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スキャンダルのことしか見ない人は無視して、「ゲスの極み乙女。」について音楽面のことだけで書きたい

5/28(日) 18:19配信

M-ON!Press(エムオンプレス)

■バンド、ミュージシャンの評価はただ音楽のみを対象にする

5月10日に3rdアルバム『達磨林檎』をリリース。同日にZepp Tokyoで約5ヵ月ぶりとなるリリース記念ライブを行い、本格的に活動を再開したゲスの極み乙女。。

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リリースの3日前にはボーカルの川谷絵音がフジテレビ系『ワイドなショー』に出演し、例の不倫騒動の際に記者会見を行わなかった理由を語った(「ミュージシャンなので、テレビで何かを言うことに違和感を覚えていた」「周りの人に謝っているのに、会見を開くことで、あえて言うのは違うのではないか」)ことも話題を集めたが、“不倫”“未成年だった女性タレントとの飲酒”による活動休止に対する批判、川谷自身に対する誹謗中傷も沈静化したかのように見える。

ただ、これらの騒動はそもそも、ゲスの極み乙女。もしくは川谷絵音の音楽性とはなんの関係もない。バンド、ミュージシャンの評価とはただ音楽のみを対象にするべきで、法に触れない限り、その行為や行動と音楽そのものは区別して考えるべきなのだ。

日本の音楽シーンを対象にした記事を書いているライターとして、また、音楽を愛するひととりのリスナーとして、浮気だ不倫だと騒ぎ立たて、アーティストの活動を妨げようとする風潮にはほとほと嫌気がさしている。つまり筆者は“ゲスの極み乙女。の音楽には非常に興味があるが、川谷のプライベートはどうでもいい。だってべつに友達でも仲間でもスタッフでもないから”と考えていて(そして、音楽ファンの中には、筆者と同じ考えの人もいると信じている)、今、このバンドについて語るべきは、アルバム『達磨林檎』のことなのだと思う。


■ニューアルバム『達磨林檎』を聴く

前振りが長くなってしまったが、アルバム『達磨林檎』は極めて優れた音楽作品であると断言したい。まず印象に残るのは、アルバム全体のトータルクオリティコントロールの高さ。前作『両成敗』(2016年1月)以来、約1年4ヵ月ぶりとなる本作にシングル曲は収録されておらず、13曲の新曲によって構成されている。そのせいか本作は、全体を通して統一感のある作品に仕上がっているのだ。

このバンドの音楽性の軸となる“ジャズ、プログレ、クラシックなどの要素を取り入れたアンサンブル”はこれまで以上に研ぎ澄まされ、徹底的に無駄な音を削ることで抑制の効いたバンドサウンドを実現。さらに、ほな・いこか(ds)、ちゃんMARI(key)のボーカルを積極的に取り入れることで、シックにして華やかな雰囲気を描き出すことに成功している。

筆者が初めて彼らに取材したとき(2013年/2ndミニアルバム『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』リリース時)に川谷は「単純な4つ打ちばかりが流行っているバンドシーンとはまったく違うところにいきたい」という趣旨のコメントをしていたが、そのビジョンは本作『達磨林檎』によって完全に達成されたと言っていいだろう。

また、アレンジの幅も広がっている。シンプルなギターフレーズをループさせながら、ロマンティックな雰囲気のメロディを響かせる「id2」、ミニマルテクノ的なアプローチとポストパンク系のギターサウンドを融合させた「心地艶やかに」など、様々な音楽要素を自由に取り込んでいるのだ。

なかでも印象的なのが、ネオソウル、ファンクへの接近。それを象徴しているのは、クラシカルなピアノの旋律から始まり、ソウルミュージックの濃度を高めていく「Dancer in the Dancer」、そして、休日課長(b)のスラップベースと川谷のギターカッティングを中心に強烈なファンクネスを生み出す「ゲスストーリー」。オーセンティックな黒人音楽を現代的なポップミュージックへと昇華したこの2曲は、ザ・チェインスモーカーズ、ザ・ウィークエンド、アラバマシェイクスといった、ここ数年の世界の音楽シーンの潮流とも合致している。

新機軸と言ってもいいこれらの楽曲から伝わってくるのは、メンバーの卓越した演奏力だ。ジャズ、クラシック、ファンク、ソウル、ヒップホップ、ギターロックといった多彩な音楽性に対応しながら、緊張感と解放感をバランスよく共存させたバンドサウンドへと繋げるメンバーの演奏力は、ここにきてさらに向上している。

現在のシーンにおいて、純粋に演奏のクオリティだけで聴く者を魅了できるバンドは本当に稀だ(ちなみに個人的にはゲスの極み乙女。、パスピエ、UNISON SQUARE GARDENが“演奏がうまいバンド”のトップ3です)。

ゲスの極み乙女。は8月から全国ワンマンツアー「丸三角ゲス」を開催(ファイナル公演は9月3日の東京・日比谷野外音楽堂)。高度な音楽性と演奏センス、真のオリジナリティを備えたゲスの極み乙女。の復帰は、日本のバンドシーンに新たな刺激を与えるはず。

ネット上には“川谷絵音が復帰できたワケ”“金銭苦”みたいなどうでもいいニュースが相変わらず掲載されていたりするが──「影ソング」の歌詞にある通り、“本当に品がないな君たちは”だよ、ホントに──批判、称賛を含め、アーティストの評価の対象は音楽そのものであるべきだとあらためて強調しておきたいと思う。

TEXT BY 森 朋之