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あなたの会社のデータ統合が進まない「4つの理由」

6/2(金) 10:17配信

ITmedia エンタープライズ

 はじめまして。東京商工リサーチの堀です。私たちの会社は国内外の企業情報データベースを提供し、与信管理やマーケティングなどを支援することが主な業務ですが、その延長でソリューションを開発したり、ユーザー企業のデータ統合やデータマネジメントをお手伝いしたりすることもあります。

【売上高や従業員数、業種の属性が欠落していることが多い】

 そうした案件に関わる中で気が付いたのは「日本企業はまだまだデータ統合ができていない」ということ。2016年に開催された、情報システムをテーマにしたとあるパネルディスカッションで、ERPのグローバル標準化を主導してきた大手メーカーのCIOが次のように話していました。

 「今は多くの業務系アプリケーションがクラウド化しており、業務部門主導でリリースや保守が進んでいきます。そのため、情報システム部門の役割を再定義する必要がありますが、今取り組むべき課題は『セキュリティ』と『マスターデータ』の2つでしょう」

 セキュリティ対策の重要性は分かりやすいところですが、もう一方の「マスターデータ」についてはどうでしょう。ズバッと一言で説明するのは、意外と難しくありませんか? 「マスターデータは重要」。口ではそう言いながらも、その取り組みは、上層部からの「費用対効果が見えない」というお決まりの文句で阻まれてしまうケースが少なくないように思います。

 昨今は人工知能やIoTといった用語が世の中に浸透し、あらゆる企業で「ビジネスプロセスのデジタル化」が求められています。この変革の最も重要な基盤は「データ」であり、マスターデータは文字通り、企業のビジネスを支える中核と言えますが、にもかかわらず、生かすことができない――。

 この連載では、古くて新しい言葉「MDM(マスターデータマネジメント)」について、もう一度その重要性と、課題解決の方法を探っていきたいと思います。

●企業内マスターデータの現状と課題

 さて、まずは企業が持つマスターデータにおいて、今回は「取引先マスター」を例に、その現状と課題を簡単におさらいしてみましょう。皆さんは、マネジメントやマーケティング・経営企画部門の面々から次のようなリクエストを受けたことはありませんか?

 「取引金額がトップ100に入る企業の“子会社”について調べてほしいんだけど、売上高が10億円以上で、従業員数100人以上のメーカーをリストアップしてほしいんだ。急な話で申し訳ないんだけど、今日中でお願いしたい」

 「これは難しい……」と感じた皆さん。その理由はどこにあるのか、少し考えてみましょう。こうした要求に速やかに応えるためには、取引先マスターが少なくとも次のような機能を備えている必要があります。


1. 取引先に対して企業単位でユニークなコードを付けている
2. 企業単位のコード同士を資本系列に基づいてひも付けしている
3. 各データが「売上高」「従業員数」「業種」の属性を備えている

 データベースに明るい方なら、1は言わずもがな、マスターである以上、各データに対してユニークな「キーコード」を求めるのは当然と考えるかもしれません。

 しかし、東京商工リサーチ(TSR)が2015年に実施したアンケートでは、回答した5018社のうち約6割が、そもそも取引先を管理する「取引先コード」の類を一切持たず、約1割が部門やシステムごとに異なる取引先コードがあることが明らかになっています(出典:「マイナンバー・法人番号制度に関するアンケート」東京商工リサーチ、2015/7)。

 また、このときのアンケートには質問項目がなかったものの、統一の取引先コードを持つ28%の企業においても、取引先マスターの現場を見る限り、資本系列をリンクしている割合は極めて少ないと思われます。

●見込み客のデータが「ないがしろ」にされている

 今回例に挙げた要求には、まだ面倒な点があります。それは、取引金額トップ100の企業の「子会社」であること――つまり、取引のない見込み客について問われているという点です。取引先であれば、与信を通す際などにさまざまなデータが登録されますが、見込み客についてもデータを用意している企業は、残念ながらまだ少ないでしょう。

 実は、マーケティング先進国といわれている米国でさえ、長きに渡って見込み客データの属性はないがしろにされていました。以下の図は、TSRのグローバルアライアンスパートナーであるDun & Bradstreet(ダン&ブラッドストリート)が、500社以上のマーケティング部門に行ったアンケートの結果です。

 この図が示す通り、米国のマーケティングデータにおいても、7割以上のレコードにおいて、売上高や従業員数、業種の属性が欠落しているのです。

 昨今、米国の企業向けマーケティングでは、“Account Based Marketing”という、あらかじめターゲットとなる企業を決め、その企業に対してマーケティングリソースを集中させる施策が注目を集めていますが、基本属性を欠いたデータが多い状況では、そもそも狙うべき顧客を定義することもできません。

 私は取引先マスターの構築に苦心する企業の方から、その理由を聞いていますが、必ずと言っていいほど同じような話が出てきます。グローバル企業であってもそうでなくても、そして大企業であっても、中小企業であっても、以下の4つのうち、少なくとも1つ、多い場合は全ての項目が当てはまります。


1. 取引先マスターの入力定義が人や部門、地域によって異なる
2. 取引先マスター管理についての標準ルールが定まっていない
3. 複数のシステム(あるいはExcelなどのスプレッドシート)と業務フローを持っている
4. 異なるデータの流入経路(ソース)がある

 ここまで取引先マスターの現状と課題を見てきましたが、皆さんの会社ではいかがでしょうか。次回からは、この問題に立ち向かいながら、サプライヤー管理やコンプライアンス、与信管理の分野で一定の成果を得ている事例を紹介していきます。

●著者プロフィール:堀雄介

東京商工リサーチ ソリューション開発部 コンサルタント。企業情報データベースや関連アプリケーションを専門としたプリセールス活動に従事。グローバルレベルの与信管理やサプライヤー管理をテーマとした講演も行う。企業情報を構築する調査現場での経験を経て、2012年より現職。

趣味は山登り(奥多摩、丹沢の低山を中心に)、サイクリング(ロードバイク初心者)、スノーボードなど。運動不足解消のためでもあるが、運動後の1杯もまたやめられない。