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小島監督とゲリラゲームズのハーマン・ハルスト氏へインタビュー。ともに高みを目指すゲーム創りに迫る

5/25(木) 9:02配信

ファミ通.com

●コジマプロダクションとタッグを組むゲリラゲームズとは?
 ゲリラゲームズは、『KILLZONE(キルゾーン)』シリーズや『Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ・ドーン)』を手掛けた開発スタジオ。小島秀夫監督率いるコジマプロダクションにも技術供与し、コラボレーションを行っている。今回は、ゲリラゲームズのマネージング・ディレクターであるハーマン・ハルスト氏の来日に合わせ、小島監督とともに話を聞いた。
(聞き手:ファミ通グループ代表 浜村弘一)

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『デス・ストランディング』とDECIMAエンジン

 コジマプロダクションが開発を進めているプレイステーション4用ソフト『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』は、ゲリラゲームズのDECIMA(デシマ)エンジンを採用。アメリカ・アナハイムで行われた“PlayStation Experience 2016”に合わせて公開されたトレーラーは、プレイステーション4 Proのリアルタイム4K映像で構成され、その実力を大いにアピールした。エンジンはゲリラゲームズとコジマプロダクション共同でブラッシュアップが続けられている。

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●小島監督の絶対条件を満たすパートナー
浜村 小島監督は、現在制作中の最新作である『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』のゲームエンジンを探しに世界中を飛び回っていましたよね。その旅の結果、ゲリラゲームズのDECIMA(デシマ)エンジンを採用することになったわけですが、それはすんなり決まったのですか?

小島 パートナーを選ぶうえで絶対条件にしていたのが、“テクノロジー”と“人”のふたつです。この両方が合致していないといいものは作れないので、スタジオ回りに出た時点ではここまでしか考えていなかったんです。テクノロジーとひと口に言っても、グラフィックだけいいというようなエンジンはいっぱいあるんですよ。重要なのは、自分たちがそのエンジンを使って高みに上がれるかどうかです。

浜村 そういう意味では、ゲリラゲームズの技術が群を抜いているのは『ホライゾン ゼロ・ドーン』を見れば一目瞭然ですね。

小島 そうですね。『ホライゾン ゼロ・ドーン』はオープンワールドタイプのゲームで、映像の密度もすごい。キャラクターはもちろん、環境の変化などもリアルタイムで制御されていて、そのテクノロジーの高さは世界中のスタジオを回った中でもナンバーワンでした。僕たちが目指しているものにいちばん近いなと。

浜村 あとは“人”の部分になりますが。

小島 長い付き合いになるので、作っている人たちと気が合うかどうか、情熱を共有できるかですね。僕は偏屈なので、相手も同じように偏屈じゃないとダメなんですよ(笑)。

浜村 ゲリラゲームズはテクノロジー的には文句なしで、人の部分でもピンとくるものがあったわけですか?

小島 ええ。最初、僕らはゲリラゲームズさんにゲームエンジンだけを提供してもらうものとばかり思っていたのですが、彼らはそれではイヤだと言ってきたんです。

ハーマン 「いっしょに作りましょう」と小島さんに言いました。ゲームエンジンは私たちゲリラゲームズが作ったものですが、ここから先はお互いにやり取りをしながら、ステップを上っていきましょうと。

小島 そんな提案をしてきたのは、ゲリラゲームズさんだけですよ。その後、まだ契約も交わしていないのに「これに全部入っています。使ってください」とゲームエンジンのソースコードが入ったメモリーを手渡してきたんです。彼らの10年ぶんの血と汗が詰まった、まさに命のようなものをですよ。

ハーマン 「箱」に入れてね(笑)。あれはまだ持っていますか?

小島 もちろんです。帰りの飛行機はドキドキでしたよ。守秘義務とかそういうレベルじゃない。僕らは自分たちのことをけっこうふつうじゃないと思っていましたが、この人たちもふつうじゃないなと(笑)。

浜村 胸が熱くなりますね(笑)。

ハーマン 我々とコジマプロダクションがコラボレーションして、ゲームエンジン自体も進化させるという目標を作ったのです。

小島 でも、問題はここからです。僕たちとしては、DECIMAエンジンを使いたいという気持ちはあるものの、本当に使えるかどうかという精査を3~4ヵ月かけて行いました。最終的にエンジンを決めるにあたって、いっしょにエンジン探しの旅に出たマーク・サーニー(プレイステーション4のリード・システムアーキテクト)と話し合い、自分たちなりの条件を設けていたのです。

浜村 超えなくてはならないハードルがまだ残っていると。

小島 それは、エンジンの提供元が作っている主力商品と似たようなものしか作れないようでは相手に迷惑がかかってしまうので、そこは見極めようということです。

浜村 ゲリラゲームズのタイトルで言えば、『キルゾーン』や『ホライゾン ゼロ・ドーン』ということになりますか。

小島 そうですね。たとえば、FPS向けのゲームエンジンならFPSを作るのがいいですし、ツールも共通だと絵の雰囲気も似てきます。当然ですよね。僕らは、ゲリラゲームズさんのエンジンを使いつつ、自分たちのゲームを作らないといけない。正直、最初はできるかどうか不安だったのですが、検証を重ねていくうちに「これならいける」と。

浜村 そうして両者の協業が始まるわけですね。エンジンをいっしょに作るというのは、具体的にはどんなやり取りをされているのですか?

小島 同じエンジンを使うとはいえ、僕たちとゲリラゲームズさんとでやりたいことはちょっと違います。『ホライゾン ゼロ・ドーン』はカラフルでアートな世界。僕らが目指すのはフォトリアル。だから、フォトリアルに適したエンジンやツールにするために、いろいろと改良を加えていきます。僕らが彼らに質問して直接手を入れることもありますし、要望を伝えて直してもらったりもします。僕はカットシーンが得意ですが、DECIMAエンジンは僕が使いたいようなツールにはまだなっていません。彼らと協力してそうした部分を作っていくわけですが、こちらからもノウハウを提供することで、彼らも同時にそのツールが使えるようになるのです。

浜村 すばらしい協業の形ですね。

ハーマン コジマプロダクションのエンジニアの方からいただく質問は非常にレベルが高く、かつ彼らの書くコード(プログラム)はとても美しい。DECIMAエンジンをともに進化させていくのにふさわしいパートナーだと思いますね。

浜村 小島監督のあまりのこだわりに、面を食らったりはしませんでしたか?(笑)

ハーマン コジマプロダクションの方たちは、ディテールへのこだわりが尋常ではありません。たとえば、アニメーションのリグ(自然な動きにするための機構)の微細な不備に気づき、「計算が違う」と指摘してきます。こちらは「え、本当に?」と調べてみるまでわからないほどで。そのきめ細かさにもリスペクトしています。

浜村 お互いの尊敬と信頼を感じますね。僕個人としても、小島監督を応援してくれて本当にうれしく思っているんです。

ハーマン (無言で拳を出す)

浜村 (無言で拳をぶつける)

一同 (笑)。

ハーマン 伝説的なゲームクリエイターとして小島さんを尊敬しています。今回の協業は、いきなり知らない人がゲリラゲームズにやって来て「エンジン使わせてくれ」というのとはわけが違うのです。コジマプロダクションとコラボレーションできることは非常に光栄ですし、テクノロジーや学んだことをシェアするというのは、ゲリラゲームズのカルチャーでもあります。『ホライゾン ゼロ・ドーン』を送り出したいま、今度はコジマプロダクションが改良したコードを共有させてもらって、DECIMAエンジンをよくしていきたいですね。

小島 DECIMAエンジンの“デシマ”には「出島(でじま)」という意味も含まれているのですが、僕たちが船出しようとしたら、逆にDECIMAがオランダから来たという感じです。

ハーマン まさしくそうです。DECIMAエンジンをコジマプロダクションとともに磨き上げ、今後もすばらしいゲームを作ることができる。これはお互いにとって、最高の環境と言えるでしょう。

●飽くなきチャレンジ精神 “ゲリラ”的ゲーム開発
 後半はハーマン・ハルスト氏へ単独インタビュー。ゲリラゲームズ設立の経緯やゲーム開発におけるこだわりを始め、『ホライゾン ゼロ・ドーン』の世界的な大成功、そして日本のゲーム市場についても聞いた。コジマプロダクションがパートナーに選ぶ開発スタジオ、ゲリラゲームズ。彼らのゲーム開発に懸ける思いを知れば、その共通点が見えてくるはずだ。

浜村 まずは、ゲリラゲームズを設立した経緯からお聞かせください。

ハーマン 2000年に3つの小さなチームが集まって、ヨーロッパでもトップになるようなゲームデザインチームを作ろうと、ゲリラゲームズを設立しました。設立当初は10人から12人ほどで、私は設立者のひとりです。当時からのキースタッフは、テクニカルディレクター、アートディレクターとして現在も所属しています。

浜村 なぜゲリラと名付けたのでしょうか?

ハーマン ゲリラゲームズは小さなグループから始まりました。逆に小規模だからこそ、他社とのコラボレーションに対してもオープンですし、何でも新しいことに挑戦します。小さいグループでも突進していく、まさにゲリラ・ウォーフェア(ゲリラ戦)なのです。

浜村 ゲーム業界にゲリラ戦を挑むと。

ハーマン “ゲリラ”はスペイン語ですが、もはやインターナショナルな言葉で、日本でも通じますよね。そういう言葉を選んだという理由もあります。

浜村 では、そのゲリラ戦を仕掛けていくうえで、重要視していることは何でしょうか?

ハーマン たくさんありますが、ひとつはディテールです。自分たちが作るツール、プレゼンに使うドキュメント、仕事の効率化、これらのきめ細かさがディテールのクオリティーにつながります。また、チームとしては、ハードウェアの性能を引き出すチャレンジにもフォーカスしています。

浜村 とくにハードウェアが発売されてから間もないタイミングで、クオリティーを出すのは難しいことですよね。

ハーマン 『KILLZONE 2(キルゾーン 2)』ではプレイステーション3の性能を知らしめることができましたし、『KILLZONE 3(キルゾーン 3)』ではプレイステーション Moveや3D立体視に対応しました。そして『KILLZONE SHADOW FALL(キルゾーン シャドーフォール)』は、プレイステーション4のローンチタイトルです。2005年にソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)のワールドワイドスタジオの一員になりましたが、それはハードウェアとのつながりをより強めたいとの理由からでした。

浜村 ハードの印象を決めるのは何よりソフトですし、SIEから出るソフトはクオリティー面でもハードルが高くなりますよね。

ハーマン テクニカルチーム、アートチームなど、さまざまなチームがお互いに質問しあって、目標達成に向けて進んでいきます。これがゲリラゲームズのカルチャーです。これはコジマプロダクションとも共通していて、僕が彼らを好きな理由でもあります。我々も彼らも「ノー」とか「これは無理」とは決して言いません。必ず別の方法があると信じて、諦めずに探っていくのです。

●SNSでの広がりは想定外だった?
浜村 話題を『ホライゾン ゼロ・ドーン』に変えまして。完全新作にもかかわらず、2週間でワールドワイド260万本のセールスを達成しました。これはすばらしいですね。

ハーマン リリースした後のユーザーからのフィードバックも評価が高く、開発スタジオとしてうれしいです。ゲリラゲームズが手掛けてきた作品の中でも、これほどの早さで売れたのは初めてですね。

浜村 ゲリラゲームズのこれまでの作風とは明らかに違いますが、逆に“これに似ている”というものもなく、『ホライゾン ゼロ・ドーン』の独自性が評価されたのではないでしょうか。

ハーマン 『キルゾーン』は暗い未来という世界観で、ユーザーは「ここから逃げたい」と思うようなタイトルです。一方『ホライゾン ゼロ・ドーン』では、美しい世界をもっと探検したい、もっと入り込みたいと思ってもらいたかったのです。

浜村 徹底的に世界を作り込んだと。

ハーマン 『ホライゾン ゼロ・ドーン』の肝は対比、ギャップです。メカと大自然、小さな人間と巨大なマシン、そして主人公アーロイの過去と未来。コンセプトの時点では、こんな世界観は“クレイジー”だと思っていました(笑)。

浜村 本当にいままで見たことのない世界です。グラフィックのテイストもフォトリアルではなく、どこか絵画調で。このあたりの表現力もDECIMAエンジンの力なのですか?

ハーマン 表現だけではありません。2キロ先まで見渡せる描画能力、ダイナミックな天候、破壊表現、マシンのディテールなど、あらゆる恩恵があります。DECIMAエンジンのおかげで、グラフィックの高い自由度の中、ストーリー重視のオープンワールドゲームを作ることが可能になったわけです。

浜村 『ホライゾン ゼロ・ドーン』はクリアー後もフォトモードで世界を歩く楽しみがあります。

ハーマン 先ほどもお話しした通り、私たちはディテールにこだわりがあるのですが、『キルゾーン』ではそうして作ったフィールドを一瞬で通り過ぎてしまうんです。それがちょっと残念でした。そのため、『ホライゾン ゼロ・ドーン』では世界のディテールを改めて鑑賞してもらうためにフォトモードを用意しました。

浜村 撮影しながら、プレイ中には気づかないような細部を見てもらおうと。

ハーマン Twitterなどを見ても、我々がPR用に作ったものよりも優れた写真があるくらいで。デザイナーに「キミらよりもぜんぜんイケてるじゃん」とちょっかいを出すこともあったり(笑)。いまはこういう形でユーザーとダイレクトにコミュニケーションが取れるんだと、発見がありましたね。

浜村 Twitterで流行らせよう、みたいな狙いはもとからあったのでしょうか?

ハーマン いえいえ。これほどとは予想していませんでした。最初の目的としては、ディテールを鑑賞してほしいということだけで。きっと、ユーザーの皆さんには、自分が見せたいものを表現するということに創造性を感じてもらえたのではないでしょうか。

浜村 『ホライゾン ゼロ・ドーン』は日本でも評価が高いですが、日本の市場についてはどのような印象をお持ちですか?

ハーマン 先に聞きたいのですが、なぜ『ホライゾン ゼロ・ドーン』は日本でウケたのでしょうか?

浜村 日本は、FPSやTPSなど銃を使うゲームにちょっと抵抗がある人がいます。どちらかというと、アニメやマンガの延長線上にあるファンタジーの世界観に惹かれるんですね。そういう意味で『ホライゾン ゼロ・ドーン』は、世界観や物語が伝わってきたんだと思います。

ハーマン 日本での売上を見ていても、その違いを感じます。『キルゾーン』はSFではありますが、どこか現実味がある世界観。『ホライゾン ゼロ・ドーン』の世界は日本人とマッチしたのかもしれません。あと、日本で非常に人気な『モンスターハンター』シリーズは、大きなインスピレーションになっています。

浜村 それは興味深いですね。

ハーマン 巨大なスケールの敵を小さな体の主人公が倒す。そういうシチュエーションが目を引きやすいのかもしれません。ゲリラゲームズの中にも『モンスターハンター』のファンは多いんです。

浜村 『ホライゾン ゼロ・ドーン』の続編についてはいかがでしょう?

ハーマン まだアナウンスすることはありません。まずは現在の『ホライゾン ゼロ・ドーン』を拡張することからですね。ユーザーからのフィードバックも非常にクリエイティブなので、開発にもいい刺激になっています。

浜村 先ほど『モンスターハンター』の話がありましたが、日本のゲーム市場については、どのような印象でしょうか?

ハーマン 日本のゲームは、海外では見ないようなものが多く、とても驚きます。最近は、日本のゲームに対するリバイバル(再評価)が起こっていますよね。『ペルソナ5』、『仁王』、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』なども非常に高評価でした。小島さんのゲームもそうですが、日本のゲームはグローバルでも通用するものが多いです。

浜村 僕たちもゲリラゲームズの今後のゲームを楽しみにしています。では、最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

ハーマン 『ホライゾン ゼロ・ドーン』が日本で評価され、日本人が楽しめるゲームになったのはうれしいです。ゲリラゲームズは日本の文化が大好きですし、『ホライゾン ゼロ・ドーン』への反応を見ていると日本のユーザーの愛を感じます。今後もゲリラゲームズに期待してください。

※本稿は、週刊ファミ通2017年5月25日号(5月11日発売)に掲載されたものです。

最終更新:5/25(木) 9:02
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