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リリー・フランキー、亀梨和也。『美しい星』吉田大八監督が語るキャスティングのワケ

5/31(水) 19:00配信

ぴあ映画生活

「TVで見るたびに『不機嫌そうな顔してるなぁ』って思ってたんですよ(笑)」ーー。吉田大八監督は亀梨和也に抱いていた印象について、なんともおかしそうに、そう語る。そしてそれは、映画『美しい星』で描こうとしていた、リリー・フランキー演じる主人公に複雑な思いを抱く息子のイメージにピッタリ重なった。

『美しい星』場面写真

原作は三島由紀夫が1962年に発表し当時から“異色の”という枕詞を冠されてきたSF小説。“宇宙人”であることに覚醒した一家4人が地球を救うための奮闘(?)する姿を描く。現在の日本の映画界で、企画の成立から完成に至るまで、決して簡単ではないだろうと想像できる原作。その物語の根幹を支える一家のメンツに、吉田監督はリリー・フランキー、中嶋朋子、橋本愛、そして亀梨和也を選んだ。

どこか天然な一家の母を中嶋朋子、美しすぎるがゆえに他人を寄せつけずにいたが、覚醒後は「美の基準を正す」と宣言し、ミスコンへの出演を決める一家の長女に橋本愛というキャスティングは、多くの観客にとって映画を観る前から納得の配置と言えるだろう。

だが、主人公のお天気キャスター・重一郎をリリー・フランキーが、その息子の一雄を亀梨が演じることには、新鮮な驚きがある。まずリリーの起用について、吉田監督は「純粋にリリーさん本人への興味があった」と語る。

「僕が原作を読んだのは30年前ですから、重一郎には年配の男性というイメージをずっと抱いていました。でもその年代の俳優さんの中で、原作の重一郎の持つ軽みや不安定さを体現できる人がなかなか思いつかなかったんです。ところがいつの間にか、僕と原作の重一郎が同い年になっていた。そこで、僕はもともとリリーさんという俳優にすごく興味があって、自分と同い年であることも知っていましたから、お願いするいいチャンスだなって」

「当たらない」と評判の気象予報士である重一郎は、序盤では飄々とふるまっているが、火星人に覚醒すると、突如、地球温暖化の危機を真剣に訴えるようになる。

「リリーさんがどんな風に火星人のポーズをするのか? どんな顔で全力疾走するのか? 正直、半分もイメージできていなかったので、現場で何が出てくるか、僕も楽しみでした。いざやってもらうと『そこまでしてくれるのか!』という驚きがありましたね。カットがかかった後、リリーさん自身が自分が何をしていたのか覚えていないってこともしばしばありました。飄々と器用に役を演じるイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実際は全く逆! 記憶が飛ぶほど役を自分に憑依させていくタイプです。そこにうれしい驚きがたくさんありました」

亀梨演じる一雄は、そんな父親に反発を覚える若者。「TVで、みんなが笑っている中、一緒に笑っていたかと思ったらふと真顔に戻ったりするのを見て、面白いなと思っていました」と吉田監督。

「父と息子の相克を、原作より強めに表現したいと思っていたんです。じゃあ、自分がリリーさんの立場で、誰からチラッと侮蔑と怒りの視線を送られたら最もこたえるか? 『あぁ、自分は確実に近い将来、この世代から無視され乗り越えられていくんだな……』という“畏れ”を自然に抱ける青年じゃなきゃいけない。そのとき、亀梨くんの顔と声がふっと浮かんできました」

『桐島、部活やめるってよ』、『紙の月』など、現代の世相を切り取り、人間の生々しさを浮かび上がらせ、多くの共感を呼んだ過去作品とは毛色が異なる作品と言えるが、監督自身は「日常とかけ離れた奇想天外な世界観こそ今までの作品と少し違うかもしれないけど、その世界の枠組みの中で生きている人間に何が起こるのか? それが見たいというところは同じ」とも。1962年に発表されたこのSFを、設定を現代に置き換えて2017年に映画にする意味をこう説く。

「僕らが子供の頃、ノストラダムスの大予言が流行ってて、1999年に世界が終わるって言われていたんですよ。それを反映してか、1980年代、90年代は、世界の終末を描くような漫画や演劇、小説がすごく多かった。それが2000年以降、確実に減ったと思うんですが、そんな中で僕らは“3.11”を経験した。あの経験は、僕らが生きている日常にある日突然終わりが来ることがありえるんだ、ってことを思い出させたと思うんです。そういう、人間全体が行き着く先、みたいな大きな命題に挑むという意味で、この作品を映画化すべきタイミングだったのかなと今になって思いますね」

『美しい星』
公開中

取材・文・写真:黒豆直樹

最終更新:5/31(水) 19:23
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