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農家悩ます「奈良のシカ」 訴え50年超 捕獲へ やっと

5/31(水) 7:06配信

日本農業新聞

追い払いだけでは… 防護柵28キロ費用負担も

 奈良公園周辺の農家を半世紀以上にわたり悩ませてきた国の天然記念物「奈良のシカ」の対策が、やっと動きだす。農業被害を食い止めようと、奈良県は7月にも奈良市内の一部地域で捕獲を始める。農家と鹿のあつれきが長かった同市には、「奈良市鹿害阻止農家組合」が存在。闘いの結果、ようやくこぎ着けた鹿の捕獲に、組合員は期待する。この他にも、全国各地で天然記念物の鳥獣による農業被害が出ており、農業関係者は対応に苦慮している。

 「奈良のシカ」は、春日大社の神の使い「神鹿(しんろく)」とされる。県によると、文化財保護法に基づく保護の対象となっている2005年合併以前の旧市内に、約4000頭が生息する。

行政に賠償請求

 同法では農家は鹿を追い払うことしかできず、農業被害は水稲を中心に野菜、果樹などで深刻だ。過去には鹿害に苦しむ地元農家が、行政などを相手取り損害賠償請求を起こしている。

 「追い払いだけで鹿害を防ぐことは不可能に近い」と訴えるのは、鹿害阻止農家組合の組合長、福井甚三さん(65)だ。組合は地元農家が1964年に結成。JAならけん田原支店に事務局を置き、旧市内10地区の農家約400戸が所属する。県知事へ鹿害対策の要望書を提出するなど、被害抑制策を求めてきた。

 福井さんは植木の生産者。高さ約2メートルの防護柵を設置しても、鹿は跳び越えて進入する。樹皮に角をこすりつけ、新芽を食べたり枝を折ったりされ、年間被害額は平均40万円。多い年では数百万円に膨らむという。

 奈良教育大学の渡辺伸一教授によると、旧市内で設置した防護柵は87年からの18年間で総延長約28キロ、市が負担した費用は約1億8000万円。それでも、「農地全体を囲めず、被害を抑えられない」(福井さん)と言う。

7割「被害増加」

 県の農業被害アンケートで、13年度までの5年間で鹿による「被害が増えた」と回答した旧市内を含む県北部の農家は7割超。JA支店長で水稲農家の浦隆之さん(59)は「柵の費用負担もあり、農家は我慢の限界を超えている。鹿を捕獲し、一刻も早く負担を軽くしてほしい」と切実だ。

 県は現在、文化庁に捕獲のための現状変更許可を申請中。認められれば、同公園や春日大社がある中心部の「重点保護地区」、世界遺産の春日原生林がある「準重点保護地区」などを囲む郊外の「管理地区」184平方キロで捕獲できる。期間は11月までの予定。県奈良公園室は「農家と鹿のあつれきをなくし、共生を図りたい」と話す。

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最終更新:5/31(水) 13:28
日本農業新聞