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油断ならない日米蜜月

6/2(金) 16:00配信

ニュースソクラ

トランプ政権の本質は「フリップ・フロップ」

 5月のゴールデン・ウィークを利用して米ワシントンに行ってきた。

 トランプ新政権の面々に会えるわけでもなく、友人・知人と旧交を温める程度だったが、それでも新政権の「実像」めいたものが少し見えてきた。

 「日本の見方は甘すぎると思う」

 こう話すのは、ブッシュ(子)政権時代に政府高官をつとめた知日派だ。大統領選挙期間中にトランプ氏を批判したため、共和党員なのに政権入りできない「ブラックリスト」に名前が載っているのだそうだ。

 そんな彼がこう指摘した。

 「安倍晋三首相と大統領の日米首脳会談がうまくいったので、そのムードに流されてしまっているが、この政権はいつどこで手のひらを返すか全くわからない。注意した方がいい」

 確かに2月の首脳会談はフロリダでのゴルフを含め「友好第一」が演出され、日本ではトランプ政権への警戒感が薄れている。メディアの論調も比較的鷹揚。元高官はそういう状況を警告しているのだ。

 大統領の周辺と日常的に接触しているワシントンの日本外交筋も見方は厳しい。

 「日米関係が緊張する場面が来る可能性はある。そのきっかけは通商問題だろう」

 この外交筋はそう話す。

 日米の経済問題は、麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領をヘッドにする「経済対話」の中で処理されることになった。しかし、ワシントンでこの枠組みはあまり認知されていないし、むしろ保護主義的な言動が目に付く。

 例えば、今年3月の米貿易収支統計で対日赤字が膨らんだことにロス商務長官は「耐えられない」という異例の声明を発表した。「日本や中国がアンフェアな貿易をして米国の雇用を奪っている」という選挙期間中の認識に変化はない。米通商代表部(USTR)代表に指名されたライトハイザー氏の就任も議会で承認され、保護主義的な主張は強まることが予想されている。

 ちなみにロス長官については、政権勤務を終えたばかりの友人が、「レーガン政権時代のボルドリッジやクリントン政権のブラウンのように、発言力のある実力商務長官になるだろう」と言っていた。

もう一つ興味深かったのは、現在ホワイトハウス周辺で経済政策をめぐっても権力闘争が激しくなっているという知人たちの指摘だ。一方に保護主義的なロス長官。もう片方にゴールドマンサックス出身のコーン国家経済会議(NEC)委員長。北米自由貿易協定(NAFTA)をめぐっても「見直し協議ではなく即離脱」の意見と「見直し協議に徹する」という主張が対立しているのだそうだ。

ちなみに、日本との経済対話の仕掛け人でもある実務官僚がこの権力闘争のあおりを受けて保護主義派から疎まれ一線から外されてしまった。枠組み協議の今後が描けなくなってしまっているのだという。

 旧知の議会スタッフのこういう指摘も重要だと思われた。

 「やはりこの政権は経済と安保を絡める」

 すでに通商法が発動され、鉄とアルミを対象品目として、米国への輸出が国家安全保障に影響を及ぼしているかの調査が始まっている。鉄で言えば厚板から特殊鋼板まですべての製品について調べられるのだそうだ。仮に「安全保障上問題あり」と認定されれば輸入規制を実施できる。経済と安保を関連付ける典型だろう。

 「狙いは中国とされているが、日本がとばっちりを受ける可能性は十分にある」というのが知人の説明だった。

 しかもトランプ大統領は最近こういう趣旨のことを言っている。

 北朝鮮問題をめぐって中国の習近平主席はよくやってくれている。だから為替操作国への認定はしなかった。

 裏返せば、北朝鮮問題で協力しなければ為替操作国に認定する、ということになる。これも安全保障と経済を絡めた物言いだし、このロジックは日本にも十分に適用可能だ。

 米国では発言や行動がぶれることを「フリップ・フロップ(flip-flop)」という。この政権、とりわけ大統領本人は主張をコロコロと変え「フリップ・フロップ」と批判されている。現実的と言えば現実的だが、政策に一貫性がない。

 ワシントンの外交筋は「この政権に対しては、過度な悲観もよくないが、過度な楽観も排すべきだ」と言う。

 今、この政権は国内問題の処理や権力闘争に忙しい。しかし、保護主義的主張のギアが一段上がったときに日米関係は緊張感を増す可能性がある。トランプ政権の本質は政策をめぐる「フリップ・フロップ」だ。油断しない方がいい。

 ワシントン訪問で得た結論だ。

■軽部 謙介(時事通信解説委員)
79年早大卒、時事通信に入る。那覇支局、ワシントン支局長、ニューヨーク総局長、解説委員長を経て、現在は解説委員。著書に「日米コメ交渉」(中公新書)、ドキュメント 沖縄経済処分」(岩波書店)など。

最終更新:6/2(金) 16:00
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