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データ主導のスマートシティが、衰えた工業地帯を復活させる?

5/24(水) 10:28配信

ITmedia エンタープライズ

 2016年6月23日、米国オバマ政権下のホワイトハウスは、運輸省(DOT)などが主催する「スマートシティ・チャレンジ」の優勝者にオハイオ州コロンバス市が選ばれたことを発表した。優勝者には米運輸省から4000万ドル、企業スポンサーから2000万ドルの予算が割り当てられることになっている。

 運輸省は、2015年12月、ホワイトハウスの「スマートシティ・イニシアチブ」の一環として、全米の都市を対象にスマートシティ・チャレンジを開催することを発表した。その後、応募した78都市の中から、ファイナリストとして、オースティン(テキサス州)、コロンバス(オハイオ州)、デンバー(コロラド州)、カンザスシティ(カンザス州)、ポートランド(ワシントン州)、サンフランシスコ(カリフォルニア州)の7都市が選ばれた。

 コロンバス市は、先の米国大統領選挙で台風の目となった「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」を構成するオハイオ州の中央部に位置する、人口約85万人規模の都市だ。主力産業は自動車製造業であり、近郊のメアリーズビルには、本田技研工業米国法人の生産拠点がある。

 コロンバス市はスマートシティ・チャレンジの提案書において、「美しい都市」「健康な都市」「繁栄する都市」という3本柱で、以下のようなビジョンを掲げた。その他にも、他のスマートシティと共通する項目も多数掲げている。

・美しい都市:都市のモビリティ需要に応えて、環境に及ぼす影響を低減する、クリーンな交通手段を提供する
・健康な都市:自動車なしの旅行のための安全で魅惑的な機会と、人々を健康な食や医療などのサービスに結び付ける、完成されたデジタルネットワークによるスマートな技術を提供する
・繁栄する都市:労働者を仕事に、雇用主を労働者に結び付け、商品を市場にもたらし、世界クラスの施設を支援し、家庭の予算の範囲で手頃な信頼できる旅行の選択肢を提供する

 コロンバス市のスマートシティ(Smart Columbus)の各プロジェクトは、トランプ政権下の2017年から本格的に立ち上がり、2020年までの導入を目標として進められるという。

●データドリブンのスマートシティを支えるオープンガバメント

 コロンバス市は、接続された交通インフラストラクチャ、電気自動車(EV)充電インフラストラクチャ、統合型データ交換プラットフォーム、強化された人的サービス、自動運転車などの新技術を利用して、住宅地域、商業地域、都市部、物流地域の課題解決(安全、安心、モビリティ、機会の平等、気候変動など)に取り組む統合的なスマートシティ計画を提案している。

 さらに、同市は、スマートシティを支える要素技術を統合するために、以下の5つの戦略を掲げている。各戦略とも、ブロードバンドネットワークを介したビッグデータの連携や統合が前提条件となっている。コロンバス市の場合、過去のオープンデータ(オープンガバメント)施策を通じて、市民視点に立ったデータのアクセシビリティやユーザビリティが整備されている点が強みだ。

・乗り換えサービスを効率的に改善するための、インテリジェントなインフラストラクチャ機能を実証するスマートな走路の構築
・トラックが荷物を配送する高速道路システムの信頼性を改善する、経路決定アプリケーションで補完される交通情報データの迅速性と品質の強化
・主要なイベント(インシデント)に関して、集中する移動需要による影響を最小化するための、交通、駐車状況と乗り換えの選択肢に関するリアルタイム情報のプッシュ提供
・低所得で銀行口座を持てない住民や、共有される情報やサービスにリアルタイムでアクセスしたり、利用したりするためのスマートフォン(データサービス)を持たない人々が、直面しうる障害を取り扱う通信技術ソリューションの構築
・エネルギーや気候変動の目的で提供するために、政策、実践の変更やスマートグリッドの拡張を通した電気自動車やスマート自動車利用の拡大

 以下に、同市が提供しているオープンデータポータルのうち、地理情報(GIS)データおよび関連するアプリケーションサービスの例を挙げた。このようなサービスが、いつでもどこでも利用できるモビリティの高さは、スマートシティプロジェクトに欠かせない。

 加えて、コロンバス市の提案に対しては、前述の本田技研工業をはじめとする地元の自動車産業も全面的に協力している。長年ラストベルトを支えてきた米国系製造企業が相次ぎ撤退した1980年代、代わりに日系企業が進出して継続的な雇用に貢献してきた。そして今日、全米一と評価されたスマートシティ計画の一翼を担っているのだ。

 そんなコロンバス市を手本とし、他の都市でもスマートシティへのさまざまな施策が展開されているが、都市間にあるさまざまな“格差”が課題になっている。

●コロンバスを追いかけるシンシナティのデジタルデバイド解決策

 米国では、2008年のリーマンショック後の景気浮揚策として制定された「2009年米国再生再投資法(ARRA)」に基づき、電子カルテシステムやスマートメーターとともに、ブロードバンドインターネットの導入支援策が実施されてきたが、ブロードバンドにアクセスできない地域は依然として残っている。

 このように、デジタルデバイド(情報格差)が存在する状況はオハイオ州内でも同様だ。コロンバス市のように、ブロードバンドインフラ上でさまざまなスマートシティのサービスが展開可能な地域は限定されており、まだら模様の格差をどう解消するかが、ラストベルト共通の課題となっている。

 例えば、オハイオ州の南西端に位置するシンシナティ市では、2016年から、スマートシティプロジェクト「Smart Cincy(スマートシンシィ)」を行っている。かつて石炭産業で栄えたラストベルト地帯にある同市では、域内のデジタルデバイドの解消が、最大の課題となっているのだ。

 2017年3月21日、シンシナティ市の調達部は、「シンシナティ市全域におけるWi-Fi、または有線ブロードバンドシステムの導入:スマートシティ・イニシアチブ・フェーズ1」と題する見積もり依頼書(RFQ:Request For Quotation)を公表し、アイデアの公募を開始した。

 シンシナティ市のスマートシティ・プロジェクトでは、官民連携パートナーシップ、レベニューシェア・モデルを通して、以下のような目標を設定している。

・協議会が採用した無線通信機能ガイドラインで達成される協調的な成功の上に構築する
・市のインフラストラクチャと公共の回線用地を活用して、市全域のブロードバンドネットワークの構築を可能にする
・以下のような新しく革新的なアプリケーションとサービスのための、技術中立的なプラットフォームを創設する
・市の経済成長を刺激する
・公共の安全を改善する
・効果的なガバナンスを強化する
・デジタルデバイドをつなぐ

 シンシナティ市においても、オープンデータ/オープンガバメント施策を推進しているが、コロンバス市と比較すると、通信インフラやモビリティ機能の整備が遅れているのが現状だ。

 そこでシンシナティ市は、優先目標を定めてデータ利活用策を推進しているほか、スマートシティによる地域創生モデル確立をめざして、オハイオ州内のみならずケンタッキー州やインディアナ州の政府機関、産業界、教育界のリーダーとの広域連携も推進している。このような取り組みが、米国の社会課題先進地域となったラストベルトの変革につながるか、今後の動向が注目される。