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トランプはクビになるのか 「ロシアゲート」を解説

6/1(木) 7:23配信

ITmedia ビジネスオンライン

 今、国際情勢でアツい話題といえば、米国のドナルド・トランプ大統領に絡んだ「ロシアゲート」だろう。

【次々に疑惑が浮上するが……】

 トランプ政権とロシアの関係が取り沙汰されているが、次々と新しい暴露話が出て来るために、「よく分からない」と感じている読者も多いかもしれない。この騒動は、トランプ大統領の弾劾(そして罷免、つまりクビ)につながりかねないと指摘する声もあり、今後トランプ政権の行方を左右するものであると同時に、国際的な情勢にも影響を与えかねないと見られている。

 著者も最近、一体何が起きているのか、と質問されることが少なくない。そこでできる限り分かりやすく「ロシアゲート」について徹底解説してみる。こうした解説記事は英字メディアでは「Explainer(エクスプレイナー)」などと呼ばれるが、今回は「ロシアゲート、エクスプレイナー」をお届けしたい。

 ビジネスマンだったドナルド・トランプとロシアの関係は、1980年代にさかのぼる。トランプは何度かビジネスでロシアを訪問し、米国内でもロシア要人(ミハイル・ゴルバチョフなど)に会っている。2013年、トランプ自身もテレビ番組で「ロシア人とは多くのビジネスを行ってきた」「ウラジミール・プーチンとは知り合いである」と述べていた。

 そしてすべては、2015年からの米大統領選で始まった。ロシア政府機関とつながるハッキング集団が、トランプの対抗政党である民主党全国委員会のコンピュータシステムに侵入。それを察知したFBI(米連邦捜査局)は同委員会に繰り返し連絡をして警告するも、対策は行われなかった。

 このころ、トランプはロシアのプーチンをよく知っており、ロシア政府要人らとも会ったことがあると何度も吹聴していた。当時、外交経験ゼロと指摘されていたトランプは、そうすることでグルーバルな人間だと主張しようとしていたと指摘されていた。

 2016年6月、米ワシントンポスト紙は、民主党全国員会がハッキングによるサイバー攻撃を受けたと報じ、翌7月になるとロシアのハッカーが民主党の内部メールや文書をネット上で暴露する。またトランプはこのころから、「プーチンと会ったことはないし、プーチンは何者か知らない」とトーンダウンし始めるが、FBIはトランプ陣営関係者とロシアとの関係について極秘に捜査を始めている。

 10月、米国家情報長官室(DNI)と、米国国土安全保障省(DHS)は、このサイバー攻撃について、連名で「米情報当局は、米国の政治的組織を含む機関や米国人の電子メールに不正アクセスするようロシア政府が指示していると確信をもっている」という声明を発表し、ロシアが選挙にサイバー攻撃などで介入したと指摘した。

●主な登場人物は5人

 11月、トランプが大統領選に勝利する。するとすぐ後に、ロシアの非政府系通信社が「ロシアの外務次官が、ロシア側はトランプ陣営メンバーと連絡を続けている」と報じるが、トランプ陣営は「大統領選の間、陣営は外国の機関と連絡を取り合ったことはない」と主張していた。

 しかし、この時点までに、多くのトランプ関係者がロシアとの関係をもっていた。次の5人が主な登場人物である。

・レックス・ティラーソン国務長官

 元エクソン・モービルのCEOであり、古くから石油関連でロシアとの関係は深く、2013年にはプーチンから「友好勲章」を授与されている。

・ジェフ・セッションズ司法長官

 上院議員として選挙期間中にトランプのアドバイザーで、トランプ政権で司法長官に指名されることになる。

・カーター・ペイジ

 ロシアの政府系石油会社など石油関連ビジネスでコンサルを務めていた時代にロシアの諜報部員(後に逮捕)と関係を築いていた。トランプの外交アドバイザーだった2016年には、モスクワでスピーチして米国の対ロシア経済制裁を批判していたことが後に判明。

・ポール・マナフォート

 トランプ陣営の選挙対策本部長を務めたが、プーチンやプーチンの取り巻きなどロシアとの関係は深いとされ、ウクライナの親ロシア派からビジネスと主張する多額の支払いを受けるなどして問題視されている。

・マイケル・フリン

 2013年にロシアの参謀本部情報総局(GRU)でレクチャーをするなどロシアと深くつながる。2015年には夕食会でプーチンの隣に座り、有料でスピーチを行なっている。トランプ政権では国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めることに。

 こうしたロシアがらみの動きを背景に、2017年になると事態は大きく動く。1月、元英国情報当局者を名乗る人物が2013年にロシアのホテルで撮影されたというトランプと売春婦の映像が存在すると記した文書の存在が明るみに出る。だがこの情報は少し前からメディアの間でも出回っており怪文書的な「怪しいもの」と扱われていた。もちろん、トランプは「偽情報」だと一蹴した。

 また米メディアは、ポール・マナフォートとカーター・ペイジなどが、ロシアとの関連で、FBIとCIA(米中央情報局)、NSA(米国家安全保障局)や財務省による捜査対象になっていると報じる。ちなみにこうした捜査には、当時録られた盗聴記録などが使われるため、基本的に言い逃れはできない。

●メディアからリーク情報が溢れ出す

 1月20日、トランプが大統領に就任。トランプは、当時のFBIのジェームズ・コミー長官と2人で会食して、ロシアに絡んで自分がFBIの捜査対象になっていないか、長官に確認する。またコミーに忠誠を求めたとも報じられているが、コミーは拒否したという。さらにトランプ個人の顧問弁護士が、親ロシアのウクライナ議員などと会合していたことが判明した。

 このころから、マイケル・フリン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、FBIの聴取にもメディアとのインタビューでも、米国を中心とした欧米諸国がクリミア侵攻に抗議するためにロシアに科した経済制裁について、ロシア側と話をしたことはないと主張を続けた。つまり自分の立場を利用してロシアのいいように制裁解除を働きかけようとしたかどうかが疑われたのだ。ただフリンの主張が嘘であることは当局には明らかで、フリンはマイク・ペンス副大統領にも正直に事実を伝えていなかったため、結果的に辞任せざるを得なくなった。実際には、フリンはセルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と何度も会い、対ロシア経済制裁について何度も(少なくとも5回の会話が確認されている)電話で話をしていた。

 またこのころ、カーター・ペイジも取材で2016年にロシア高官と会ったことはないと(嘘を)述べた。

 2月に入ると、トランプは、トランプ陣営のメンバーでロシアと接触していた人は「誰も知らない」と述べ、「私はロシアと無関係」と主張した。下院司法委員会は、トランプにロシアとの関係を明らかにするよう求める民主党主導の決議案を、共和党の反対多数で却下。

 3月以降は、メディアからリーク情報が怒涛(どとう)の勢いで溢れ出す。米ワシントンポスト紙が、ジェフ・セッションズは2016年にロシア大使と2度も会っていたことを暴露し、しかも司法長官の指名承認公聴会でそれを隠していたと報じた。結局、セッションズ司法長官は、今後ロシアがらみの全ての捜査に携わらないと発表。

 また米ニューヨーカー誌の報道を受けて、トランプの娘婿であるジャレッド・クシュナー大統領上級顧問と、マイケル・フリン大統領補佐官が、2016年12月にニューヨークのトランプタワーでキスリャク駐米ロシア大使と会ったことを、米政権が認めることになった。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、トランプの息子トランプ・ジュニアが2016年10月にフランスのロシア系シンクタンクで発言して5万ドルを受け取ったと報じ、米USAトゥデー紙は、カーター・ペイジなどが大統領選の最中の共和党全国大会で、キスリャク駐米ロシア大使と会っていたと明らかにした。

●トランプは挑発的な言動を続ける

 さらに選挙戦の一時期、トランプのアドバイザーを務めたコンサルのロジャー・ストーンという人物が3月10日、2016年に民主党全国大会をサイバー攻撃したと名乗り出ていた「グーシファー2.0(ロシアのGRUと関係があるとされる人物)」とTwitterでダイレクトメッセージでやり取りしていたことを認めた。また米AP通信は、ポール・マナフォートが2005年にロシアのオリガルヒである人物に対して、プーチンに利益になるよう米政治やメディアを操作すると提案した「戦略メモ」を暴露した。

 3月27日、ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問が2016年12月に、ロシア政府系銀行の頭取とも会合していたことが、米ニューヨーク・タイムズ紙の報道で明らかに。また2016年夏ごろに、FBIがトランプの外交アドバイザーだったカーター・ペイジを盗聴・監視する令状を得ていたことも判明。

 5月9日、FBIのコミー長官がセッションズ司法長官らのアドバイスを受けたトランプに更迭される。次のFBI長官はトランプが指名するため、彼に有利にならないよう、共和党員を含む議会議員らが、特別検察官による捜査を要求。セッションズはロシアの件に一切関わらないことになっているため、ロッド・ローゼンスタイン司法省副長官が元FBI長官のロバート・モラーを任命するに至った。

 コミー長官にからんでは、新たな疑惑が浮上する。トランプがコミーにフリン大統領補佐官の捜査中止を求めたとするメモが明らかになったり、ダン・コーツ国家情報長官と、NSAのマイケル・ロジャーズ局長にロシア疑惑を公式に否定するよう要望したことも判明する。

 だがトランプは相変わらず挑発的な言動を続けた。10日にトランプは、ロシア高官らをホワイトハウスに招き、同盟国イスラエルからもたらされた秘密情報をロシア側に漏らしたという疑惑が指摘されている。

 こうした流れを受けて、今後、トランプが弾劾されるかどうかが議論されているのである。ただ弾劾裁判には下院議会の過半数が必要で、その上で上院で3分の2の賛成が必要となるのだが、おそらく2018年の中間選挙までは、現在過半数を占める共和党が協力する可能性は低いとする見方がメディアでは出ている。

 だが議会云々をもち出さずとも、現時点で弾劾裁判から罷免という可能性はかなり低いとみていい。そもそも米国の憲法規定によれば、弾劾・罷免されるためには「大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる」とされているのだが、今のところトランプの行為はどれにも当てはまらないだろう。トランプの側近などがその罪に当たる可能性は十分にあるが、下院も上院も、トランプ自身がこれらの罪に該当すると証明して弾劾裁判・罷免に持ち込むには無理がある。

●トランプができること

 ここで特筆すべきは驚くべき数のリーク情報がメディアにもたらされていることだ。もはや内部の反トランプ勢力から「トランプ降ろし」が行われているとみても過言ではないだろう。スピン(情報操作)による「クーデター」にも見えなくはない。Twitterで「フェイクニュース」とトランプがバカにしてきたメディアが、一斉に反トランプのキャンペーンの片棒を担いでいるといった様相だ。

 つい先日も当局者がメディアに、ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問が選挙期間中や選挙後にも、キスリャク駐米ロシア大使と少なくとも3度、非公開で会談していたことを暴露している。ちなみに政府や軍などからの機密情報のリークは違法行為である。

 メディアを軽視(回避)し、会見などでメディアの追求を避け、Twitterで国民に直接メッセージを送ってきたトランプは、「ロシアゲート」をネタに大手メディアから一斉攻撃を受けながらもツイートで対峙(たいじ)している。ここから米政治がどこに向かっていくのかはもう少し様子を見る必要があるが、少なくとも、メディアへのリークは今後もどんどん続けられることだろう。

 トランプができることは、ツイートで「フェイク!」と叫び、リークを食い止めるための脅しの「大統領令」を検討するくらいしかなさそうだ。

(山田敏弘)