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綾野剛、村上虹郎が剣を交える! ふたり語る新作映画『武曲 MUKOKU』

6/2(金) 7:00配信

ぴあ映画生活

ふたりの間に横たわる年齢差は15歳。その若さから刺激を受けた部分は? という問いに綾野剛は「若いからということでいうと、ないです」と首を振る。「ただ、村上虹郎だからという意味では、たくさんありました」。

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芥川賞作家・藤沢周の同名小説を『夏の終り』、『私の男』の熊切和嘉監督が映画化した本作。並ぶ者のいない剣の達人だが、厳格な父と剣を交え、昏睡状態に追いやったことから道を失い、酒浸りの生活を送る研吾(綾野)とラップに夢中の高校生で、ひょんなきっかけで剣の才能を見出された融(とおる/村上)。剣に導かれ、交錯するふたりの運命を描き出す。

綾野は本作で剣道に初挑戦。研吾は五段の達人だが、撮影前から2か月にわたって猛特訓を行なった。やはり、終盤の研吾と融の戦いが映画のクライマックスと言えるが「雨に打たれ、精神的にも疲弊していくシーンで、自分を追い込んで混沌としてくる部分もあり、その状況をうまく(シーンに)活かせたかなと思います」と手応えを口にする。稽古および撮影期間中、酒も断ち、延々とトレーニングに打ち込むさまは“ストイック”と評されるが「それは自分が決めることじゃないですから」と前置きした上で、こう語る。

「ストイックなんじゃなく、単純に不安なんです。その不安に対し、ひたすら努力することが精神安定剤になる。映画というのは、ずっと残るものであり、それはある意味で残酷なこと。何より、現場で求められていることができないと死にたくなりますから(苦笑)。それをストイックと評価してくださるのはありがたいですが、やらなきゃできない。ただそれだけです」。

村上はそんな綾野の姿を見て、大いに刺激を受け、改めて綾野剛という当代一の人気俳優のすごさを体感したという。

「ボクシングの映画だったり、痩せる役柄ならわかりやすいですが、肉体づくりからそこまでできるってすごいと思いました。(綾野を見て)自分も、そういう役が来たらやることになるんだろうと、心の準備だけはしておこうと思いました。以前から綾野さんと面識はあったのですが、僕が当時、10代でお酒を飲みに行くわけにもいかず、よくは知らなかったんです。でも今回、肌で感じさせていただいた部分がすごくあったし、こんなに頼りになる人がいるんだ! と思いました」。

決して、外見の肉体づくりや剣道の型だけではない。研吾は父を昏睡状態にまで追い込んだという重い過去を抱え、融もまたかつて、台風による堤防の決壊に巻き込まれ死にかけた経験から、もう一度、死の淵を覗き込んでみたいという思いに囚われている。こうした内面をどのように演じたのか? 綾野は「環境が変われば人間、誰もがそうなる要素を持っている」と決して研吾の置かれた状況が特別ではないとする。

「僕自身、いまでこそスポットライトを浴びる華やかな環境にいますが、環境が人を飲み込むことはいくらでもあると思う。ただ、その部分よりも、大事だと思ったのは『生きていくこと自体が希望である』ということと『誰もが誰かの子どもである』ということ。僕らは“父”とか“母”という役割で人を見がちですが、全員が誰かの子どもなんです。それに気づけたのはすごく大きかったし、気づかせてくれたのは間違いなく融です。彼が自分を求めてくれて、初めて“生”を感じる。演じてる時は地獄のような映画としか思っていませんでしたが、出来上がりを見て、生きている人間にしか与えられない希望に気づきました」。

村上は「最初は融という人間がつかめなかった」と語るが、少しずつ自分に引き寄せながら融を自分のものにしていった。

「原作小説もありますが、映画はそれとはまた違っていて、リセットして融を生きました。そこで『親父はどこ行ったのか?』と思ったんです。いままでの出演作でも、親父がいなかったり、関わりがないことが多いんです。それは、グザヴィエ・ドランの映画に通じるなって思うのですが(笑)。死に魅せられるところも、僕にとっては感覚的なものでしかなかったです。例えば、みんなの感覚が鈍っている中で、不用意に人を傷つけてしまうこともあると思います。それは冷たいから。もちろん、みんなが冷たいわけでもないし、自分ももしかしたら、そういう冷たい人間と周りから思われてるところもあるかもしれない。そういう、自分の中にある小さな感覚を大きくすることが、死に魅せられるという表現に繋がっていくのではないかと思いました」

改めて剣を交えて、綾野剛の目に村上虹郎という20歳の新鋭はどのように映ったのか?

「彼が生きてくる中で抱えてきたジレンマとか、圧縮されたものがパンっと弾けた瞬間のスピードやパワー、みずみずしさは、とてもマネできるものじゃない。それこそストイックに努力で生み出せるもんじゃなく、彼のセンスなんです。その“センス”はこの作品を通じて“実力”に変わったと思います。これからもっと強くなりますよ」。

『武曲 MUKOKU』
6月3日(土) 全国ロードショー

取材・文・写真:黒豆 直樹

最終更新:6/2(金) 7:00
ぴあ映画生活