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世界の会社員ランチ事情、最新トレンドは

6/2(金) 11:01配信

ウォール・ストリート・ジャーナル

 ベルリンではオフィスビルの食堂がランチの人気スポットだ。サンフランシスコでは無料でグルメなデスクランチ。上海ではファストフードの配達が流行している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は世界の都市でランチタイムのトレンドについて取材した。

上海と北京

 中国の会社員にとって、かつて昼食はゆったりとした休憩の時間であり文化だった。食後の昼寝も珍しくなかった。今ではその伝統が圧力にさらされている。仕事のペースが速まっているうえに、80円ほどでランチを届けてくれるスマートフォンアプリも登場したためだ。

 中国の大都市では、ヘルメットをかぶった配達員がスクーターでオフィス街を疾走し、ビーフヌードルやスパイシーなチキンライスを腹ぺこの会社員に配達している。

 調査会社アナリシスによれば、中国の出前の件数は2016年には前年から倍増し、今年は67%増と予想されている。アイリサーチの試算によれば、同年の同国飲食店事業の10%は出前が担った。13年には5%だった。

 北京で公務員をしている43歳の女性は、職場のカフェテリアで同僚と食事ができた日々を懐かしむ。年下の同僚たちが豊富なメニューや割引につられてアプリで出前を頼むなか、最近は1人で食べることが多くなった。以前はカフェテリアへの行き帰りにお喋(しゃべ)りできたが、近ごろはオンラインメッセージでのやり取りがふつうだという。

ワシントン

 ロビー活動に対する規制、ランチタイムの飲酒減少、労働習慣の変化を受けて、古典的なビジネスランチは減少している。

 ジョージ・W・ブッシュ政権で駐ベルギー大使を務めた共和党員のトム・コロロゴス氏は「ビジネスランチは死に絶えた」と述べた。

 07年に起きたロビイストのジャック・エイブラモフ氏の汚職事件を受けて、議会はロビイストが議員やスタッフに物を贈ることを禁じた。議員の接待もしづらくなった。コロロゴス氏は「誰かにハンバーガーをおごればトラブルは必至だ」と話した。

 ワシントンで複数の高級レストランを経営するナイツブリッジ・レストラン・グループのオーナー、アショク・バジャジ氏は、以前に比べランチ客の飲酒が減ったと指摘。「若い世代はランチの席で酒を飲みたがらない」と述べた。

 フードトラック(移動式屋台)の普及でランチの選択肢は大幅に広がった。コロンビア特別区(ワシントン)が13年にフードトラックの駐車規制を緩和したことから、交通量の多い地区の一部でも販売することができるようになったのだ。

ベルリンとフランクフルト

 ドイツでは学校式の食堂が主流だ。最近の政府のリポートによれば、社員食堂でランチを取る労働者は約20%と、レストラン、ベーカリー、デリを合わせたよりも多い。

 社員食堂は宣伝こそしないものの一般の人も使えることが多く、温かい昔風の食事を手頃な価格(通常は10ユーロ《約1200円》未満)で提供している。

 例えば建築事務所デビッド・チッパーフィールドのベルリン事務所には、コンクリート打ち放しのおしゃれなランチルームがあり、予約なしで手作りの日替わりメニュー(パン、サラダ付き)が食べられる。ベルリンのティエルガルテン公園近くにある北欧諸国の大使館のカフェテリアは、平日午後1時以降は一般の利用も可能。

サンフランシスコ

 当地のランチ業界はIT業界の拡大から予想されるほどの恩恵にあずかっていない。原因は無料の食事だ。グーグルが始めたケータリング料理の提供は、シリコンバレー中心部にある他のIT大手では当たり前になった。エアビーアンドビー(Airbnb)、ピンタレスト、ストライプといったサンフランシスコの新参企業もこのトレンドを採り入れ、従業員がランチに外出しなくて済むようにした。

 12年夏にツイッターが同都市のミッドマーケット地区に移転してくると、経済活性化への期待が高まった。飲食店の開店が相次いだが、ツイッターがカフェテリアで凝った食事を無料提供したこともあってランチブームは到来しなかった。数年後に近くに移転してきた配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズも、やはり無料の食事を提供している。

 マーサー・レストラン・グループ系列の高級レストラン「ボン・マルシェ・ブラッスリー」はツイッターと同じビルに入居していたが、開店1年ほどで閉店した。マーサーのオーナー、マット・センメルハック氏によると、ランチタイムの客足を読み誤ったことなどから苦戦していた。

ロンドン

 ビールなどのお酒を中心にゆっくりランチを取る伝統は消えつつある。

 ミシュランの星つきレストラン「クラブ・ガスコン」のマネジャー、トーマス・ラビュエル氏によると、同店ではアルコール消費が「大幅に減った」。特に、今年ロイズ・バンキング・グループなどの大企業が平日の就業時間帯の飲酒を禁止した後は減少が著しいという。ガスコンは食事に合わせるワイン3杯を22.50ポンド(約3200円)で提供してきたが、新たに紅茶を3杯15ポンドで出すようになった。

 米国と同様、ロンドンでも出前やテークアウトを選ぶオフィスワーカーが増えている。デリバリーサービスの「デリバルー」によると、ロンドンでは会社のランチタイムの注文が過去1年に163%増えた。イタリアン、日本食、タイ料理が人気だという。

 一方、ガスコンでは、「プレタ・マンジェ(ファストフードチェーン)やテークアウトの店に行く人が増えたため」客足が減ったとラビュエル氏は話した。

 ロンドンを拠点とするプレタ・マンジェは昨年、英国に31店舗を新規開店し、同年の売上高は全体で15%増加した。

ロサンゼルス

 エンターテインメントの首都ロサンゼルスでは、ランチの打ち合わせは健在だ。

 ビバリーヒルズの「スパゴ」や「グリル・オン・ザ・アレー」などビジネスランチ向けの店は日中、混んでいる。準備万端の制作現場を離れずにフルサービスが受けられる、映画スタジオ内のレストランも同様だ。一方、ロサンゼルスは遅い朝食を簡単に済ませたり、手早くランチを取ったりする人の天国だ。俳優や脚本家、娯楽業界のフリーランスなどへのケータリングもある。

 地域で長らく親しまれてきた店が、家賃その他のコストの急騰を理由に廃業するケースもある。

パリ

 ボタンダウンシャツにタイを締めたウエーターが、マグレ・ド・カナール(フォアグラ採取後のカモ肉)を普通に出すようなカフェには、ランチ客は寄り付かなくなっている。マドレーヌ広場周辺では、特徴のない建物にやってきた会社員が、薄暗い通路を通り、ちっともフランスらしくないフードコートに吸い込まれていく。

 このフードコートでは中華料理店4店とフィッシュ・アンド・チップス店1店が、高級商業地区の企業で働く労働者を引きつけている。フランスらしいカフェの雰囲気はないが、山盛りのブンボー(ベトナムのめん料理)が10ユーロで食べられる。

 このフードコートに限らず、パリではこの10年に食の選択肢が爆発的に増えている。アジア料理店の開店が相次ぎ、ピザ屋や「フードシェリ」などの出前サービス店としのぎを削っている。

シカゴ

 フードトラックはダウンタウンの数ブロックに制限されているため、おなかをすかせた労働者はフードホールに向かう。

 シカゴのダウンタウンには、大手企業数社とその従業員数千人が移動しつつある。

 彼らを引き付けるべく、5カ所ほどの新しい屋内マーケットにタコスやコーヒーなどあらゆる種類の簡易店舗が集まっている。多くは別の地区に店を構える人気飲食店が運営する屋台だ。密集する屋台は青空市場の雰囲気を醸し出しており、悪天候も多いシカゴでは魅力となっている。

ニューヨーク

 ニューヨークといえば、ランチはマティーニでも飲みながら接待する場とされていたが、企業トップでさえランチをテークアウトして自分の席で食べるケースが増えている。

 シェイク・シャックやチポトレ・メキシカン・グリルなど、高級路線のファストフード店がテークアウト業界の重鎮だ。一方、マンハッタンのフラットアイアン地区やノマド地区といったおしゃれなかいわいでは、カウンター式の新たな店がランチ客を集めている。

 アプリサービスのおかげで、ランチのテークアウトがより簡単になった。会員制のプログラム「ミールパル」は、予約したランチをニューヨーク内各地の店で受け取る仕組みになっている。30日間に20食注文するコースの場合、1食当たり5.99ドル(プラス税・手数料)となる。

 フードトラックの人気も根強い。マンハッタンのミッドタウンでは人通りの多い通りに並んだトラックが中東料理のファラフェルや韓国料理などいろいろな食べ物を提供している。ニューヨークでは屋台料理の選手権「ベンディ・アワード」まで開催されている。

トロント

 ランチタイムに座席を離れたい会社員にとって、「PATH」ほどトロントの気候にあった場所はない。PATHはダウンタウン中心部に広がる全長32キロの地下街で、ファストフードはもちろん、サラダショップやすしバーなどさまざまな飲食店がある。

 デスクにとどまる人には、アプリを使った配達サービスも増えている。

 まとまった個数の食事を配達するサービスも人気が高まっている。「シェフズ・プレート」は14年以来、カナダ全域に数十万食を出荷した。