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都市をもっと楽しく、世界各地の試み

5/31(水) 13:47配信

ウォール・ストリート・ジャーナル

――筆者のアントン・ナイホルト博士はマレーシアのイマジニアリング研究所のリサーチフェロー

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 実際のところ、都会の生活は殺伐としがちだ。

 人々は互いに孤立するようになる。日々の生活にとらわれてしまう。次第に周りの環境に慣れ、退屈し、やがてほとんど周囲に気づかなくなる。

 そんな中、世界中の芸術家や科学者、企業、市当局者が今、自分たちの町をもっと楽しくしようとさまざまな試みを始めている。私はマレーシア政府が設立したイマジニアリング研究所での仕事を通し、こうしたムーブメントをじかに目にしてきた。

 都市に遊び心を加えようとする世界各地の取り組みを紹介する。

バス停とおしゃべり

 郵便ポストやバス停、街灯など街中に立つモノに市が識別コードを振り、近くを通った人がそのコードをある電話番号にテキスト送信すると、その場所についてモノと会話ができる。

 これは、英ブリストル市が試験的に行った「ハロー・ランプポスト」プロジェクトのコンセプトだ。企業と公的機関の協賛で毎年行われるデザインコンペ「プレーヤブルシティー」から生まれた。同コンペは「市のインフラの再目的化」をテーマにプロジェクト案を競うもので、優勝デザインは数カ月間、公共の場で披露される。

 ハロー・ランプポスト・プロジェクトでは、自動化されたチャットボットを使用。ボットは人と会話したり、ポストや街灯などのモノの周辺環境に関して情報を集めたりできる。また、テキストメッセージで送信された簡単な質問を解析し答えたり、「なぜここに来たのですか?」といった質問を自ら投げ掛けたりすることもできる。

 私はイマジニアリング研究所のラボで別のプロジェクトに携わっている。魅力的な香りを放つことによって通行人の注意を引く「バンブーベンチ」という構想だ。ベンチに座ると、あらかじめ録音された歓迎のあいさつが再生され、座った人はその場所について知っていることや個人的な経験について話すよう促される。ベンチは相手の言ったことを分析して他の人が録音した関連のある話を検索し、その知識を会話に使用する。

 将来的には、ベンチに「電子鼻」センサーを設置する計画だ。それによって空気の質に関する情報を収集し、その情報を使って立ち寄った人たちと会話できるようにする。

信号待ちでおふざけ

 公共の場を楽しくするためには、日常生活の退屈な動作を少し気楽なものにするというのも1つの手だ。例えば信号待ち。

 ダイムラー傘下の小型車メーカー、スマートは、交通安全への意識を高めようと、ポルトガルの首都リスボンに「踊る」歩行者用信号を設置した。通行人はブースに入ってダンスを踊る。すると、カメラがその動きを捉え、信号に表示された赤い棒人間がリアルタイムでその動きをまねる。

 一方、「アーバンインベンション」というドイツのチームは、信号にビデオゲームを設置する「ストリートポン」というプロジェクトを立ち上げている。歩行者は信号待ちの間、道路の反対側にいる人とボールを互いに打ち返すパドルゲームをプレーできる。

通行人に反応するウサギ

 ブリストルのコンペから生まれた別の2つのプロジェクトでは、通りに映像を投影することで町歩きに彩りを添えている。

 1つは、街灯に赤外線カメラシステムを設置した「シャドーイング」プロジェクト。システムが通り過ぎる人たちの影を録画し、その場で再生する。街灯の下に誰もいないときは、以前通った人たちの影を映し出す。

 もう1つは「アーバニマル」プロジェクト。市の各所にプロジェクターを設置し、イルカやウサギ、カブトムシなどのアニメ化した動物を壁や歩道に投影した。映像は動き、通行人の動作にも反応する。例えば、ウサギは臆病なので通行人が素早く動くと隠れてしまうが、立ち止まると近づいてくる。

踏むと鳴るピアノ階段

 インタラクティブな要素を加えることで、人々の行動に変化を起こし、個人の健康、ひいては市全体の健康を増進できる可能性もある。

 有名な例の1つが、フォルクスワーゲンのスウェーデン支社がプロジェクトの一環として、マーケティング会社DDBと共同で作ったピアノ階段だ。最初はストックホルムの地下鉄駅に設置され、その後世界各地に広がった。階段はピアノの鍵盤を模してあり、踏むと音が鳴る。この結果、階段を使う人が増えたという(それに伴って恐らく健康も増進されただろう)。

 フォルクスワーゲンのスウェーデン支社とDDBがもう1つ共同で取り組んだのが、デジタル的な要素を加えたゴミ箱の設置だ。フォルクスワーゲンの協賛で実施されたもので、ゴミ箱にゴミを放り込むと楽しい音(「ヒュー」っというエレベーターが高速で動く音)がする。これには、人々にゴミを散らかさず適切な場所に捨てさせる効果があった。

By Anton Nijholt