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ムーアの法則は健在! 10nmに突入したGalaxy搭載プロセッサの変遷

5/26(金) 14:00配信

EE Times Japan

■「Galaxy S8+」を分解、解析

 2017年4月、韓国Samsung Electronicsはスマートフォンの新製品として同社の2017年フラグシップモデルと位置付ける「Galaxy S8」および「Galaxy S8+」を全世界一斉で発売した。筆者が代表を務めるテカナリエでは発売と同時にGalaxy S8+を入手して分解、解析調査を行った。

【「図2:「Galasy S8+」のメイン・プロセッサは5チップ、1パッケージの様子」などその他の図表はこちらから】

 Galaxy S8/S8+はそのネーミングの通り、Galaxy Sシリーズの8機種目である。Galaxy Sシリーズの初代は2010年6月に発売され、まさにスマートフォンブームの拡大を担った代表的製品の1つになった。初代は、シングルCPUコアの「ARM Cortex-A8」を搭載した45nmプロセッサ「S5PC111」を搭載した。3代目のGalaxy S3からは「Exynos」というブランド名を持ったチップが毎モデルに適用されている。またその後の進化では、CPUコア数やGPUコア数がプロセス進化に応じて増えている。

■Tick Tockモデル ―― 搭載プロセッサの変遷

 Galaxy Sシリーズの最近4世代に搭載されたプロセッサは、以下のような進化を遂げている。

 Samsungは半導体チップを製造するプロセステクノロジーに関しても、いわゆる“Tick Tockモデル”を用いて進化させてきた。Galaxy S4とGalaxy S5は28nmプロセスを、Galaxy S6とGalaxy S7は14nmプロセスを採用している。プロセス世代を進めた年のモデル(Galaxy S4/S6)では、ほとんどアーキテクチャ変更を行わずプロセス世代だけの変更にとどめ、翌年のモデル(Galaxy S5/S7)で大きなアーキテクチャ変更を行っている。

 14nmの最初のモデル(=Galaxy S6)ではARMのCPUコアをそのまま活用したが、翌年のモデル(=Galaxy S7)では自前のCPUコアM1(マングース1)を活用し、さらにLTEなどのモデム通信機能をチップに取り込んだ。通信機能とプロセッサを1チップ化することでQualcommの「Snapdragon」やMediaTekの「Helio」、HiSiliconの「Kirin」といった競合プラットフォームと同じ構成のチップセットをSamsungも持つに至った。

■Galaxy S8+の「Exynos8895」を詳細に分析

 図1は、最新のGalaxy S8+の外観および分解、基板取り出しと搭載プロセッサ「Exynos8895」のパッケージである。

 このパッケージ内にはプロセッサだけが収められているわけではなく、LPDDR4メモリチップも内部に実装されている。1つのパッケージに多数のチップを実装することをSIP(Silicon In Package)と言い、多くのモバイル・プロセッサが用いる手法である。ただし1つのパッケージに複数チップを収めるSIPだけでなく、プロセッサチップのパッケージにメモリチップのパッケージを重ね置きするPOP(Package On Package)も活用され、現在多くはPOP実装が用いられている。SamsungはGalaxy S3からS7までPOPを用いてきた。ちなみにAppleの2016年モデル「iPhone 7」は、TSMCの開発したInFO(Integrated Fan-Out WLP)という新しいパッケージ技術を用い、パッケージ内でプロセッサの裏面にメモリを置くという実装を実現した。2016年時点ではSamsungらはAppleに比べて先端実装技術適用の遅れが指摘されていた。

■1年でApple、TSMCをキャッチアップ

 図2は、Galaxy S8+に活用されるプロセッサとDDRの混載パッケージを開封してチップを取り出し、顕微鏡で撮影した写真(型名部分のみ)と、分解によって割り出したチップ配置状況を図解したものである。なお、チップ配置状況は、取り出したパッケージ内のガラスエポキシ(ガラエポ)から割り出した。

 こうした分析から、AppleがiPhone 7で使ったInFO技術にほぼ等しい技術が、Exynos8895でも使われていることが明確になった。1年前はTSMCしか実現できないと言われたInFOだが、既にSamsungの製品にも同じように使われているわけだ。さらにガラエポには切り込み形状もあり、パッケージ内には受動素子(コンデンサー)もメモリチップとの間に配置されている。図2の赤い部分が受動素子にあたる。

■Galaxy S8+の搭載RAM容量は8Gバイト!?

 Galaxy S8+に搭載されるLPDDR4の容量は、公式の仕様では4Gバイトと発表されているが、ネット上では8Gバイトとの情報も存在している。実際のところはどうなのだろうか。

 図3は左がGalaxy S7でのLPDDR4チップだ。

 1Gバイトのメモリチップが4枚使われているので、4Gバイトの構成であった。しかしGalaxy S8+は従来のLPDDR4に比べて1.5倍の面積を持つ新DDRチップが4枚搭載されている。新DDRチップ(LPDDR4x)は、S7世代のLPDDR4チップとは同じプロセス技術ではなく、より微細なプロセスで製造されたメモリであることが確認できた。すなわちS8+に搭載されたメモリ容量はS7世代に比べ2倍の2Gバイトチップ×4枚=8Gバイトが搭載されているのだ。これは大きな変化が成されたと言える。

■世界初の量産10nmプロセッサの実力

 図4は、プロセッサのチップ開封を行い内部の構造が観察できるように配線層を剥離して観察した写真に一部着色を行ったものである。

 Exynos8895は、世界初の量産10nmプロセッサの1つだ(同時期にQualcommのSnapdragon835など他の10nmチップも市販化されている)。図4では、前世代の14nmプロセスを用いたExynos8890との比較も行った。14nmのExynos8890では、チップ上にMP12(12コア)搭載であったGPUが、10nmのExynos8895ではMP20(20コア)を搭載できている。いわゆるムーアの法則は健在である。

 GPUの回路規模としては1.66倍になっている。さらにCPU部はほぼ面積が3分の2以下になっていることが確認できた。14nmプロセスから10nmプロセスになることで、機能の大幅な向上が実現できていることに加え、低電圧化が進み、電圧の2乗の差分が電力削減として表れている。すなわち性能があがり、電力が減るというトレードオフのない、進化を得られるものになっている!!

■進化を傍観するしかない状況……

 2017年は多くのメーカーが10nm製品を市場に投入する。HiSiliconの「Kirin 970」、MediaTekの「Helio X30」などだ。

 さらにはIntelの10nm CPUやNVIDIAの次世代GPUなども出てくるだろう。まだまだ半導体プロセス技術の進化はムーアの法則通りに「半導体の機能向上」に寄与しているのだ。ここで書き加えておきたい問題は、こうした最先端のチップが日本から生まれていないことだ。日本メーカーから10nmが出てこないまま、2017年は過ぎてしまう……のかもしれない。

 昨年、2016年夏の話になるが、米国の大学関係者と話す機会があった。米国のロジック系研究で大学が扱うチップは10nm世代チップがほとんどだと聞いた。米国で半導体を学ぶ学生は10nm世代から半導体ライフが始まる――。一方10nmにたどり着けないベテランの多い日本。最先端プロセスには頼らない半導体の進化も確かに多い。しかしロジック系、特にAIなどのような並列演算器の領域では、より多くの演算器を搭載できるがゆえに最先端プロセスの方が優位であることは絶対だ。ソフトウェアエンジニアの力も引き出しやすいチップは、先端プロセスを用いる方が作りやすい。今、われわれ日本は海外の進化を傍観するしかない状況にある――。

最終更新:5/26(金) 14:00
EE Times Japan