通じて不動産テックビジネスを推進するリマールエステート社長の赤木氏より日本の不動産テックの概観を踏まえたイントロダクションがあった。

「日本の不動産業界構造は依然強固で、不動産テックへの障壁ともなりうるが、既存プレイヤーの利益拡大を実現する業務効率化分野などは比較的受け入れられやすい。しかしながら、不動産テックがさらなる盛りを見せるためには、単に業務効率化やコスト削減に留まらず、新たなビジネスや付加価値を生み出すという「前向き」な要素が必要。不動産会社のみならず、不動産を保有する事業会社にとっても不動産テックはビジネス商機となりうる。さらに、注目すべきは地方創生。国土交通省の『不動産投資市場の成長戦略~2020年に向けた成長目標と具体的取組~』においてもReal Estate Techが三本柱の1つに据えられており、政策的な市場拡大が期待されており、既に蓄積・準備された公的不動産情報や地方創生プランを実現するうえで、不動産テックは非常に重要な役割を果たす。」

また、NTTデータ経営研究所、QUANTUM等と合同で、不動産テックの全体像を整理した「不動産テックMAP」を5月中に公表する旨も公表された。

■「日本の不動産テックはB2B向業務効率化と大手不動産会社から拡大する」ーーNTTデータ経営研究所 川戸氏)

不動産テックに精通するNTTデータ経営研究所の経営コンサルタント川戸氏からは、テクノロジーが不動産ビジネスにどう影響するかの考察が述べられた。

「不動産テックへの投資額では米国や中国が圧倒的に先行。米国の不動産情報サイトの最大手企業Zillowは、現時点の時価総額では国内4位の東急不動産(約3860億円)を抜く(約7730億円)。

一方で日本国内では、海外ほど不動産テックは爆発的な盛り上がりを見せていないのが現状。その理由としては大きく3つの要因がある。

1点目は、特別な商品特性と消費者の価値観である。一般的な個人消費者にとっては、不動産は一生に一度の大きな買い物のため、個人消費者には名前も聞いたこともない不動産テックベンチャーのサービスを容易には利用しない。

2点目は、業界構造の特殊性である。不動産の業界構造は、大手を頂点としたピラミッド化した構造であり、グループごとに硬直化している。加えて、業界団体の影響力が大きい。

3点目は不動産情報基盤の利用環境の違いである。米国では、MLS(Multiple Listing Service)と呼ばれる物件の価格や広さ、修繕履歴、売買履歴、登記の情報などを誰でも閲覧することができる不動産情報データベースが整備されている。

こうした要因もあるため、今後盛り上がりを見せる領域としては、B2Cビジネスよりも既存プレイヤーに利益をもたらす業務支援系のB2Bビジネスから市場が拡大していくと考える。例えば、イタンジが不動産会社に提供する物件確認自動化サービス「ぶっかくん」がその好例である。翻ると、SUUMOやHOME’Sのような既存サービスも、宣伝広告プロセスの業務効率化を実現している。

日本の不動産業界は大手デベロッパーを頂点としたピラミッド構造で、大手のビジネスモデル転換が業界全体に波及する。少子高齢化等の外部環境変化により、作れば売れることを前提とした高度経済成長期の売り切りモデルから、顧客当たりの生涯価値(LTV)にビジネスモデルをシフトさせる必要に迫られている。しかし、それに必須の顧客データベースが整備されていないという悩みを、不動産会の経営陣からよく聞く。また、これまで業界で一般的であるプロダクトアウト志向や自前主義なども不動産テックを担うにあたっては阻害要因となるため、自己変革が必要になる。」

■「不動産テックは働き方・くらし・街まで超広義にとらえる」――三井不動産 光村氏

三井不動産でオープンイノベーションをリードする光村氏からは、不動産会社の内部からイノベーションを起こす具体的方法論とその事例が紹介された。

「我々としては、不動産テックは、流通、開発、運営に留まらず、働き方、くらし、街単位という超広義で捉えており、例えば、日本橋では都心型のスマートシティを構築するという目的の中でエネルギー事業も準備している。

新規事業を立ち上げるに当たって重要なのは、社内で課題やニーズを持っているところに、具体的なソリューションとして事業を提案すること。そのために、ハード・ソフト、オペレーション・マーケティングというビジネスレイヤー軸と、ビル・分譲住宅・賃貸住宅・商業施設・ホテル・リゾート・物流という商品軸のマトリックスで社内の事業を整理している。」

続いて、スタートアップとの共創事例が紹介された。子育てメディア運営企業コズレとの商業施設でのイベント実施、VRプラットフォーム企業ナーブによるVR内見、IoTプラットフォーム企業アクアビットスパイラルズとの協業によるモデルルーム来場予約コンバージョンの大幅向上、ABEJAのAIエンジンを使った空調運転最適化、リビングスタイルの家具配置シミュレーターとインテリア子会社の協業など、不動産テックと既存事業の様々な組み合わせが示され、不動産テックビジネスの裾野の広さが感じられた。

■「ビッグデータは不動産の新たな価値を明らかにする」――日本不動産研究所 佐野氏

日本不動産研究所でビッグデータ研究班を統括する佐野氏からは、不動産業における情報技術の浸透とビッグデータの可能性について語られた。

「ビッグデータ、AI、地理情報システム(GIS)などの不動産テックの利用は近い将来にごく当たり前のことになる。過去60年で約80万件の鑑定情報を蓄積し、現在も年間1.5万件の評価を行う当社では、鑑定情報のデータベース化を進め、GISやAIを活用した不動産市場分析・予測システムの開発を視野に入れている。将来的には不動産に関する新たな価格形成要因と相関性を明らかにできるかもしれない。

現在の不動産鑑定評価額は一意に決まるものとされているが、今後、当事者属性によって異なる価値を提案できる可能性がある。個人や法人の属性によっては、マーケット価格より高い価値を見出せることとなり、不動産取引の活性化につながるかもしれない。」

最後に、ほぼ全都道府県に事務所を持ち地域情報の調査・分析を行う会社として、地方創生に向けた取り組みが紹介された。

■「皆が儲かる仕組みを作ることが不動産テック成功の肝」――リーウェイズ 巻口氏

最後に、リーウェイズ巻口氏より、日本における不動産テック事業の成功シナリオが示された。

「我々は技術力で勝負できるValuation(不動産価値算定)にフォーカスする。Transaction(不動産取引)やOperation(業務効率化)は規模の経済が効く世界なので、スタートアップが勝負すべき分野ではない。

リーウェイズが提供する不動産取引プラットフォーム「Gate.」は、独自収集した5,000万件の物件データを人工知能で解析し、売却時までのキャッシュフロー予測、全期間利回といった投資価値判断のための多角的な分析データを提供する。

ターゲットは投資用不動産。居住用不動産と異なり、内見なしで、利回りのような数字で比較検討できるため、ネットとの親和性高い。投資用不動産であれば世界の投資家がターゲットにできる。

皆が儲かるビジネスモデルの確立が日本の不動産テック成功の肝。「Gate.」では、個人投資家の利用も物件掲載も無料にして、プロである不動産会社や金融機関からの月額費用を貰う。米国の事例を見ても、B2Cの不動産テックで儲かっている会社は少ない。

現在タイ、ベトナム、フィリピン、米国の不動産データを蓄積しはじめている。将来的には、世界各国市場の不動産価格上下に応じた裁定取引が可能なプラットフォーム、言わば「不動産業界のインテル」を目指す。」

■日本における不動産テックビジネス成功のカギ

不動産事業は地域性が強く、国ごとに独自の成功モデルがある。不動産テックもその例外ではない。最前線で携わる各スピーカーの話を総合すると、1) 業界構造が強固なため、既存プレイヤーに利益をもたらすビジネスモデルが肝要、2) B2Bビジネスから市場が立ち上がる、3) データの活用が不動産ビジネスに新たな価値をもたらす、ということであろう。

また、政府や大手不動産会社が市場をリードする日本において、政府の地方創生への注力は大きな事業機会であり、そこで不動産テックが重要な要素として挙げられていることは、今後この市場が益々拡大する可能性を示していると言えよう。

次回はパネルディスカッションの内容をお伝えする。

尹 煕元(ユン・ヒウォン)
CMDラボ代表取締役社長、デジタルハリウッド大学院サイバーファイナンスラボ代表。
慶応義塾大学院博士課程修了(工学博士、数値流体力学)。ソロモンブラザーズにてトレーディング業務などに従事後、2007年に最先端金融工学の開発・研究を行うCMDラボ設立。金融データの分析やAI等の最先端技術導入コンサルティングなど先駆的な取り組みを続け、2017年3月にはビットコイン取引所「ARG」を開設。

最終更新:5/23(火) 18:20
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