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なぜ、鉄道の「初乗り運賃」は割高なのか?

5/29(月) 17:10配信

ZUU online

読者のみなさんは鉄道は好きですか?
私の周りには「鉄道マニア」が意外と多いです。私自身は鉄道に詳しくないのですが、FP仲間にも鉄道マニアがいて、話題になることが珍しくありません。今回は経済学の観点から「鉄道」について色々と考察してみましょう。

■鉄道ファンの市場規模は1000億円

シンクタンクというと、政治経済について何やら難しいことを研究しているイメージがありますが、「○○オタク市場」「○○ファン市場」などについても興味深いレポートを発表しています。鉄道も例外ではありません。たとえば、野村総合研究所によると日本の鉄道ファンは約200万人もいるとのこと。マニアはもちろん、軽い鉄道ファンも増えているそうです。

軽い鉄道ファンでも、年間に鉄道関係だけで5万円消費するといいます。つまり、控えめに見てもトータルの市場規模は、約1000億円となる計算です(200万人×5万円=1000億円)。しかし、これはあくまで控えめに見積もった数字です。自他ともに認める「鉄道マニア」になると、年間50万円も消費するケースも珍しくないそうです。したがって、実際の市場規模はもっと大きいのかも知れません。

■「親子鉄道ツアー」など様々なビジネスを展開

鉄道ファンに向けたビジネスも盛んです。旅行会社で鉄道ファンの「心をくすぐる」ツアーを企画すると、すぐに完売になるといいます。

鉄道ファンは大人だけではありません。子供たちも鉄道好きが多いですよね。子供の鉄道ファンを略して「子鉄」と呼びます。実は私の友人の子供も「子鉄」なのですが、子供の影響から彼女も「ママ鉄」になってしまいました。

親子で趣味を楽しむなんて理想的ですよね。旅行会社では、そんな親子のために「親子鉄道ツアー」なども企画しているほか、親子で楽しむ「子鉄&ママ鉄」ガイドブックも出版されています。

鉄道会社はもちろん、旅行会社、出版業界、玩具メーカー、食品会社、外食産業などをも巻き込んで、鉄道ファンに向けた様々なビジネスが展開されているのです。

■経済学の「派生的需要」と「根源的需要」

私自身は鉄道にそれほど熱い想い入れはありませんが、それでも日常的に鉄道を利用します。利用目的は、企画の打ち合わせや取材、買い物、旅行などです。いわゆる交通手段ですね。

一般的には私と同様に、なんらかの目的があってそのための交通手段として利用するケースが多いのではないでしょうか。これは経済学的に言うと、「電車に乗る」イーコール「派生的需要」になります。あくまで目的地に移動することが目的であり、電車に乗るのは「派生的」だからです。

しかし、鉄道をこよなく愛する「鉄道マニア」にとっては電車に乗ること自体が「目的」となります。いわゆる「乗り鉄」ですね。これを経済学的には「根源的需要」といいます。

クルマも同じですよね。クルマを眺めたり、運転したり、所有することに喜びを感じる人もいます。それも「根源的需要」です。

1980年代のバブル期は20代の若者でもクルマを所有していないとデートすらできないケースもありました。運転免許証を持っていないのは恥ずかしいことである、との風潮さえありました。クルマには、それくらい「特別な意味」があったのですね。もっとも、いまの時代のクルマはあくまで移動手段としての「派生的需要」が主流のように思います。

■「初乗り運賃」はもっと安くならないの?

ところで、私は主に都内での移動に鉄道を利用するのですが、「一駅だけ利用」するケースもかなり多いです。

都内の一駅は、歩こうと思えば歩ける距離です。だいたい一駅の間が1~2キロぐらいでしょうか。非常に近いですね。たとえば山手線は1周34.5kmで29駅あるので、駅の間の距離は単純平均で約1キロです。

気になるのが「初乗り運賃」です。初乗りは山手線の1~3kmで140円(切符運賃)です。その後、距離がのびると料金も値上がりします。たとえば、4~6kmは160円、7~10kmは170円と距離に応じて料金が値上がりするのです(※鉄道会社や路線によって料金は変わります)。

7~10kmは170円なのに、1~3kmで140円? 初乗り運賃がやけに割高に感じてしまいます。もし、同じように1kmの当たりの料金を計算するならば、初乗り運賃はもっと安くなるはずですよね。

■初乗り運賃が「高い理由」とは?

なぜ、初乗り運賃は割高なのでしょうか?
それは「二部料金制」だからです。二部料金制とは、基本料金と重量料金を組み合わせたシステムです。

電気料金やガス料金も二部料金制です。たとえば、電力会社は発電所を建設し、変電所や送電線などを施設します。そうした設備には一定の固定費がかかります。

鉄道も同じです。鉄道会社は駅を建設し、線路やトンネル、鉄橋などを施設します。それらには当然固定費がかかります。つまり、それらのコストに見合った料金が初乗り運賃に含まれているのです。

■将来的に鉄道の「派生的需要」は激減する?

鉄道の運賃は回数券、こども料金、休日パス、周遊券などの割引があります。ただ、マーケットの理論からいうと、上りと下りの運賃の差別化については、さらなる検討の余地があるかも知れません。

私はフリーランスなので、通勤ラッシュとは無縁なのですが、それでもたまに朝夕に利用した際の混雑ぶりには驚かされます。尋常ではありません。出版社に勤務していた頃は、日々の通勤ラッシュも当たり前で慣れていたものですが、もう無理です。

たとえば、朝の通勤ラッシュ時に都心に向かう電車は超満員で、反対方向の電車はガラガラに空いている光景を目にします。飛行機でもオフシーズンとオンシーズン(夏休み、正月など)で、航空運賃が倍近くも違いますし、鉄道も時間帯によっては上りと下りで料金を差別化しても良いように思います。

もっとも、いまやパソコン1台あればどこでも仕事ができる時代です。将来的には、毎日朝から晩までオフィスで仕事をする必要はなくなるかも? 少子高齢化の影響もあり、鉄道の移動手段としての「派生的需要」も激減するのかも知れませんね。

長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。

最終更新:5/29(月) 17:10
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