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外国人が多いのになぜ? 渋谷区が観光施策に注力する事情

6/1(木) 7:08配信

ITmedia ビジネスオンライン

 今、JR渋谷駅前のスクランブル交差点に行くと、朝夕問わず数多くの外国人観光客に遭遇するだろう。彼らはスマートフォンやカメラを掲げて、交差点を行き交う人々の波を撮影したり、それをバックに記念撮影したりしている。

【渋谷観光協会の金山淳吾理事長】

 そう、渋谷のスクランブル交差点は旅行専門サイトやガイドブックなどにも載るほど世界的に有名な日本の観光スポットで、実際「Instagram」などのSNSで検索すると、さまざまな国籍の外国人が写真や動画を多数投稿していることが分かる。

 ところが、渋谷区によると、外国人観光客の多くは撮影が終わると渋谷センター街や渋谷公園通りなど町の奥へとは進まず、電車に乗るなどして別の場所に移動しているのだという。要するに、撮影スポットとして渋谷のスクランブル交差点を訪れるのが主な目的だったのである。そしてショッピングや飲食、宿泊の中心は六本木や銀座、新宿。ストレートな表現で言えば、渋谷にはあまりお金を落としていないのである。

 東京都の外国人観光客は2015年で前年比34.0%増の約1189万人、観光消費額は同42.0%増の1兆1150億4500万円と右肩上がりで増え続けているが、都内でもその恩恵を受けているエリアには差があるようだ。

 渋谷区には外国人観光客が確かにやって来ている。出口調査によると、渋谷、表参道&原宿、恵比寿&代官山のエリアだけで東京都全体の数字に匹敵する。けれども、そこから彼らの消費行動にはなかなかつながらない。こうした状況を課題に感じた渋谷区は、いかにして外国人観光客がスクランブル交差点や忠犬ハチ公像を見るだけで帰らず、どうすれば渋谷の町の中にまで入り込んでくれるかを考えるようになった。その先導役が渋谷観光協会である。

●何もしなくても人は集まってくるが……

 同協会は2012年4月に渋谷区と東京商工会議所が共同設立。官民協働による観光事業の新興によって「国際文化観光都市・渋谷SHIBUYA」の実現を目指している。ただし現状は「まだ国際文化観光の後進都市」と渋谷観光協会の金山淳吾理事長は指摘する。

 渋谷と言えば、若者カルチャーの情報発信基地として、古くからその認知は国内外で広い。特に何もしなくても大勢の人々が集まってくる。そうした状況にあぐらをかいていたため、実は観光に関してはこれまで主体的な情報発信はほとんど行っていなかったという。観光客とのコミュニケーションが不足しており、「数年前までは渋谷駅周辺に観光案内所も数えるほどしかありませんでした」と金山氏は話す。

 また、外国人観光客が日本全体で伸びている現状だから、あまり危機感を覚えていない人は多いものの、今後その成長がストップしたときに、渋谷をリピートしてくれる観光客がいなくなるというリスクは決して少なくないと金山氏は考える。そうならないためにも、渋谷のファンになる観光客を1人でも多く増やし、彼らが渋谷で食事したり、土産を買ったり、宿泊したりして、地元との関係性を構築することが重要だという。

 そこで金山氏が中心となって、渋谷という町の深い魅力を伝えるための取り組みをスタートした。まずは外国人をはじめとする観光客に対して地域の情報発信を行うために、観光協会の公認アプリ「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」をリリース。例えば、イベント情報や文化施設などの情報、店舗で使えるクーポン情報などを掲載。加えて、2016年5月に約300個のBeacon(近距離の無線発信機)を繁華街を中心とした渋谷区内に設置。今年3月までにその数は800個に、2017年度中には1500個まで増やすという。アプリのユーザーがBeaconのそばを通ると、そのエリアに関連する情報などをスマホに送るようにした。現在、アプリのユーザー数は約1万だという。

 「例えば、Googleで“渋谷 観光”と検索しても、美術館の楽しみ方など出てこないでしょう。そうした情報を渋谷を歩いている人に届けたいと思いました。そのための環境整備においてBeaconはコスト効率が良かったのです。Wi-Fiを整備すると数百万円単位でコストがかかりますが、Beaconだと1台当たり数千円でネットワーク構築が可能です」(金山氏)

●データ活用で観光客のニーズを顕在化

 このようにBeaconを至るところに配備した狙いは、単に情報発信だけではない。これによって観光客のニーズを顕在化させたかった。「なぜ渋谷に訪れる観光客は交差点とハチ公で写真を撮って、それ以上は町の奥に進まないのかと考えていたら、彼らは渋谷に何があるのか、渋谷で何ができるのか分からないのではないかということに気付きました」と金山氏は振り返る。

 そこで彼らのニーズを引き出すために、アプリで提供する情報をランダム表示にして、ユーザーの行動を刺激するようにした。例えば、明治神宮の次に、原宿にある「カワイイモンスターカフェ」の情報を出すといった具合だ。

 「ユーザーが欲しい情報が決まっていれば、『トリップアドバイザー』やGoogleで検索した方が早いです。既に検索性に優れたものはあるので、あえて我々がそれを作る必要はありません。それよりも、通常ならばリーチしないような情報が、お得なクーポンとともに提供できる方が価値があるのです」(金山氏)

 加えて、アプリを活用するユーザーの動きを可視化し、そのデータを収集、分析できることを目指した。渋谷に来た観光客はどのようなルートをたどるか、その過程でどのような情報を出せば効果的なのかなどを分析。そこで得たノウハウを蓄積し、最終的には観光客が望むクーポン情報などをリアルタイムで配信したい考えである。

 さらにこうしたデータは、経済産業省が提供する「おもてなしプラットフォーム」を活用し、外部パートナーに解放する。おもてなしプラットフォームとは、サービス事業者同士が連携して主に訪日外国人向けに質の高いサービスを提供できる仕組みで、彼らが買い物や飲食、宿泊、レジャーなど各種サービスを受ける際に求める情報や、スマホアプリに登録する情報などについて、本人の同意の下、同プラットフォームに共有・連携する。これによってさまざまな事業者や地域が観光客情報を活用したサービスを提供できるという。2016年10月から実証実験を開始し、渋谷区のほか、福井県や香川県、熊本市、東京都台東区などでも進められている。

 このサービスプラットフォームを整備することで、さまざまな切り口でユーザーへの提案が可能となる。「仮に渋谷に来る人にメルセデス・ベンツのユーザーが多いということが分かれば、メルセデスを題材にした美術展を渋谷の美術館で開催すれば多くの人が集まるかもしれません。ユーザーデータと渋谷に元々あるコンテンツを掛け合わせて、眠っている観光資源を活性化したい」と金山氏は意気込む。

 金山氏によると、渋谷区には美術館や博物館が多く、行政も貴重な歴史資料などを保存しているが、そこに訪れる人はほとんどいないという。一方、海外には小さなギャラリーでも多くの人が訪れるような場所がたくさんある。「たとえ良いコンテンツを持っていても、それが知られていない、あるいは生かし切れていないから、渋谷以外の場所に観光客が流れていくのでしょう。渋谷に来てくれた人にそうした情報をしっかり伝えていきたい」と金谷氏は強調した。

(伏見学)