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「VRが世の中を変えると確信した」 元ネトゲ廃人の公務員がVR専門メディアを立ち上げるまで

6/2(金) 7:10配信

ITmedia NEWS

 先日、VR界の「神童」パルマー・ラッキー氏が、半裸に近いコスプレ姿で徳島県のアニメイベント「マチ アソビ」に現れたことが話題となった。

【画像:VR界の“神童”と呼ばれる男】

 日本アニメが大好きな彼への独占取材を実施し、3本にわたるロングインタビューを掲載したのが、VR専門のニュースサイト「Mogura VR」だ。

 「VR(仮想現実)は人の進化を加速させる。VRによって人の価値観や社会そのものがどう変わるのか。それを見たい、そしてより良い体験を増やしたいんです」――そう語るのは、Mogura VRの久保田瞬編集長。彼自身、日々VRの取材で国内外を駆け回り、2017年だけで4回海外のイベントに出向いたという。

 学生時代にネットゲームにハマり、1つのソフトに1万時間以上費やす“ネトゲ廃人”生活をへた後、国家公務員の道へ。ベンチャー企業の勤務をへて、ネトゲで苦楽を共にした中高の同級生と2人でインディーゲームを中心に紹介するメディア「もぐらゲームス」を立ち上げ、「Mogura VR」に至る――という、一風変わった経歴の持ち主だ。

 初めてVRに触れたとき、「これはすごいものが出てきた」と思い、その後「これは社会を変えるものだ」と強く意識するようになったという。根っからのゲーマーだった彼は、VRのどこにほれこんだのか。自らメディアを立ち上げるほどVRに傾倒する理由を聞いた。


●VRが急速に「マイナー」の枠をはみ出した

 昔から、「みんながまだ知らない、価値あるものを伝えるのが好きだった」という久保田さんは、学生時代はフリーペーパーを制作し、公務員時代も情報発信する仕事をしていた。

 「経歴だけ見るといろんなことに手を出しているように見えますが、根底には価値ある情報を伝えたいという思いがずっとあったのかもしれません」と、冷静に振り返る。

 2014年3月に立ち上げたもぐらゲームスでは、いわゆる「AAAタイトル」(トリプルエータイトル)と呼ばれるメジャーゲームではなく、インディーゲームやフリーゲームを中心に、隠れた名作を“発掘”する日々を過ごした。

 もぐらゲームスは、中高の時代の同級生でネトゲで苦楽を共にしてきたNoah(のあ)さんと2人で立ち上げた。もぐらゲームスの立ち上げから1年、2015年2月にMogura VRを立ち上げ、2016年8月に法人化している。

 そして、VRとの運命的な出会いは、2014年に開催されたインディーゲームの祭典「BitSummit 2014」にさかのぼる。そこで、Oculus RiftとLeap Motion(手の動きで操作できるデバイス)に対応する「BLAST BUSTER」(ブラストバスター)というシューティングゲームで宇宙空間に没入し、引き込まれた。

 デバイスが手の動きを読み取り、指の先から鮮やかなレーザービームが次々と飛び出す。「これはすごいものが出てきた」――。

 当時のVRは、Oculus Riftの開発者向けキット「DK1」(2012~2014年)を使い、niconicoなどで面白いコンテンツが共有されたりと、「まだまだマイナーなジャンルで、インディーのノリ」だった。まだVRという言葉すら浸透していなかった頃。VRは、「隠れた宝石を掘り出す」というもぐらゲームスのコンセプトにもぴったりだ。

 しかし、同時期にソニー・コンピュータエンタテインメントが今のPlayStation VRの元となる「Project Morpheus」を開発者イベント「GDC」(米サンフランシスコ)で披露し、米Facebookが米Oculus VRの買収が合意に達したと発表するなど、VRは急速にマイナーの枠からはみ出していった。

 「もうVRはインディー、そしてゲームという1ジャンルの枠に収まらないなと(笑)。もぐらゲームスで扱うのが厳しくなったので、VRをスピンアウトして2015年にMogura VRを立ち上げました。今と違ってVRなんかビジネスにならないという風潮でしたが、これはさらに大きなムーブメントになるぞと思いましたね」。

●「VRで人が進化した」のを見た

 これまで数多くのVRコンテンツを体験してきた久保田さんが、「人が進化するのを感じた」と話すのが、ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発する「JackIn Head」(ジャックインヘッド)。360度全周囲を撮影・伝送可能なウェアラブルカメラを頭に装着することで、ヘッドマウントディスプレイを付けた他者が「他人の視界をジャック」できるというもの。

 久保田さんが見たのは、VR技術を応用した鬼ごっこ「Parallel Eyes」。自分を含む4人分のカメラ映像がHMDに表示され、自分の視点を探し出し、他の映像から鬼の位置を把握するという戦略性のあるゲームだ。

 「VRがあれば、身体に制限されず感覚を拡張できる。これまで不可能だと思われていたものが実現されるはずだけど、それがどのようなものかは分からない。その異質さもVRの魅力」。

 久保田さんが「これまでにない感覚を覚えた」ゲームの1つが、水口哲也氏が開発したPS VR向けソフト「Rez Infinite」。「シナスタジア」(共感覚)をコンセプトにした音楽シューティングゲームで、音楽とビジュアルが呼応し、音楽は振動に変わる――幻想的な宇宙空間を漂う話題のゲームは、あまたのVRを経験した若者をうならせた。

 「感動しました。完全なる別世界へ行くという体験はVRならではだと思いますが、実際にそれを実現しているゲームは多くありません。映像や音、時には振動などのいろんな感覚が混ざり合っていく。全然知らない新しい世界へ連れていってもらいました」。

 VRが人や社会にもたらす変化についても、あくまで肯定的に捉えている。

 「スマートフォンが普及し、生活様式や文化、若い人の価値観を変えてきましたが、同じ役割をVRも担うと思います。ですが、VRは情報だけ届けても体験してもらわないと意味がない。早くVRが当たり前になる世の中になるよう、多くの人がVRに触れられる機会を作っていきます」。

●VR普及のカギは「一体型」?

 VR体験の接点を増やすため、Mogura VRではニュース配信だけでなく、VRの出張体験サービスなども行う。主にビジネスのプロモーションとして活用したい企業からの依頼が多いという。

 そこで感じるのは、「VR普及への課題」だ。多くの企業は「何かビジネスに活用したいが、どうしていいか分からない」という段階。それに加え、VR HMDは「ケーブルが邪魔、別途センサーが必要、Oculus RiftなどはハイスペックPCが必要、長時間付けると汗が目の周りについて不快」など、一般ユーザーが使う上での懸念点が多い。

 スマホのように普及する上でポイントとなるのが「(PC・スマホ不要で)スタンドアロンで動く一体型デバイス」というが、価格や性能などの面で一般家庭に普及するにはまだまだ時間がかかりそうだ。「パルマー・ラッキー氏も言及していましたが、10年はかかると言われています」。

 だが、「メーカーも自身が抱える課題は重々承知」しており、「その課題を解決するスピードがものすごい」という。

 「HTC Viveを無線化するキットも、2016年の今頃は話題にも上がっていませんでしたし、とにかくメーカーの動きが速いです。HMDをかけた瞬間コンテンツが始まれば理想ですが……」とVRが生活に溶け込む未来に思いをはせる。

 Mogura VRでは、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などの周辺領域も扱っていく。最後に久保田さんは、「ネトゲにのめり込んだ経験が今につながっているかもしれない」と振り返る。

 「顔も知らない相手と、チャットをしながらゲームを攻略する。バーチャルな世界でのコミュニケーションなのに不思議と親近感がわいて、仲良くなれるものなんです。VRなら、視覚や聴覚を完璧に実現できるじゃないですか。その技術があれば」――。

 社会を変えるテクノロジーは、ゲーマーの夢も膨らませる。一般ユーザー向けの情報提供と、業界向け支援の両輪で、Mogura VRは今日も宝石の“発掘”にいそしむ。

(村上 万純)

最終更新:6/2(金) 7:10
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