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番組制作費を削減し続けるフジに未来はあるのか

5/24(水) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 フジ・メディア・ホールディングス(HD)を30年にわたって率いてきた日枝久会長と、ドラマ「踊る大捜査線」のヒットで知られるフジテレビジョン(以下、フジテレビ)の亀山千広社長が業績不振の責任を取って退任する。一部からは日枝氏は相談役として院政を敷くとの報道もあるが、会長ポストを去ることの意味は大きいだろう。

【2016年度 民放キー局の番組制作費】

 フジテレビは2013年に亀山社長が就任して以後、坂道を転げ落ちるように視聴率が低迷した。グループとしては多角化が進んでいるものの、業績の多くをフジテレビに依存している図式は変わらない。業績低迷に苦しむフジテレビの実情を探った。

●一人負け状態のフジテレビ

 フジ・メディアHDの2017年3月期の業績はかなり厳しいものだった。売上高は6539億円と前年をわずかに上回ったが、営業利益は223億円と前年比8.5%のマイナスとなった。同社は事業の多角化を進めており、中核である放送事業の売上高は全体の半分程度まで下がっている。だが放送事業が収益を支えている図式に変わりはない。

 最大の稼ぎ頭であるフジテレビの売上高は前年比3.2%減の2805億円、営業利益は前年比27.0%減の40億円とかなり厳しい状況だ。フジテレビが稼げなければ、グループ全体の業績も低迷することになる。

 フジテレビの業績が冴えないのは、当たり前のことだが視聴率が低迷しているからである。亀山氏が社長に就任した13年の年間視聴率(ビデオリサーチ調べ)は7.1%で、民放キー局5社の中では3位だった。ところが他社の視聴率が上昇、もしくは横ばいで推移する中、フジテレビだけが年々視聴率を落とし、16年は5.7%まで低下。キー局での順位は4位に落下した。フジテレビより下は相対的に規模の小さいテレビ東京しかない状況なので、同社の視聴率低迷はかなり深刻といってよいだろう。

 フジテレビが低迷している最大の要因は、稼ぎ頭であるゴールデンタイム(午後7~10時)での視聴率落ち込みが激しく、いわゆる人気番組で高い視聴率が取れていないことである。当然のことながら、視聴率の低下は広告収入の低下をもたらすことになり、17年3月期におけるフジテレビの放送収入(地上波のみ)は前年比で5.6%も落ち込んだ。

●業績回復が難しい理由

 テレビ局の広告収入には、タイム広告収入とスポット広告収入の2種類がある。タイム広告は、個別の番組ごとに発生する広告で、広告主は番組内に設定された枠にCM(コマーシャルメッセ-ジ)を流すことができる。また番組中に「この番組はA社の提供でお送りします」という形で提供表示される。

 一方、スポット広告は番組とは関係なく、局が定めた時間に放送されるCMである。番組と番組の間や、番組中の特定時間帯にスポットCM枠が設定されている。

 もともとテレビはスポンサーからの資金提供(タイム広告収入)で番組を制作するというビジネスモデルだったが、年々、スポット広告の比重が高まり、現在ではタイム広告とスポット広告は半々という状況になっている。フジテレビも、もともとタイム広告の比率が高かったが大幅に低下した。

 これまでフジテレビは人気番組を制作することで業績を回復させようと試みてきた。しかし、2年前くらいからそれも難しくなってきた。なぜなら、収益低下に歯止めがかからず、コンテンツビジネスの核心部分である番組制作費の削減に手を染めてしまったからである。

●制作費の削減が負のスパイラルをもたらす

 地上波の各テレビ局は、年間900億~1000億円程度の資金を番組制作に費やしている。出演するタレントのギャラや美術制作費などは全てこの費用に含まれる。TBSやテレビ朝日が番組制作費を増やす一方、フジテレビは16年3月期には930億円、17年3月期には882億円まで減少した。同社の制作費は民放キー局の中で4位となっている。

 テレビ局は、ドラマやバラエティ番組など、制作したコンテンツの中身(視聴率)でほぼ収益が決まってしまう。当然、コンテンツビジネスの核心部分ともいえる制作費を大幅に削減することは大きなリスクを伴う。視聴率を早期に回復させ、制作費を増額していかなければ、同社のコンテンツ制作能力は今後、大きく低下する可能性があるだろう。

 もっとも、この問題はフジテレビに限った話ではない。視聴率低下が著しいことからその影響がフジテレビだけに顕在化しているように見えるが、テレビ全体の視聴率(総世帯視聴率)は、多少のバラツキはあるものの年々低下が進んでいる。ゴールデンタイムの視聴率は10年には63%もあったが、2016年は59%まで下がっているのだ。若者のテレビ離れなどの影響を受け、今後も視聴率低下が進むと言われているので、いずれ各社もフジテレビと同じような状況に陥る可能性がある。

 在京キー局は、地方のテレビ局を系列化しグループを形成しているが、キー局は一括して受け取った広告料金をネットワーク分配金という名称で地方局に分配している。この金額は各局当たり300億円程度と推定されるが、この資金がなければ地方局の経営は成り立たないので、削減することは難しい。テレビ局の設備などにかかる減価償却も同様である。

 そうなってくると、数少ない変動費である制作費を削減することになるわけだが、これは確実にコンテンツの質の低下をもたらす。テレビ局の収益構造は硬直化しており、視聴率の低下に柔軟に対応することができなくなっているのだ。すぐには大きな問題は起きないだろうが、フジテレビの業績低迷は、実はテレビ局全体の近未来なのかもしれない。

(加谷珪一)