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ハッカーお気に入りの仮想通貨「マネロ」

6/2(金) 12:50配信

ニュースソクラ

【資本主義x民主主義4.0】第一部 WannaCryの教え(4)進化し続けるウィルス

 ランサムウェア騒動の直前、医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに「身代金目当てに病院を乗っ取るハッカーたち」という予言的な論考を寄せたロンドンの脳神経外科医クリシュナ・チンタパリは証言する。

 「昨年末の調査ではイギリスのNHSトラストの90%は、サポートが2014年4月に終了したウィンドウズXPを使い続けていた。NHSデジタルはパソコンの数で見ると5%と説明している。医療用のソフトウェアがパソコンOSのアップグレードに対応できていないのが原因だ。病院がランサムウェアに狙われる傾向は数年前から現れている」

 ハッカーはこうした病院の弱点を知り尽くしている。ウィルス対策ソフト会社のオトリ調査では、ランサムウェアを操るハッカーと交渉すると、彼らは期限の延長や平均で30%の身代金のディスカウントに応じるという。

 サイバーセキュリティー会社に原状回復を依頼すると高くつく。大事なデータが暗号化されたままだったり、消失したりすると、しかし、それ以上に高くつく。

 「病院には患者の診療記録、内視鏡検査やCT、MRI検査の電子データなどが毎日、山のように積み上げられていく。しかも生年月日や住所、健康保険や社会保険のデータ、メディカル・ヒストリーなどの個人情報は患者1人当たりクレジットカードなど他のデータの約10倍に相当する約10ドルで売買されている」とチンタパリは警鐘を鳴らす。

 ランサムウェアによる身代金の支払いに応じる被害者も多く、米連邦捜査局(FBI)の報告では身代金の支払い金額は15年の2億4000万ドルから16年には10億ドルと4倍に跳ね上がっている。背景には「サイバー空間の基軸通貨」とも言えるビットコインの普及がある。ビットコインは高騰を続けており、対ドル相場は2000ドルを一気に突破した。チンタパリはいたずらっぽく言った。

 「多くのハッカーが身代金をビットコインで要求するのは、オンラインで簡単に送金できるからさ。ハッカーはご丁寧にもランサムウェアの被害者たちにビットコインの買い方やどのように送金するかを教えてくれるんだ」

 病院のコンピューターネットワークには「宝の山」である重要なデータが大量に保存されている。にもかかわらず、セキュリティー対策はあまりにも脆弱だ。そして政治家も、官僚も、国民もリスクに無頓着だった。

 「ランサムウェアが広がってから食い止めるより、予防の方が効果的で、コストもほとんどかからない。従業員に疑わしい電子メールが届いたら報告するよう教育しておくと、ランサムウェアの乗っ取りを未然に防止できる。ウィルスの攻撃は激増する一方なので、コンスタントな努力が欠かせない。今回の騒動が警鐘になると良いのですが…」とチンタパリは締めくくった。

 ランサムウェアWannaCry(泣きたい)の衝撃が冷めやらぬ5月17日、同じウィンドウズの脆弱性を悪用した Adylkuzz というマルウェアが拡散していることが大きなニュースになった。

 米セキュリティーソフト会社シマンテックによると、Adylkuzz は、侵入先のパソコンに仮想通貨のマイニング(採掘、膨大な計算をして仮想通貨を新たに入手すること)プログラムをインストールする。マイニングはバックグラウンドで行われるため、感染したパソコンの利用者が気付くことはまずない。マイニングの CPU(パソコンの頭脳、中央処理装置) 消費量は大きく、パソコンのパフォーマンスが落ちる恐れがある。

 Adylkuzz の狙いはビットコインではなかった。匿名性を持つ仮想通貨 Monero(マネロ)を採掘して入手することだ。ウィルスは、パソコンがマネロを採掘してはハッカーに送金するようプログラムされている。

 南アフリカに住むMoneroコア・チームの1人、リカルド・スパグニの連絡先を探し出し、「新手のハッカーたちはどうやらビットコインよりマネロの方がお気に入りのようですね」とスカイプを通じて尋ねてみた。

 スパグニは開口一番こう言った。「マネロがどう使われるかには関与しないのがコミュニティーの方針さ。犯罪者が米ドル紙幣やインターネット、キッチンナイフをどう使うか議論したって詮ないことだと思わないかい?」(つづく)
(文中敬称略)


【用語解説】仮想通貨ビットコイン

 政府や中央銀行を介さず、P2P(ピァ・トゥ・ピァ)のネットワーク上で取引が行われるため、世界中の誰とでもスピーディーに取引できる暗号通貨。透明性を保てるよう全取引記録をインターネット上の台帳で閲覧できる。

 マイニングプログラムを使ってビットコイン1枚を1台のパソコンで生成するのに約1年かかる。流通量の上限は2100万枚に設定されている。08年にビットコイン論文を発表した謎の発明者「サトシ・ナカモト」については日本人ではなく、オーストラリア人の起業家クレイグ・ライトが自分だと名乗り出た。

 中国バブルでビットコインは13年12月に1147ドルという史上最高値を記録。その後、200ドル台まで暴落したが、再び高騰し、現在では2000ドルを突破した。

■木村 正人(在英・国際ジャーナリスト)
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

最終更新:6/2(金) 12:50
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