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PFNとの提携も発表!想像を超えるマイクロソフトのAIフォーカス

5/24(水) 8:30配信

アスキー

インテリジェントクラウド・インテリジェントエッジを推進するマイクロソフトがde:codeで開発者に向けて未来をアピール
5月23日に開催したマイクロソフトの開発者向けイベント「de:code 2017」の基調講演。先頃行なわれた「Build 2017」の最新情報を盛り込んだ今年のテーマはずばりAIだ。「インテリジェントクラウド・インテリジェントエッジ」の戦略に基づいたAIへの取り組みについてレポートする。
 

技術者にチャンスと責任がやってきた
 毎年、直前に開催されたBuildの最新情報を盛り込み、開発者に向けたビジョンが披露される日本の「de:code」。サティア・ナデラCEOが来日した昨年は、Windows/Office/Azureという3つのプラットフォームを支える技術として紹介されたAIだが、今年は一気に主役に踊り出た印象。Azureのプラットフォームとしての現状やサーバーレスやIoTなどのトピックの説明を潔く省き、全体を通して強調されたのは想像を超えるAIへのフォーカスであった。
 
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 冒頭、イベント概要とマイクロソフトの全体方針について語った日本マイクロソフトの伊藤かつら氏は、デジタルテクノロジーの成長が差別化の源泉になるとアピール。データ量の増大とクラウドのパワーにより、技術者がビジネスの中心的な存在になるチャンスが生まれる一方で、テクノロジーの選択という「責任」を負わなければならないと説明した。
 
 こうしたデジタル時代の中、マイクロソフトには不変の価値・原則として「Empower People(人々に力を)」「Inculusive design(すべての人のためのデザイン)」「Bulit trust in technology(信頼できるテクノロジー)」があり、これらが「テクノロジーの上に価値を創出し、社会にインパクトを与える」というミッションにつながっていると説明した。
 
 その上で、現在のマイクロソフトが「モバイルファースト・クラウドファースト」から「インテリジェントクラウド・インテリジェントエッジ」という戦略に大きくシフトしていることをアピール。「4年前、この壇上で私は『開発者はヒーローになれる』と話したが、今やまさにその時代が近くに来た」と聴衆に対して、テクノロジードリブンの時代の到来をアピールした。
 
AIサービスを容易にカスタマイズできる
 続いて登壇した米マイクロソフト コーポレートVP&チーフエバンジェリストのスティーブン・グッゲンハイマー氏は、Fortune500の企業のうち90%以上がMicrosoft Cloudを利用していること、Office 365の月間アクティブユーザーが1億、Cortanaの月間利用が1.4億にのぼったモバイルファースト・クラウドファーストの実績を強調。そして、こうした実績をベースに推進されている「インテリジェンスクラウド・インテリジェントエッジ」の戦略の中で、先進的なAI技術がまさにマイクロソフトの強みとなることをアピールした。
 
 ご存じの通り、AIの研究は古くから行なわれており、コンピューターサイエンスの領域では真新しい分野ではない。しかし、昨今は「コンピューター処理能力の向上」「アルゴリズムの向上」「未曾有の量のデータ」などの促進要素が存在しており、AIの利用が急速に進んでいるという。
 
 グッゲンハイマー氏は、SNSの登録数が570万人に達した女子高生AIである「りんな」や、昨年に俺様キャラとして公開された「りんお」のデモ、あるいはVRを用いることで圧倒的な没入感を実現した「Starship Commander」の開発ストーリービデオを披露。AIがまさに目の前で扱える技術であることをアピールした。さらにAIによる認知を実現する「Microsoft Cognitive Services」では、画像認識、言語理解、スピーチ、検索、意思決定などを顧客ごとに「カスタム化」が可能になったことが説明された。
 
 AIを活用した画像認識やチャットボットはどうすれば実現できるのだろうか? Custom Visionについて説明した日本マイクロソフトのドリュー・ロビンス氏は、まず庭から拝借したもみじ(Japanese Maple)の写真を画像認識させるデモを披露。アプリを実現するために、ほんの少しの画像をアップロードすれば、自動的にモデルが学習できるとアピールした。
 
 さらに予測精度を上げるためにメニューからアクティブラーニングを実施すると、過去の画像から一番インパクトのある画像を自動的に探索。情報を与えれば、予測精度をより高めることができるという。また、後述するとおり、膨大なデータがある場合はAzure Data Lakeに格納でき、学習済みのAIモデルで分析したり、検索をかけることも可能だ。
 
 続いてチャットボットに関して説明したロビンス氏は、シアトルの美味しいレストランをBingで検索。この検索結果からチャットを直接起動し、レストランに一番美味しいメニューを聞くことができるデモを披露した。こちらは「Adaptive Cards」というフレームワークを使れば、SlackやSkype、Andoroid、iOS、Microsoft Teamsなどに向けて最適化されたカード型のインターフェイスを容易に開発できるという。
 
 グッゲンハイマー氏は、Cognitive ServiceやBotFrameworkのアップデートや、AIのトレーニングをバッチで行なえる「Azure Batch AI Training」などを披露。「いろいろな機能がAI+Azureという形で開発者の手に入るようになってきた。エコシステムと協力しながら、ツールと機能をAI向けに出していく」(グッゲンハイマー氏)とアピールした。
 
Preferred Networksとの提携でChainerがAzureで使える
 そして、パートナーとの取り組みとしてグッゲンハイマー氏から新たに発表されたのが、ディープラーニングを手がけるPreferred Networks(PFN)との提携だ。
 
 登壇したPFNの西川 徹代表取締役は、自動運転での学習模様をビデオで披露しながら、「ディープラーニングはデバイスから出力されたデータを分析するだけではなく、デバイスのコントロールにおいて重要な価値を持ってくる。ロバストな制御が可能になる」と説明し、PFNが基盤技術とモノの制御に強みを持っている点をアピール。現在、同社はディープラーニングの基盤となるフレームワーク「Chainer」をOSSとして提供するほか、今月はIoT向けの高いスケーラビリティを実現する「ChainerMN」も新たにリリースしている。西川氏は、128GPUを用いたResNetの学習において、他のフレームワークに比べて高い性能を実現できるようになったグラフを披露した。
 
訂正とお詫び:記事初出時、「ChainerMN」の製品名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(2017年5月24日)
 今回の提携ではAzureのAIフレームワークとしてChainerが利用可能になったほか、エンタープライズ向けAIソリューションの提供、ディープラーニングの教育も共同で行なっていくという。西川氏は「非常に大きなチャンス」と述べ、マイクロソフトとの提携に高い期待を示した。
 
 このほか、グッゲンハイマー氏はマイクロソフト製品自体へのAI技術の取り込みについても説明。PowerPointのプレゼンを日本語、英語、スペイン語にリアルタイムで翻訳するデモや、保険会社の顧客向けチャットボットがDynamicsCRMと連携するデモ、AIを自然にビジネスに溶け込ませようという試みがわかりやすく聴衆に示された。こうしたビジネスアプリケーションとAIの連携は、同社の大きな強みと言えるだろう。
 
AIをフル活用するためのマイクロソフトのデータベース戦略
 さて、グッゲンハイマー氏が降壇し、パーキンソン病による手の震えを押さえる腕時計型デバイスのストーリービデオが披露された後、大きなテーマとなったのはAIにおいても重要な「データ」。登壇した米マイクロソフト データプラットフォーム コーポレートVPのジョセフ・シロシュ氏は、カンブリア爆発と同じインパクトを持つAIの特異点が訪れていると俯瞰し、AIを活かすデータプラットフォームの重要性をまずアピールした。
 
 シロシュ氏は、従来はアプリケーションにインテリジェンスが存在し、データベースは単なる貯蔵庫に過ぎなかったと指摘。しかし、今後はデータが存在する場所にこそインテリジェンスが必要と強調した。これが「Intelligent DB」の概念だ。そして、AIを組み込んだ最初の商用データベースとして「SQL Server 2017」、機械学習エンジンとして「R Server 9.1」を紹介する。
 
 SQL Server 2017ではRやPythonのストアドプロシージャを利用できるほか、Graphのモデルをサポート。データを移動させることなく処理が行なえるため、セキュリティと効率性を向上できるという。また、シロシュ氏が「AIのカーネルにあたる」とするR Server 9.1ではトレーニング済みのCognitiveモデルを用い、GPUによる高速なディープラーニングの恩恵を受けることができるという。
 
 デモではSQL Serverに格納されたCTスキャンのデータを分析し、ガンの確率を予測するアプリケーションが披露された。こうしたアプリケーションではRやPythonなどのストアドプロシージャを呼び出すコードを追加するだけで、AIの機能が利用できるという。また、マイクロソフトのディープラーニングライブラリであるCNTKを使った分析をGPUで走らせることができるため、CPUだと32時間かかる処理が1時間で終了するとのこと。さらに患者のCTスキャンデータという機密性の高いデータも、セキュアなSQL Serverから移動することなく利用できるのもエンタープライズ用途では重要なポイントだ。
 
グローバル規模でデータ分散できるAzure Cosmos DB
 現在、Microsoft Azure上では、さまざまなデータベースがマネージドサービスとして提供されている。SQL Serverはもちろんのこと、OSSであるMySQLやPostgreSQLの提供も先日プレビューとして発表された。これらのサービスは高い可用性やバックアップ、セキュリティ、監査などにも対応するほか、オートスケールやリソース管理、チューニングやモニタリングまでカバーされている。
 
 そして、Build 2017で発表されたのが、グローバル規模でのデータ分散が可能なクラウド型NoSQL DBである「Azure Cosmos DB」だ。Cosmos DBはDocument、Graph、Key-Valueという3つのデータモデルから保存方法を選べるほか、データの一貫性とパフォーマンスによって5つの一貫性モデルを選択できる。昨日掲出した「謎のデータベース「Azure Cosmos DB」一問一答」の記事でCosmos DBについて解説した廣瀬一海氏がデモを披露した。
 
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 データベースがインテリジェンスを持つメリットは大きい。そもそも製品がエンタープライズグレードであるほか、データの移動がないため、シンプルで短期間にサービスが実装できる。また、AIを既存のアプリケーションに追加できるほか、OSSを使って拡張することも可能。そしてAzureであればグローバル規模にスケールできるというのがシロシュ氏のまとめたメリットである。
 
データレイクにもAIを組み込み、ディープラーニング用のVMも
 ここまではデータベース自体がインテリジェントを持つケースだったが、マイクロソフトはデータレイク自体にインテリジェンスを持たせる「Intelligent Lake」も提案する。具体的には、Spark/Hadoopクラスターである「Azure HD Insight」を用いたり、サーバー不要な「Azure Data Lake」サービスを用いることだ。
 
 このうち後者のAzure Data Lakeではすでに6つのCognitive機能が実装されており、顔の解析や画像のタグ付け、感情分析、OCR、テキストから重要語句の抽出、テキストの感情分析などが可能だ。これによりペタバイトクラスのデータ、しかも構造化データとコンテンツをまたいだ「Big Cognition」が実現し、さまざまなデータセットを異なるユーザーに提供できる。
 
 そして、第3の方法がずばりディープラーニングだ。ディープラーニングはすでにインターネットやクラウドの世界にとどまらず、医学・生物学、メディア、生物学、自動運転でも用いられている。シロシュ氏はニューラルネットを用いたディープラーニングとドローンによって、送電線の検査を実施しているノルウェイのeSmart Systemsのビデオを披露した。
 
 こうしたディープラーニングを動かすためにマイクロソフトが提案するのが、「Azure Data Science Virtual Machine」だ。これはメジャーな分析ツールがインストール・構成された仮想マシンで、Azure GPU VMにディープラーニングの拡張機能がすでに組み込まれて提供される。SQL ServerやR Serverの開発者版も組み込まれており、Azure Batchも利用可能だ。
 
 壇上には先ほど提携を発表したばかりのPreferred Networks リサーチャーの齋藤 俊太氏が登壇し、Azure Data Scence VM上でのChainerのデプロイを披露。深層学習モデルをすぐに試せるという。さらにChainerとAzureを活用し、白黒のペン画に着色を自動で行なう「PaintsChainer」を紹介し、マイクロソフトの千代田まどか氏が書いたイラストに着色して見せた。
 
 データ戦略について説明してきたシロシュ氏は、インテリジェントなデータベースとデータレイク、ディープラーニングサービスなどでAIを手軽に利用できるとアピール。「5億3000万年前のカンブリア爆発と同じようなインテリジェンスの爆発で、私たちの世界は大きく変わっていく」とまとめた。
 
 HoloLensの開発を主導してきた米マイクロソフトのアレックス・キップマン氏が登壇したラスト1時間は、MR(Mixed Reality)が描く未来を魅せたまさにショータイムであった。事例やプロモーションの動画を大きくフィーチャーする形でセッションは進行。HoloLensのみではなく、そこから生まれる未来像を描くスタイルは非常に説得力があり、ともすれば2時間費やして説明してきたAIを大きく上回るようなインパクトがあった。
 
 キップマン氏が強調したのは、MRはARやVRを含む概念で、仮想と現実の境目をシームレスに埋めていく包括的な技術的であることだ。また、日本でのHoloLensの盛り上がりが高く、コミュニティが非常にエキサイティングであることに感謝の意を示した。
 
 
文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

最終更新:6/13(火) 12:13
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