ここから本文です

戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則

5/25(木) 10:38配信

ITmedia ビジネスオンライン

※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

 企業の経営者や経営幹部にはさまざまな素養やスキルが求められるが、とりわけ昨今重要になってきているのが「戦略PR」の発想だ。

 そもそもPRとは何か。

 PRとは、本来はパブリックリレーションズ(Public Relations)の略で、直訳すると「公的な関係性」という意味だ。企業であれば、消費者はもちろん、株主や取引先企業、メディアや専門家といった周辺の利害関係者と良い関係を築き、それを維持する。要は「企業や組織がいかに世の中とうまくやっていくか」。そのための戦略やノウハウの総称が「PR」というわけだ。

 海外のビジネスリーダーは、PRの専門家でなくとも、PRについて深く理解している。PRを戦略的に利用し、ビジネスの成功に結びつけている。ひるがえって、日本はどうかというと、残念ながら世界レベルで見るとまだまだ周回遅れだ。

 日本の多くの企業では、会社や製品をメディアに露出させる行為――「パブリシティ」をPRだと勘違いしている。もし、あなたがPRは広告代理店やPR会社の仕事であり、組織を率いたり、新規事業を開拓しようとしたりしている自分たちには関係のない話だと考えていたら、そこには大きな誤解がある。

 PRとは、いわば「世の中を舞台にした情報戦略」で、究極の目的は「人の行動を変えること」(ビヘイビアチェンジ)にある。今回出版した『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』では、最新の事例を交えながら、世の中を動かすPRの法則を解き明かしている。

 世の中はもとより複雑なものだ。さまざまな力学や利害関係、「大人の事情」が影響し合い、情報量の爆発的な増加や、消費行動の多様化が複雑さに拍車をかける。そんな中、企業が人や社会を動かそうとする試み――マーケティングや企業コミュニケーションは、ますます難しくなっている。

 しかし、あながち悪いことばかりではない。複雑化した世の中では、同時に「可視化」も進んでいる。ソーシャルメディアとスマホの普及によって、私たちの情報消費リテラシーは飛躍的に向上した。企業としては危機管理が重要になった反面、前向きにとらえるなら、これまで以上に世の中の仕組みや社会関心を戦略的に活用できる時代である。

 そしてそれこそが、PRの領域に他ならないのだ。

 ビジネスリーダーとは平たくいえば、行動を起こすべき理由を説明し、人を動かすのが仕事だ。この記事を読んでいる皆さんはおそらく、部下に対し「なぜ、この目標を目指さなくてはいけないのか」「なぜ、この商品が素晴らしいのか」を的確に説明するのも得意だし、組織が向かうべき方向性を分かりやすく示す能力にもたけていることだろう。

 だが、それだけでは十分とは言えない。今や、テレビCMをはじめとするマス広告を打つだけでは人は動かない。世の中の仕組みを理解し、どう寄り添っていくかという発想がないと、どれだけ素晴らしい商品やサービスであっても、うまくいかないのである。つまり、あらゆる分野において、戦略PRの発想が求められているのだ。

 では、ビジネスの現場で戦略PRの発想とはどのように生かされているのか。ここでは、たった数人で顧客を数倍にした会社の話をしよう。

 コンカーは、世界で約4万5000社が採用するクラウド型出張・経費精算システムのリーディングカンパニーだ。国内でも約600社が導入している(2017年1月現在)。今でこそ社員100人ほどを抱える企業に成長したが、日本法人が発足した2011年当時は社長を含め計3人のこぢんまりとした会社だった。加えて、当時は国内クラウド経費精算システムの知名度や市場規模はほぼゼロという有様だ。同社は、日本企業における「経費精算」行動の改革を目的に、戦略的なPRを実施した。

 まず企業の経理担当者などで構成されている日本CFO協会と手を組み、日本企業における経費精算業務に関する調査を実施。回答では、多くの企業で領収書の電子化導入を検討したいということが明らかになった。また、領収書は7年間の原本保管義務を課されている関係上、某大手証券会社では原本の管理だけで年間億単位のコストが発生していることも判明した。

 こうした調査から導き出した経費精算業務にかかる日本全体でのコストを具体的な数字にすると、合計で1兆円(!)にものぼることが分かった。このショッキングな事実とデータを武器に、戦略PRを展開した。

 社会問題として世論を喚起すべく、「規制緩和」「日本企業の生産性向上」をキーワードとして、日本経済新聞をはじめとする主要メディアに、日本企業の経費精算に関する実態情報を提供開始した。

やがてテレビ番組やビジネス誌などで取り上げられるようになり、顧客数は飛躍的に伸びた。スマホで経費精算という新しい働き方と新市場を作りだしたのだ。たった数人で、PRの究極の目的である「ビヘイビアチェンジ」を成し遂げたのである。

 では、コンカーのようにビヘイビアチェンジを実現するにはどうすればいいのだろうか。人を動かしている正体は、広告でもパブリシティでもなく、いわば「関心」である。ビヘイビアチェンジを起こすために必要なのは「社会関心を料理する」という発想だ。ここでは、その具体的なフレームワークについて解説しよう。

 社会関心を料理する基本的なフレームが「関心テーマ」だ。別の言い方をすれば、これはPR対象と世の中との橋渡し(ブリッジング)である。

図1を見てほしい。

(1)商品便益:商品やサービスが提供する機能、既存製品や競合との差別化ポイント

(2)世の中の関心事:世間や第三者が気になっていること、世間の話題

(3)生活者の関心事とメリット:商品やサービスを使う人が抱えている問題、その解決

 これらの要素を結ぶ真ん中に「関心テーマ」がある。ここでの重要なポイントは上記の(1)~(3)が三位一体となるような「テーマ」を見いだすことにある。

 では、さっそく、先ほどのコンカーの事例をあてはめてみよう。

 コンカーのクラウド型出張・経費精算システムの特徴は、出先で領収書をスマホやタブレットで撮影し、クラウドにアップすれば、精算の手間を省けることにある(1)。一方、現場で利用するビジネスパーソンには、経費精算や領収書ののり付けで貴重な時間を奪われたくないという思いがある(2)。さらに、企業はコストをできる限り削減したい(3)。これら3つをつなぐ架け橋となるのが「年間1兆円のムダ」という関心テーマである。

 ここで重要なのは(1)~(3)の3つの要素をつなげ、「間をとる」ことである。間を取ったつもりが、「自分が言いたいこと」に寄りすぎると失敗する。

 例えば、現状のシステムやサービスに対する不満が挙げられる。本文をお読みの皆さんも、すでに経験があるかと思うが、営業担当が「いかに多くの企業が現状のシステムに満足をしていないか」を必死に訴えからといって、即座に「では、新システムを導入しよう」という話にはならないだろう。これでは営業トークの域を出ない。

 もっとも、テーマを広げすぎるのも問題だ。仮にコンカーが「クラウド経費精算システムは紙を無駄遣いしないので、森林伐採問題の解決につながる」というキャンペーンを実施したらどうだろう。話が大きすぎるし、森林伐採問題の解決につながる直接的なソリューションは他にもある。関心テーマは近すぎず、遠すぎない絶妙の間合いが求められる。

 世界はますます複雑化し、ソーシャルメディアには無数の「世論」が飛び交う。テクノロジーは進化を続け、私たち人間がすべき仕事は何かも問われている。今後ますます、人を巻き込み動かすことは難しくなっていくだろう。こうした中で、「何かを成し遂げたい」と考える人々の助けとなるのが戦略PRの発想だ。

 社会常識に挑み、「買う理由」をつくる。「いい○○」の社会常識を変える。ぜひ、こうした戦略PRの発想を活用し、ビジネスを成功に導いてほしい。

(本田哲也)

(ITmedia エグゼクティブ)