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総務省のガイドラインもクリア 半永続割り引き「docomo with」の狙いを読み解く

5/28(日) 6:25配信

ITmedia Mobile

 夏商戦の布陣として、スマートフォン7機種、タブレット1機種をそろえたドコモ。未来感のあるデザインで前評判の高い「Galaxy S8」「Galaxy S8+」に加え、ハイエンドモデルではシャープの「AQUOS R」も用意。ユーザーからの支持が厚いXperiaは、3キャリア共通の「Xperia XZs」だけでなく、最上位モデルで4Kディスプレイを搭載した「Xperia XZ Premium」を取りそろえるなど、他社との差別化を意識したラインアップになっている。タブレットでは新技術としてeSIMを採用した「dtab Compact」を用意した。

【サムスンがドコモのために開発した「Galaxy Feel】

 一方で、フラグシップモデル以上に大きな話題を呼んだのが、2機種のミッドレンジモデルだ。1つがグローバルメーカーのサムスン電子がドコモの専用モデルとして開発した「Galaxy Feel」、もう1つが耐衝撃性を備える「arrows Be」となる。この2機種は、いちスマートフォンとして発売されるだけでなく、料金プランまで合わせて作り込まれている。「docomo with」と呼ばれるプランが、それだ。

●月々サポートと違い、半永続の“割り引き”を提供

 docomo withは、Galaxy Feelやarrows Beを購入すると受けられる“割り引き”で、その金額は1500円になる。対象となる料金プランは、カケホーダイ、カケホーダイライトに加え、4月の決算に合わせて発表されたシンプルプランも対象となる。データパックも必須だが、シェアプランの子回線でも利用可能。あくまで2回線目以降の話になるが、シンプルプラン(月額900円)を選び、シェアパックの子回線でdocomo withを適用させれば、シェアオプションの月額500円+ISPの月額300円を払っても、1500円を引けば、料金はわずか280円になる。

 代わりに端末は定価での購入が必要となる。とはいえ、割賦は通常と同様に利用できる上に、対象となるGalaxy Feelやarrows Beは、ミッドレンジのため、価格も抑えられている。前者は一括購入時の価格が3万6288円、後者が2万8512円(いずれも税込)と、8~10万円に迫るハイエンドモデルよりも負担は軽い。もともとのスペックがハイエンドより低いことに加え、ドコモ側も「粗利は他の端末に比べ、少し小さくしている」(ドコモの吉澤和弘社長)と意図的に価格を下げたようだ。

 ご存じのように、ドコモは通常、端末を購入すると、その金額とある程度相殺する形で、毎月の利用料に割り引きを受けられる。これを「月々サポート」と呼ぶ。この月々サポートとdocomo withとの大きな違いは、適用期間にある。月々サポートが通常24回なのに対し、docomo withは「端末をずっと使っていただける方がメリットを享受してもらえる」(吉澤氏)もので、機種変更するまで割り引きは継続する。つまり、Galaxy Feelなりarrows Beなりを3年使えば3年間、4年使えば4年間割り引きの対象になるということだ。

 これまでと同様、料金プランへの割り引き分を端末割り引きと見なし、実質価格を計算してみると、Galaxy Feelは約2年間、arrows Beは1年半でほぼ「実質0円」になる。ただし、割り引きはその後も継続するため、使えば使うほど、実質価格のマイナス分は拡大。仮にそれぞれ3年ずつ使ったと仮定すると、Galaxy Feelは実質マイナス1万7712円、arrows Beはマイナス2万5488円になり、ユーザーにとってのお得度は高い。

 大手キャリアの端末は、月々サポートのような端末購入補助が適用されるため、ハイエンドモデルとミッドレンジモデルの価格差がつきづらかった。結果として、売れ筋はハイエンドモデルに偏りがちだったが、docomo withのような形であれば、あえてミッドレンジを選ぶ意義も出てくるだろう。ドコモは2016年、冬春モデルとして端末購入サポートを使い、一括648円を実現した「MONO」を投入したが、docomo withは、その事実上の後継と考えてよさそうだ。吉澤氏も、今後は「docomo withの方に寄せていきたいというのが今の思い」と語っている。

●端末限定料金プランという位置付けでガイドラインをクリア

 実質価格がマイナスとなると、総務省の「モバイルサービスの提供条件・端末に関するガイドライン」をどうクリアしたのかは、気になるポイントだ。1月に改正された同ガイドラインには、「事業者は、スマートフォンを購入する利用者には、端末を購入しない利用者との間で著しい不公平を生じないよう、端末の調達費用および関連下取り価格に照らし、合理的な額の負担を求めるのが適当である」と記載されている。

 このガイドラインの文言をストレートに解釈すると、合理的な額の負担どころか、実質価格がマイナスになるdocomo withには、総務省からすぐに待ったがかかるようにも思えてくる。ところがドコモは「docomo withは割り引きではなく、料金プランである」という理屈で、ガイドラインをクリアした。吉澤氏も次のように力説する。

 「端末購入補助のルールがあるが、基本的に、docomo withは期限を定めていない。ガイドラインに照らして問題ないということは、(総務省も)確認している。『1500円割り引き』と言っているが、実際にはタリフだ」

 本稿でも初出時に“割り引き”とカッコ書きで記載したのは、そのため。期限を定めておらず、先に試算したように利用期間に応じて対象端末の価格が無限に変わる可能性があるため、端末購入補助に当たらないというわけだ。端末の購入をサポートする1500円の割り引きではなく、Galaxy Feelやarrows Beを購入した人専用の料金プランと考えれば、理解しやすいだろう。

 こうした建前を守るため、docomo withを契約したSIMカードを、他の端末に勝手に差し替えても、割り引きは継続するという。中古販売店で過去のドコモ端末を買ってきたり、家電量販店でSIMロックフリー端末を買ってきたりして、Galaxy Feelやarrows Beが契約端末として登録されているSIMカードを挿しても、1500円の割り引きは受け続けることができる。永続的に割り引きを受けたければ、ドコモで非対象端末への機種変更をしなければいいというわけだ(端末購入補助を適用せず定価で購入すれば、機種変更をしてもdocomo withは継続する)。

 もちろん、このようなある種「裏技」といえる使い方を推奨することが、docomo withの主な目的ではない。吉澤氏は主なターゲット層を「基本機能をメインに使ったり、フィーチャーフォンを長く使って、乗り換えたスマートフォンも長く使ったりする層だと思う」と語っている。いわばライトユーザー向けの料金プランで、対象をミッドレンジモデルに絞ったのも、端末にお金をかけないユーザーが気軽に買える価格を設定するためだ。

 一方、Galaxy Feelやarrows Beは、あくまで「第1弾」という位置付け。今後については「これで終わりではなく、状況を見て判断していきたい」(吉澤氏)といい、ユーザーからの要望次第では、ハイエンド端末にも拡大する可能性があることに含みを持たせた。

●docomo withを投入した、3つの狙い

 ドコモが、docomo withを導入した狙いは、主に3つありそうだ。

 1つ目が、長期利用ユーザーの満足度を上げること。これは、結果として、ポートアウトの抑止や解約率の低下につながる。先に述べたように、月々サポートは基本的に24回で終わってしまうため、1台の端末を長く使い続けるユーザーからは「不公平」だと不満の声が挙がっていたという。吉澤氏は次のように語る。

 「どちらかというと、今いるユーザー、長くドコモを使っているユーザーに、この機種を使っていただき、ずっと長くドコモにいてもらうということが基本の考えになる」

 現状では、ガイドラインによって過度なMNPの優遇が禁止されており、大手キャリア間の流動性は以前より低くなっている。残った流出先が、MVNOや、UQ mobile・Y!mobileといったサブブランドだ。そのMVNOはほとんどがドコモ回線を利用しており、auやソフトバンクからユーザーを獲得すれば、ドコモにとってはプラスになる。つまり、他社のサブブランドへの流出を抑えれば、ドコモは契約者数も増え、ARPUも維持できるというわけだ。

 吉澤氏はそれが主目的ではないと否定しつつも、「Y!mobileやUQ mobileにポートアウトしている数は当然ある。(そこへの)ポートアウトを防ぐ意味にもつながる」と語る。自身でサブブランドを導入するのではなく、フィーチャーフォンからの乗り換えキャンペーンやシンプルプランの導入によって、他社のサブブランドへの流出を減らしていくというのが、ドコモの基本的な戦略。docomo withも、この流れの中にある料金プランと見てよさそうだ。

 2つ目の狙いが、総務省の思惑に応えるというもの。同じ端末を長く使うユーザーへの優遇は、総務省のタスクフォースが望んでいたことでもある。実際、ガイドラインを策定するためのタスクフォースでは、「頻繁に端末を買い替えるユーザーだけが得をするのは、おかしいのではないか」という声が挙がっていた。ドコモは、このころから、docomo withのような形の料金プランの検討を、水面下で進めていたようだ。

 また、会見では直接的には語られなかったが、ミッドレンジモデルの販売促進という3つ目の狙いもありそうだ。吉澤氏は、以前筆者のインタビューに答える形で、「ミッドレンジモデルには、もう少し力を入れていきたい」と語っていた。docomo withが、こうした意思を体現した料金プランであることは、間違いないだろう。これがMONOのような端末購入サポートだと、割り引きが一括で適用され、財務的な負担が重くなる。docomo withのように継続して割り引きをすれば、割り引きのコストは数年に渡って分散できる。

 ミッドレンジであれば、ハイエンドモデルに比べ、割り引きが少なくて済むのも、ドコモにとってのメリットといえるだろう。実際、夏モデルの実質価格を見ると、Galaxy S8+やXperia XZ Premiumといったプレミアムモデルは、一括価格が9~11万円台と高い半面、実質価格は前者が6万円台半ば、後者が4万円台半ばに抑えられている。裏を返せば、ドコモが2年間5万円程度、販促のためにコストを使っていることになる。

 そのぶん、端末の販売で利益を出せればいいが、キャリアは仕入れ値に大きな利益を乗せていない。特にiPhoneは、総務省のフォローアップ会合で示されたように、調達価格が7万円程度と薄利で販売している。売れば売るほど、割り引きのためのコストが重くのしかかる構造になっているのだ。

 こうした事情を考えると、docomo withの延長線上に、端末と料金を完全に分離したプランがあっても不思議ではない。端末で大きな利益が出ないのであれば、ユーザーが持ち込んだ端末で契約した際に割り引きを行っても財務的なダメージは小さい。むしろ、割り引きが1500円程度で済めば、キャリアにとってはコストの削減にもつながる。

 今後の行方はGalaxy Feelやarrows Beの売れ行きにも左右されそうだが、少なくとも、ドコモが、docomo withで分離プランへの第一歩を踏み出したことは確かだ。

最終更新:5/28(日) 6:25
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