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都心で拡大! 激安「一軒め酒場」の儲けのカラクリ

5/30(火) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 最近、東京の主要駅の前で「一軒め酒場」の看板をよく見かけるようになった。一軒め酒場は、1000円あれば楽しめる庶民の財布にやさしい大衆居酒屋だ。2008年に東京・神田に1号店をオープンし、現在は首都圏を中心に64店まで拡大している。

【一軒め酒場の内装】

 お酒の値段は酎ハイ、サワー類、ウイスキー、日本酒、マッコリ、ワイン、カシス割りカクテルが190円(税別、以下同)と安い。生ビール中ジョッキでも360円だ。おつまみも、串かつが99円からあり、350円より高い商品はなく、お通しもない。顧客単価は1600~1650円である。

 個人店の立ち飲みならばこれまでも1000円で酔えるいわゆる“センベロ酒場”はあった。しかし一軒め酒場は、サラリーマンが気軽に立ち寄れて、座って体を休めながら飲める、ちょい飲みに適したチェーンとして業態開発されている。

 店舗は簡素なつくりながらも清潔感があって、女性でも入りやすい雰囲気を持っている。提灯(ちょうちん)がたくさんぶら下がっていて、お祭りの日のような懐かしさを感じる内外装だ。「1人飲みでも、仲間飲みでも、気軽にチョット1杯」が一軒め酒場のキャッチフレーズ。屋号には「一軒目のお店として立ち寄っていただきたい」という、思いが込められている。

●メニューが通常の居酒屋よりも6割少ない理由

 一軒め酒場を運営する老舗居酒屋チェーン、養老乃瀧は1938年に長野県松本市で大衆食堂として創業。56年に居酒屋「養老乃瀧」1号店を神奈川県横浜市に開業した。66年には、フランチャイズ1号店を東京・板橋区成増に出店し、日本におけるフランチャイズ(FC)ビジネスの草分けとして業容を拡大。高度経済成長期には「村さ来」「つぼ八」と共に居酒屋御三家の一角として君臨した。

 この老舗チェーンが新たに挑んだのが一軒め酒場だ。08年12月、東京・神田に1号店をオープンした。ちょうどこの年にリーマンショックがあり、低価格居酒屋の需要が急速に高まったので、良いタイミングだった。

 さまざまな立地をテストマーケティングした結果、主要駅の前に出店する戦略を取っている。現状、都内の店舗が全体の6~7割を占めるが、首都圏1都3県に加えて、大阪をはじめとした関西にも今後は出店していきたいとしている。

 一軒め酒場は居酒屋の原点回帰がテーマとなっており、「安心」「低価格」「早さ」をモットーに、生活の一部として日常的に使ってもらう店を目指している。

 回転率で勝負する店なので、商品を早く提供できるように、メニューの品目を絞っているのが特徴だ。通常の居酒屋では100品目以上を提供するが、一軒め酒場ではレギュラーメニューを55品目前後にとどめている。

 メニューを絞ることで、食材の廃棄ロスが減少するほか、食材管理が容易になるため品質が向上するというプラス効果を生んでいる。一方で、飽きられないように2カ月に一度、5品目前後のメニューを入れ替えている。

 また、オペレーションの簡素化を考えて、串打ちと焼き台に人手が掛かる焼鳥は出さない。その代わりに串かつをメインに据え、店内でつくる揚物や焼魚などの焼き物を充実。刺身は、レギュラーメニューに載っているのが、シメサバとマグロの2品のみである。居酒屋でも中級以上の店では、刺身の飾りつけに菊の花を使うなどするが、一軒め酒場ではコストとスピードを重視して余計な装飾をなくし刺身とツマだけで提供している。

 牛スジ煮込などの煮込み料理は、圧力鍋を使って店内調理を行っている。味のブレを避けるために、野菜はパーツごとに工場でカットされて届き、店ではどの食材を何個ずつ入れて、どのくらいの時間煮込めば良いか、レシピが全てマニュアル化されている。

●営業時間は立地ごとに異なる顧客ニーズに合わせる

 営業時間は、夕方から終電の時間まで、昼から終電の時間まで、24時間営業――といった具合に、店によってバラバラなのも特徴だ。立地ごとに異なる顧客ニーズに合わせて柔軟に変えており、チェーンだからと言って、同じ時間で一律に営業しなくてもいいという考え方だ。

 夜勤の人が多く通る場所なら深夜も営業。昼から開いている店は、リタイアしたシニア、主婦層の来店を狙っている。

 一軒め酒場は必ずしも養老乃瀧からの業態転換をはかっているのではなく、むしろ新規に出店しているケースのほうが多い。

 一軒め酒場の成功は、時代に寄り添って変化を続ける老舗、養老乃瀧の底力を改めて示したものだ。既存の工場や配送システム、メニュー開発やオペレーションのノウハウを活用しながらも、既成概念にとらわれず全く新しいブランドを打ち立てる心構えでチャレンジしたのが奏功した。

 このような柔軟な経営の姿勢を保ち続ける限り、一軒め酒場は順調に発展していくだろう。


(長浜淳之介)