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街中に巡回保健室 川崎・中原で医師ら窓口 支える医療へ「気軽に相談」

5/23(火) 7:03配信

カナロコ by 神奈川新聞

 街中で気軽に医療相談-。川崎市立井田病院に勤める医師らが、患者や家族にとって身近な窓口となる「暮らしの保健室」を同市中原区でスタートさせた。無料相談に加え、病院との橋渡しや医療コーディネートなども行い、地域包括ケアシステムの一端を担う役割が期待されている。運営する一般社団法人「プラスケア」の西智弘代表理事(37)は「患者らが安心して生きていくお手伝いができれば」と意欲を見せる。

 プラスケアは、医師や地域住民などのボランティアスタッフと有償の看護師の計8人がメンバーで、レンタルスペースやコミュニティースペースを利用し、4月に活動を始めた。複数の施設を利用する「巡回型」で、利用者を助けながら病院や診療所へ同行する「ナースサポート」などの有料サービスも提供し、運営資金を確保する。

 きっかけは、市民の声だった。西さんらが携わるNPO法人「小杉駅周辺エリアマネジメント」の活動の一環で、「病気になっても安心して暮らせるまち」について街頭アンケートを実施したところ、「健康問題を気軽に相談できる場所」を求める声が多かった。普段は勤務医の西さんは、「市民にとって病院は遠い場所だと感じた」といい、身近な窓口を作ろうと決心。全国で広まりつつある暮らしの保健室に着目し、他地域での事例を参考にして同NPO法人から派生する形で実現させた。

 これまでに、がん患者やその家族、小さな子どもを育てる母親、けがのリハビリに励む男性らが訪れ、病気、けがを問わず、さまざまな悩みに答えている。

 2011年7月に、東京都新宿区で先駆的に暮らしの保健室を開設した秋山正子室長(66)によると、現在は全国に約40カ所あるが、県内では把握していないという。秋山さんは「高齢化が進み、『治す医療』だけでなく『支える医療』が必要。暮らしの保健室はその一助となり、地域で果たす役割は大きい」と話し、さらなる広がりを期待する。

 プラスケアは今後、依頼があればマンションや企業、地域イベントなどにも出向く計画だ。西さんは「地域に溶け込み、多くの人に利用してもらいたい」と話している。

 開催は主に「idacafe(イダカフェ)」で、水曜午前10時~午後4時。問い合わせは、プラスケア電話044(863)8444。

◆心の声聴き 後押し

 「患者の心の声に耳を傾け、不安や医療者とのすれ違いを解消することに意義がある」

 プラスケアで活動する渡邊麗子さん(35)はそう自覚し、“地域の看護師”として歩みだした。

 川崎市内から暮らしの保健室を訪れた男性は、身内が肺がんを患っていることを打ち明け、体調管理や治療法などについて不安を吐露した。渡邊さんは経験や専門知識を生かし、柔らかい口調で具体的にアドバイス。男性は主治医に対して要望や意見を言うことができずにいるといい、「小さなことでも先生に話していくことで、お互いの考えや意思が分かるようになりますよ」と、背中を押した。

 「医者は忙しそうで、遠慮して何でも話そうという気には、なかなかなれない」。男性がそう話したように、主治医と十分に意思疎通が取れず、不安を抱く患者は少なくないという。

 渡邊さんは「医療者は、丁寧な説明を心掛けているけれど、限られた時間で大事なことだけを話すと、情報弱者の患者は一方的に感じ、意見を言いにくくなることがある」と指摘する。だから暮らしの保健室では、患者の本音を聞き、治療法や過ごし方などについて主体的に考え、行動できるようにサポートしていく。

 看護師歴5年。千葉県内の診療所で終末期の患者を支えてきた渡邊さんは、「患者自身の価値観や暮らしに合わせていくことが大事」と実感し、地道な活動の先に理想を見ている。「気軽に医療者に相談できる、患者に優しい社会であってほしい」