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シニア世代に僧侶への転身推進 人生経験が必要、60人が得度

5/24(水) 8:40配信

福井新聞ONLINE

 標高500メートル、四方を山に囲まれた長野県千曲市の開眼寺。小高い丘に建ち、集落やリンゴ畑が見渡せるこの寺には、春になると多くの社会人がやって来る。

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 3月29日、愛知県の自動車部品会社の2泊3日の新入社員研修会が開かれ、高校や大学を卒業したばかりの19人が参加した。柴田文啓住職(82)=福井市出身=は「そもそも宗教とは何でしょうか?」と問いかけ「お経は人間の価値ある生き方を示しているんですね」と、仏教を分かりやすく説いた。上場企業の研修会も毎年恒例となっている。

 理由は経歴にある。福井大卒業後、大手の横河電機(東京)に就職。米国の電機大手ゼネラル・エレクトリック(GE)との合弁会社設立にかかわるなどし取締役、横河アメリカ社社長を歴任した後、62歳で退職した。

 父を戦争で亡くし、小さいころから仏壇に手を合わせる母の後ろ姿を見て育った。30歳のころからは仕事の傍ら、寺に通い座禅を続けた。ある老師との出会いもあり、定年後は「老師のまね事でもいいから僧侶になる」と決めていた。1年余の修行を積み2001年、10年以上無住だったこの寺に入った。檀家はないが「葬式で収入を得るつもりはなかった」。

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 「今を生きる人間の悩みに寄り添うのが僧侶の本来の役割」。柴田住職は、檀家制度の下で葬儀や法事に依存する現代の寺の在り方に疑問を投げ掛け「このままでは仏教は衰退する」と警鐘を鳴らす。

 「有名大学を出て市役所に勤めているが、辞めたい」「しゅうとめとうまくいかない」。寺には悩みや心身の病を抱えた老若男女がやって来る。柴田住職は「ひたすら話を聞き、相手の目線に立つ。助言を求められて初めて『お釈迦様はこんなことを言っていますよ』と声を掛ける。1対1の場では聞く姿勢が求められる」。

 宗派では宗門活性化推進局顧問を務め、空き寺対策の一環として、シニア世代の僧侶への“リクルート”を推進。これまで約60人の社会人が得度し、10人が寺の住職になったという。「人の悩みに思いをはせ助言するには、それなりの社会経験が必要」。自らの人生に基づく信念だ。

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 大手企業の粉飾決算など、相次ぐ近年の企業犯罪について柴田住職は、現在の企業のトップは団塊の世代が多いことを指摘し「家族を顧みず、高度経済成長期を生き抜いてきた世代。彼らには人の道を指し示す宗教は存在しなかったのではないか」と憂う。データ改ざん問題にも触れ「実験データはいわば“神の声”。それをごまかすとは信じられない」と元技術屋の顔をのぞかせる。

 猛烈なスピードで変化する現代に通じる「諸行無常」、全てのものはつながりの中で存在しているという「諸法無我」…。1997年に65歳で在家得度した稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)は、8600億円超の債務超過に陥った日本航空を再建に導いた。稲盛氏の経営12カ条には「商いには相手がある。相手を含めて、ハッピーであること。皆が喜ぶこと」と、利他という仏教に通じる教えもある。柴田住職は「仏教は企業経営にも大いに参考になるはず」と話す。

福井新聞社