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憲法9条、自衛隊の保持を付け加える案なら成立も

5/31(水) 13:00配信

ニュースソクラ

改憲論議を小林節慶大名誉教授に聞く(中)

 ――安倍首相は5月3日に憲法9条の1項、2項はそのままに自衛隊の存在を認める第3項を設けるとの案を提示しました。2項は第1項のためにとしながらも「軍隊」を認めないとあるのに、「自衛隊」を認めるのは矛盾すると思った人が多いのですが。

 具体的に考えて見ましょう。たとえば、「前2項の規程にかかわらず、わが国は自衛隊を保持する」という書き方であれば、矛盾はしません。自衛隊は警察予備隊と言う名前でスタートしたことに表れているように、国内法で規程されている第二警察というのが法的な性格です。実力的には軍隊と同じですが。

 3項で自衛隊の存在を明記するだけなら、自衛隊の法的基盤が自衛隊法から憲法に変わるだけです。軍隊を持たない、交戦権は認めないという9条2項は残るのだから、国際法上、自衛隊はやはり軍隊ではないのです。海外で軍事行動をとれば、それはテロリストに認定されかねない存在であることに変わりはありません。

 ――では何が変わるのですか。

 「憲法で認められた存在」となり、かつてはあった「給料ドロボウ」と侮辱を受けることはなくなります。自衛官の子どもだっていじめにあうことはないでしょう。いまでも6、7割の憲法学者は自衛隊を違憲と考えていますが、それがなくなり、安倍首相や近い人にとってはすっきりします。

 ――9条3項と同時に、76条(2)の「特別裁判所は、設置することができない」も変えて軍法会議を作るということはないですか。

 安倍首相は若いころ、国防族といえるような存在だったころは、そういうことにも熱心でした。いまの自衛隊は出動命令がでても、行きたくなかったら「辞めます」と言えば、敵前逃亡にはなりません。本来の軍なら逃げれば味方に撃ち殺されます。それが軍法会議と軍法です。それがないと軍事的はとても弱い。

 でもいま安倍首相は「政治家は結果に責任を持たないとならない」と言っています。もともとの自民党改憲草案にあるように、国軍を持つと書き自衛権と交戦権を明記して軍法会議も創設するなんて、できるわけがないとわかっています。

 いまの安倍首相は、お試し改憲として、とにかく9条に穴を開けたいのでしょう。安倍首相の本気は伝わってきます。改憲は使命と公言してきていますし、意外と理解されていないが、病気が完全ではないということもあるのでしょう。時間がないのです。

 ――自衛隊を保持すると付け加えるだけなら、国民は認めるでしょうか。

 首相は現実的にはなかなかいい球を投げました。憲法審査会の自民党メンバーは、野党と過剰に仲良くするという憲法マニアの中山太郎氏以来のマナーが身についていて、事態が動かなかったのです。安倍首相や彼を支持する人からみれば、まだるっこしいという状況でした。それを動かそうということです。

 いろんな世論調査でまだ9条改正にはアレルギーがありますが、自衛隊を認めるだけなら民進党の大半は賛成するだろうし、共産党ですら「自衛隊がないことは理想ではあるが、主権者と国際世論が許す状況ができたら廃止する」と事実上、自衛隊を容認しています。反対は社民党ぐらいです。

 護憲の考え方の人々が集まっている「9条の会」にしても、事務局長が私との雑誌対談で、会のメンバーは8-9割が今の自衛隊を肯定していると言いました。その後、訂正しているようですが、それが実態です。

 文字通り自衛隊を認めるだけのものであるなら、国民投票でも過半数の賛成は得られると思います。

 国民投票の欠点は、利権が絡む選挙と違い「表現の自由」の観点から、宣伝費は使い放題なのです。自民党は電通を使って、「北朝鮮の脅威があるなか平和な暮らしを守ってくれる、災害救助活動もこんなに働いている」と大キャンペーンを張るでしょう。

 私は、きちんと9条2項を変えて、「自衛権のための軍隊を置く」と、王道の改正をすべきだとは思いますが。

■土屋直也(つちや・なおや) ニュースソクラ編集長
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設

最終更新:5/31(水) 13:00
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