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移乗にロボットスーツ活用する特養ホーム あえて導入した理由とは

5/31(水) 17:43配信

福祉新聞

 鹿児島県南さつま市の社会福祉法人野の花会(吉井敦子理事長)は「人力による抱え上げない介護」を目標にリフトや移乗ボード・シートを使う一方で、装着型ロボットスーツも活用している。抱え上げない目標を掲げながらもロボットスーツをあえて導入した同会。そこからは大切にすべきケアの視点と、正しい機器の使い方を学ぶことができる。

 特別養護老人ホーム3カ所、老人保健施設1カ所など34事業所を運営する同会。2011年9月に地域密着型特養ホーム「ガレリア・ソル」(定員29人、平均要介護度4・2)やサービス付き高齢者住宅などを併設した複合施設の開設時に、デンマークから講師を招いて、利用者と職員の両方に負担の少ない『抱え上げない介護』を学んだことをきっかけに、リフトや移乗ボードの活用を始めた。

 ガレリア・ソルでは、浴槽・脱衣所に明電興産(株)の天井走行式リフトを設置し、居室での移乗用に(株)ミクニの床走行式リフトや(株)ロメディックジャパンの移乗ボードを導入。同会に20人いるリハビリ専門職の1人が週3回巡回し、個々の身体機能を評価し、残存能力を損なわない移乗方法を選んでいる。

 他の特養ホームなどでも同様に抱え上げない介護を目指している同会だが、15年4月に目標と反するサイバーダイン(株)の装着型ロボットスーツ「HAL(R)介護支援用腰補助タイプ」を導入した。それはすべての場面で抱え上げない介護を実現できていなかったからだ。

 同会は抱え上げない介護と同様に「寝かしっぱなしにしない」「おむつゼロ(日中はおむつで排せつさせない)」を目標に掲げ、車いすから個々の身長に合わせたいすに座って食事してもらったり、トイレ誘導を行ったりしていた。しかし、移乗先のいすはひじ掛けが上がらないタイプが多くて移乗ボードが使えず、各個室のトイレも入口と内部が狭くリフトや移乗ボードが使えない環境にあった。

 おむつゼロなどの目標を達成した同会だったが、そこには利用者や職員の負担が少なからずあった。質の高いケアと負担軽減の両立をどうするか。ケア会議で「HALを活用したらどうか」との意見が出された。

 そんな思いで導入したHALだったが、「装着に時間がかかる」などの理由で半年間はあまり使われなかった。抱え上げることへの抵抗感を訴える職員もいた。しかし、全職員が参加する勉強会を開き、使用場面をいすへの移乗と排せつケアに限定したことなどで職員の意識も変化。装着すると、腰部の負担が軽減することから、徐々に使われるようになった。

 現在、6台のHALを導入しているが、そのうち1台を使うガレリア・ソルでは、いすへの移乗と排せつが多い時間帯に勤務する職員が2時間ずつ装着。リフトや移乗ボード、2人介護も併用して移乗ケアをしている。

 HALを導入して2年。職員からの腰痛の訴えは半減し、ロボットスーツを使う先駆的法人としてマスコミに取りあげられ、介護職のイメージアップや人材確保につながるといった副産物もあった。

 また、「生体電子信号読み取り用のパッドが使い捨てのため費用がかかる」「防水機能がなく浴室で使えない」といった問題をメーカーに伝えたことで、パッド付きコルセットや防水機能付きタイプが開発されるなど品質向上にも寄与した。

 「現在学んでいる抱え上げない介護を全職員が習得し、将来的には、HALを使わずに済むようにしたい」と考えている同会。理学療法士の楠元寛之さんは「抱え上げる介護は、利用者に痛みや不安を与える。安全・安楽な移乗ケアの実現には、HALを使わずにできることが理想」と話す。

 そのために毎月1回講師を招いて、廊下にある広いトイレに移乗ボードで誘導する方法を学んだり、リフトやひじ掛けが上がるいすや、座位保持機能が高い調整機能付き車いすなどを導入したりすることで、いすへの移乗をしなくてもいい環境づくりを進めるという。

 HALは、中腰姿勢の保持機能が強化された改良版ができたので、夜間のおむつ交換時の使用を検討している。

 「ロボットスーツなどの機器を使っても大切なのは『真心』と『優しい手』を忘れないこと」と話す吉井理事長。質の高いケアと負担軽減を両立させようとする野の花会の取り組みからは、『利用者第一』のケアの姿勢を学ぶことができる。

最終更新:5/31(水) 17:43
福祉新聞