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[インタビュー]「12・28合意」そのまま進めるのは、韓日両国に逆効果

5/28(日) 11:21配信

ハンギョレ新聞

徐京植東京経済大教授

中国の台頭や周辺国の成長に伴う不安感 
過去の歴史に対する忘却と「反日」への被害意識として表出 
韓国憲法裁の決定を「社会が未成熟であるため」と見なす 
「日本社会がここまで堕落したのは初めて」 
 
2020年までに改憲完了を公言した安倍政権 
「順調ではないかもしれないが不可能でもない」 
「韓国の成果は全世界に普遍性を持つ」 
「文在寅政権の南北対話への意志は希望的」 
「本当によかった。一筋の希望の光」

 文在寅(ムン・ジェイン)候補の圧勝に終わった韓国の大統領選挙の結果を、徐京植(ソ・ギョンシク)東京経済大教授(66)は歓迎した。大統領選から2日後の今月11日、金浦(キムポ)発東京行きの全日空(ANA)航空機内のNHKニュースは、韓国大統領選挙の関連情報をトップ記事で伝えながら、文在寅政権に「反日」政権という風変わりな字幕を付けた。 徐教授は、右派の安倍晋三政権が高い支持率を維持している日本、自分が「災い」だと言っていたドナルド・トランプ政権の登場、そして彼らと軋轢のある習近平の中国、THAAD(高高度防衛ミサイル)の強行配備でさらにギクシャクしている韓中、南北関係の中で、「韓国の保守右派が再執権したら、どれほど恐ろしい状況が起きただろう」とし、「本当に良かった」と話した。

 徐教授も、在外同胞資格で今回の大統領選挙で一票を投じた。「私が投票したのは2012年の韓国大統領選挙の時だった。生まれて初めてだった。韓国の民主化のおかげだ。私たち(在日同胞・在日)はこの60年以上の間、政治的権利を剥奪されたまま生きてきた。韓国では近年定住外国人にも地方選挙の参政権を与えているが、日本はいまだ変わっていない。1990年代末の小渕恵三政権の時に在日に参政権を与える方向で金大中(キム・デジュン)政権とも協議しており、鳩山由紀夫と菅直人の民主党政権時代にも議論はあったが、安倍政権以降はそのような話自体が消えてしまった」

■東京の神田書店街を占領した「嫌韓論」

 長野県茅野市近くの休養地。2000年から東京経済大学で「人権とマイノリティー」の講義を担当してきた徐教授は、最近は東京から車で3時間ぐらいのこの場所で週末を過ごしている。毎週火・木・土の3日間、一コマ90分の講義5つに加え3年前から芸術論の講義も任されており、執筆などにも追われてきた彼は最近、過労による肩の痛みに悩まされている。

 「民主化以降、韓国が在日に小さいながらも門戸を開いていたのが、李明博(イ・ミョンバク)・朴槿恵(パク・クネ)政権がそれをまた閉じてしまった。文在寅政権が再び開いてほしい」。徐教授自身は韓国国籍を取得したが、多数の在日朝鮮籍同胞たちは今、事実上韓国への出入りを拒否されている。朝鮮籍は北朝鮮国籍ではない。

 「文在寅政府が南北の緊張を緩和し、金大中・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の政策を継承してほしい。そうしてこそ、私の後輩世代の在日が道を見いだすことができる。韓国が変わると、在日朝鮮人社会も直接的な影響を受ける。私たちの暮らしは韓国がどの方向に向いていくのかに大きく左右される。金大中・盧武鉉政権が過去の歴史清算や女性の地位向上、環境政策、弱者への配慮、国家保安法廃止(改訂)などを推進したが、李明博・朴槿恵政権の登場とともに未完に終わった」。徐教授は「国定教科書を廃止したのも本当によかった」と喜んだ。

 「安倍政権やその政策に対する批判は日本の国家や国民に対する批判とは明らかに異なるのに、なぜそれが反日なのか?」。徐教授は、巨大中国の台頭と周辺国の成長などで日本の従来の存在感が揺らいだことで、不安感が高まり、過去の歴史を忘れて弱者・被害者感情に駆られていることが、「反日」という言葉の流行と密接な関連があると語った。徐教授はまた、今の日本の右派政権が自民党長期政権体制を一時崩した1990年代序盤よりもさらに腐敗したという指摘が多いとし、森友学園をめぐる不正のように、過去には内閣総辞職につながったはずの「国政壟断の不正」があるにもかかわらず、真面に批判するどころか、成果が疑わしいアベノミクスと安倍政権の人気がむしろ高まっている日本の現実について、「不可思議だ」と話した。「反日という言葉一つで批判者たちを黙らせると共に、問題の原因を外部のせいにして内部の団結を図っている。穏健な批判すら『私は反日主義者ではないです』と前置きをしなければならないほど、全体主義的機運が蔓延している。世界が全体主義・ファシズムに立ち向かい勝利してから70年が過ぎたのに、その思想的遺産はどこに消えてしまったのか」

 5月13日付の朝日新聞朝刊1面下段の広告欄には「話題沸騰、重版大発刊!『本当は怖い韓国の歴史』」と書かれた本の広告が掲載された。1面の下5段広告欄を本の広告で満たす長い伝統を守ってきた日本の知的・文化的自負心の指標だった朝日新聞さえも「日本人は理解できない、嫉妬と不満に満ちた韓国人の精神性、相次ぐ大統領と巨大財閥の不正のその原因は韓国が歩んできた歴史の中にある」という、人種主義的偏見で武装した刺激的なフレーズをそのまま掲載した。5月14日付の朝日新聞朝刊3面下段の『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社)という5段広告はさらに露骨だ。「公害大国を生んだ中国人の発想、韓国人はなぜノーベル賞を受賞できないのか、世界が非難し始めた中国と韓国」などの偏見と「親日国家を作った日本人の勤勉さ、日本人の道徳規範は武士道」などの幼稚な優越意識を対比させ、「米国人は中国を取引の相手だと思います。しかし、日本人は友人です」という低級なフレーズまで付け加えた。本の著者はケント・ギルバートという米国人。このおかしな本が「11週連続重版、28万部を突破、紀伊國屋書店のベストセラー、日本国内部門1位、書籍組合新書部門ランキング1位」を記録しているという。

 「東京の神田書店街で最も大きく権威のある書店である三省堂ビルに、お茶の水方向に向けられた大型広告板があるが、日本の本広告の象徴であるだけでなく、文化的象徴でもあった。数年前からその広告板に嫌韓論本が登場し始め、南京大虐殺を否定する本の広告も掲げられた。今、陳列台に平積みに並べる、最も良く売れる本の多くがそのような部類の本だ。歴史的産物である韓国の特性や固有性を人種的特性と戯画化・固定化し、蔑視・侮辱する低級な本だが、北朝鮮に関する本はもとより韓国に関する本の多くがその類の本だ。あんな本がよく売れるということだ。日本で生まれ、60年以上暮らしてきた私も、日本社会がこれほどまでに低落したのは初めて見る。日本出版界内部でも嘆くほどだ」

■「安倍体制は過去回帰欲望の産物」

 日本最大部数を誇る保守系日刊紙の読売新聞は、韓国憲法裁判所の大統領罷免の判決を民主主義の勝利ではなく、ポピュリズム的迎合主義、社会の未成熟のためと分析した。百田尚樹という保守系の作家は、北朝鮮のミサイル発射実験直後、家族が犠牲になった場合、日本国内の敵を殲滅すると公言しており、その書き込みには「いいね」が殺到した。戦争と神風特攻隊を美化したとして議論の中でも500万部近く売れ、漫画・映画としても製作された小説『永遠のゼロ』を書いた百田氏は安倍首相の側近で、文在寅政権を「反日」と規定したNHKの運営委員を歴任した。南京大虐殺は歴史的に根拠のないものと主張する百田氏を名門一橋大学学生会が招待して発言権を与えながら、言論・表現の自由を云々したと、徐教授は嘆いた。「朝鮮人を殺せ」、「朝鮮人女は強姦してもよい」と公言していた右翼在特会(在日特権を許さない市民の会)の規制法が昨年、国会を通過したが、処罰の規定がなく、彼らの横暴は減っていないという。

 テロなど重大犯罪を事前に計画するだけでも処罰するテロ対策法案(組織犯罪処罰法改正案、共謀罪法案)も、衆議院を通過した。日帝強制占領期(日本の植民地時代)に独立運動家たちを弾圧する道具だった治安維持法を彷彿とさせる法が施行されれば、カメラを持って観光地を通るだけで逮捕される可能性もあるという。2020年の東京オリンピックまでに改憲作業を完了すると公言した安倍政権の目標達成が「すんなり行かないかもしれないが、不可能でもない」と、今年定年を迎える徐教授は見通した。

 徐教授は、慰安婦問題を最終的・不可逆的に解決したという2015年の12・28合意をそのまま進めるのは「長期的に両国共に逆効果をもたらすだろう」と評価した。「被害当事者たちの話を聞かずに行った“合意”は、当事者たちが満足するかどうかにかかわらず、何が正しいか正しくないか、過去日本が犯した過ちの真相をきちんと究明して後世のための教訓にしない限り、最終的解決にはなりえない。完璧ではなくても、ドイツのように基本法を作ってナチズムとの断絶を宣言し、戦犯者らを自発的に処罰すると共に、被害者に謝罪して補償する処置を取らなければならない。それが周辺国と被害者たちに対する最小限の礼儀であり、基本姿勢だ」。ドイツはハーケンクロイツをなくし、イタリアも国旗を変えた。それにもかかわらず、日本は国旗(日の丸)と国歌(君が代)、天皇制をそのまま維持しており、最近は若者たちが日本海軍機の旭日旗をスポーツ競技場に持ってきて、応援の道具として使う退行が続いている。右翼は、日本の戦後高度成長がすべて旧体制の優秀性のおかげだと信じているようで、過去への回帰を追求している。「安倍体制はそのような欲望の産物」だと、徐教授は指摘した。

 「20世紀にポーランド、リトアニア、ウクライナなどロシアとドイツの間の中間地帯だけで1500万人の民間人が殺戮された。 伝統と多民族が調和した平和共存を掲げた社会主義的理想はナチスとスターリン体制の暴圧のためにあまりにも簡単に崩壊した。冷戦崩壊後、新自由主義の強風の中で基礎年金体制が破綻し、オリガーキーなど政商の輩が横暴を働く中、自殺率が跳ね上がって多数の大衆の生活は凄惨になった。チェルノブイリ原発事故はそんな希望もないまっ暗闇の時代の象徴だ」。昨年、徐教授が会ったベラルーシのノーベル賞受賞作家のスヴェトラーナ・アレクサンドロヴナ・アレクシエーヴィッチは、その血まみれの日々を直視し、特に女性などマイノリティたちの苦難を如実に描いた。

 「それは東アジアに生きる我々の歴史でもあった。19世紀末から経験してきた韓国の歴史がこうだった。欧州の中間地帯のように朝鮮半島を含む東アジア地域も無数の民衆が殺戮されて追放された大陸と海洋勢力の間の中間地帯だ」

■「韓国人は激しく闘い素晴らしいものを成し遂げた」
 徐教授は、安倍政権の不吉な右派寄りの行動と米国トランプ右派政権の登場、中国との軋轢、南北対決の拡大などを目撃し、その悲劇が再び繰り返されるかもしれないという予感を持つようになったようだ。「辺見庸の『1937(イクミナ)』からも分かるように、その悲劇の加害者だった日本は今、過去の罪業を知りながらも知らないふりしている。悪意的故意ではないかもしれないが、すべてのことを流れに任せる日本的風土の中で、『戦争ができる日本』に突き進んでいる現実に何の抵抗もない。敗戦を経験しても日本は変わっていない」。安倍政権とも密接にかかわっている日本の右翼の総本山というべき『日本会議』が過去への回帰の先頭に立っている。そうした風土に警鐘を鳴らした少数の知識人さえも1960年代を最後にほとんど姿を消したという。「今そんな事を言うと、頭のおかしい人にされてしまう。日本は、明治時代以来、今まで一度も根本的に国家路線を修正しことがない。いつでも政権交代が起こり得る社会とはまったく異なる世界だ。支配勢力の入れ替えが不可能な社会で変化を嫌う強固な官僚体制と肥大化した既得権層に抵抗することは至難の業だ」

 「文在寅の共に民主党が政権を取った韓国が一筋の希望の光である理由がそこにある。韓国人たちは、世の中が驚くほど激しく闘っており、素晴らしいものを自ら成し遂げた。その成果は全世界レベルの普遍性を持っていることを自覚すべきだ。朝鮮民族の歴史的位置も独特だ。 韓国は大国を代弁する列強の亜流にも、植民地支配などに蹂躙された東西の中間地帯をはじめとするアジア・アフリカ・ラテンアメリカ(第3世界)の代弁者にもなれる。それだけの力も持っている」

 徐教授は韓国が東アジアで最も開かれた国になることを願った。「世界で様々な人と物資が集まり、それを土台に世界に新しいメッセージを発信する国になってほしい。朝鮮半島安保のためにもそれが有利だ。まず、南北関係を改善しなければならない。文在寅政権の南北対話への意志から希望を見いだした。統一も必ず一つの理念と体制に統合して大国を作る道だけではない。マイノリティーと多様性を殺してしまう反人権的、非人間的な状況を解消することが重要だ。そうしなければいつでも動員され、利用されるはめになる。私たちはもっと賢くなければならない。このディアスポラ的状況を越えるために」

 徐教授は26~28日、仁川(インチョン)で開かれるディアスポラ映画祭に出席する。

東京/ハン・スンドン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
http://www.hani.co.kr/arti/international/japan/796479.html 訳H.J(5587字)

最終更新:5/28(日) 18:23
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